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住宅部門2050カーボンニュートラル推考②国交省の省エネ量計算を分析した理由

2回目の今回は、タイトルにもあるように、私がなぜ膨大な時間をかけて国交省の計算分析をしたのかについて述べたい。が、その前にこの連載に使っている写真が気になる方がいると思うのでそのことについて触れておこう。ここにある「TEAM 2050」というのは、2021年10月に初めて発表した言葉で、「2050年の住宅について、快適・健康の最大限の実現とカーボンニュートラルを目指すチーム」という意味だ。

これは何かの団体をつくろうというわけではなく、このことに賛同する人や会社が「自分は(自社は)TEAM2050の一員だ」と心の中で思ってくれればいいと考えて出した。その発表後、私の仲間がトレーナーをつくるときにこの言葉を背中に入れてくれたというわけだ。この連載は「TEAM 2050のあり方」を提案するものとして書いていくという位置づけになる。

理由①:極めて重要な基礎資料であること

これから2030年温室効果ガス46%削減という数値目標に向かってこの国は進んでいく。そしてこの数値目標を達成するために、住宅部門を含めた様々な部門での計画が立てられていく。そこにおいて住宅部門では、国交省計算資料がその計画の基礎資料になる。

エネルギー性能別着工割合

たとえば、前回にも示したこの計画を実現するための戸建て新築分野での施策が考えられていくことになる。またこれは各年度の達成評価にも使われるべきものだ。たとえば、2025年度においてこの計画にどこまで近いのか、また遠いのかを評価するための基礎資料となるはずだ。

また戸建て住宅の改修、共同住宅の新築や改修も含めて、たとえば2025年には住宅部門全体でこれくらいのエネルギー消費量にするという計画がこの国交省計算資料には含まれているので、その実態(結果)との整合性を見るときにも、ここに戻って評価するというのが基本的で不可欠な姿勢になるはずだ。

ということで、この国交省計算資料がいかに重要なものかがわかっていただけただろう。であれば、この国交省計算資料に基づき、国交省はどのような計算条件を設定して計算しているかの全貌を明らかにすべきだと考えたわけだ。それがわからなければ、「国交省の施策は大丈夫なのか?」とか「我々はどこまでうまく進んでいるのか?」が明確にわからないことになる。言葉は悪いが、今後の国交省の発表にごまかされる可能性だって出てくる。

理由②:国民には国交省の計算の内容を知る権利がある

理由①にも重なるが、国民にはこの計算の詳細を知る権利がある。言うまでもなく今後の施策には国民の税金が使われるわけであり、その施策の評価をする上で、計算方法の全貌がわかるような情報を国民に公開するというのは当然のことだ。

もちろん施策の評価をしようと思うような国民は一部だろう。しかし、それがごく一部だからといっても公開しない理由にはならない。

私はあり方検討会で国交省計算資料が出てきたとき、直感的に「国交省はこの全貌がわかる資料を出すつもりはないな」と感じた。だったら誰かがその全貌をつかみにいく作業をしないとダメだと考えた。そう考えたなら、誰かがこの作業をしてくれるのを待つのは適切ではないと考え、とりあえず自分でやってみようとしたわけだ。

ちなみに、ある人が国交省に「全貌(計算の詳細)が知りたい」と連絡を取ったそうだが、国交省は「これ以上のものを出すつもりはない」という返答だったということだ。残念ながら私の最初の直感は合っていたことになる。

理由③:問題点を明確にしたい

前回にも一部指摘したように、国交省計算資料には複数の疑問点がある。この疑問点(落ち度と思われる内容)を明確にし、さらにその落ち度を踏まえて「もしこうなったらどうなってしまうのか?」ということを定量的に示したかった。

たとえば前回挙げた「居室間欠暖冷房問題(居室間欠暖冷房のみの設定で計算しているという問題)」についても、もしこれだけ全館連続暖冷房が増えてしまったら日本の住宅部門の一次エネルギー消費量がどこまで増えてしまうのかということを具体的に示したかった。

それをやろうと思えば、国交省の計算方法の詳細を知ることが必要になる。

理由④:2050年カーボンニュートラルからのバックキャスティングを考えたい

もし国交省の計算方法が明らかになれば、そのロジックを2030年以降にも当てはめることで2050年の住宅部門全体のエネルギー消費量を計算することができる。

そうなれば、2022年~2050年までの新築や改修の様々な条件をパラメータ(変数)にして、そのパラメータを自由に設定することで、誰もが「どんな条件で進めば、2050年の住宅部門のエネルギー消費量がどうなるか?」という計算ができるようになる。たとえば、「どんな断熱性能の家がどんなペースで増えていけばどうなる」とか「どれくらいのペースで太陽光発電を設置していけばどうなる」とか「どんなレベルの省エネ改修をどんなペースでやればどうなる」というようなことがわかるということだ。

そんな計算ができるツールができ、一方で「2050年カーボンニュートラルを実現するための住宅部門でのエネルギー消費量の目標」を設定すれば、たとえば「2022年~2025年はこんな感じで進めないといけない」ということがわかってくる。これがまさしくバックキャスティングということだろう。

理由⑤:目標を整理し、明確にしたい

この1年間ほどで、住宅の温熱環境や省エネルギーについての議論が本当に活発になったと感じる。それは素晴らしいことだ。しかしそこで感じるのは「温熱環境と省エネとの整理が不十分ではないか?」ということだ。

たとえば「必要な断熱性能」に対する議論を例を挙げてみると、ある場面では温熱環境を軸にした議論が行われ、ある場面では省エネを軸に議論されている。本来は「それを分けつつ、しかも同時に議論していく」という姿勢でなければならない。たとえば「HEAT20のG2レベルにすべき」という主張があったとき、それが温熱環境の向上にどれくらい寄与しつつ、省エネ的にはどうなるかという両方の論点を持ったものでなければ、HEAT20のG2の適切な評価ができない。

そう考えれば、当然議論は暖冷房計画にも広がる。どんな暖冷房計画を前提としたHEAT20のG2なのかという設定をすることによってこそ、温熱環境と省エネという両方の視点を持った議論ができる。たとえば「全館空調でのG2」は相当高いレベルの温熱環境は得られるが、暖冷房エネルギーは増加する方向に進む。

ということで、住宅部門2050エネルギーシミュレーションでは、省エネという視点だけではなく温熱環境(断熱レベル)も評価できるようにしようと考えた。つまり、「2050年にはこれくらいの断熱性能の家がこれくらいの数になって、住宅部門全体のエネルギー消費量がこうなる」ということがわかるようにしようとした。こうすることで、温熱環境と省エネが整理されつつ同時に見えるようになると考えたわけだ。

このあたりが冒頭に書いた「TEAM 2050」が目指すもの(2050年の住宅について、快適・健康の最大限の実現とカーボンニュートラルを目指す)というところにつながってくる。我々は「快適・健康」と「カーボンニュートラル」を同時に実現したいはずだ。

理由⑥:信頼性の高いツールに発展させたい

これが最後の理由になる。こうしたツールを私が発表することによって、私以外にこうしたツールをつくろうとしている人と情報交換ができる可能性が出てくる。またもしかしたら同じようなツールをつくってみようとする人が出てくるかもしれない。そこでも情報交換や議論ができるかもしれない。

もしそうした方向にうまく進めば、私がつくったツールよりも(もしくは別の人がつくったツールよりも)信頼性や操作性の高いツールに発展するはずだ。

そうなっていけば、実際にそのツールを使ってみようとする人も増えていくだろうし、それは間違いなく適切な議論につながり、それぞれの人や会社の家づくりに大きな参考になるだろう。

残念ながら現時点では「私もつくってみてるんだけど…」というような連絡はないが、この記事がそういう連絡につながればとてもうれしい。

次回はいよいよ具体的な計算例を挙げながら、私の提案についての解説に進んでいこう。


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