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住宅の省エネ基準再考②

前回の補足

 前回では私の提案として「実現すべき室温のための建物性能と暖房スケジュール(暖房範囲、暖房時間、設定温度)の組み合わせに対する基準」を設ければ良いと書いた。この意味が理解しにくかったと思うので補足しておきたい。

 たとえば、次のような室温を実現させることを基準と考える。

・LDK:使用時には21℃を維持。起床時も18℃以上確保。         ・寝室:使用時には18℃以上確保。                   ・脱衣室、ホール、トイレ等の非居室:16℃以上確保。

 もしUA値が「省エネ基準~HEAT20のG1レベル程度」とした場合、この室温を実現するための居室間欠での暖房スケジュールはおよそ次のようになる。なお起床時間は7時、就寝時間は23時とし、非居室はヒートショックのリスクを考えた時間帯にしている。

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 こうした暖房スケジュールのときに、床面積が128㎡程度の建物(6地域)で計算してみると次のような結果になる。

【UA値=0.87W/㎡K(省エネ基準ギリギリ)の場合】                      ・暖房負荷:16,070MJ/年(4,464kWh/年)                  ・暖房費(すべての部屋でエアコン暖房):60,400円/年           ・暖房一次エネルギー消費量:21.9GJ

【UA値=0.56W/㎡K(HEAT20のG1レベル)の場合】                      ・暖房負荷:10,700MJ/年(2,971kWh/年)                  ・暖房費(すべての部屋でエアコン暖房):48,100円/年           ・暖房一次エネルギー消費量:17.4GJ

 次にUA値がHEAT20のG2レベル以上になると、次のような暖房スケジュールになる。LDKや寝室は変わらないが、非居室は無暖房でもほぼ16℃以上になるから空欄になる。

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 このときの計算結果は以下になる。

【UA値=0.46W/㎡K(HEAT20のG2レベル)の場合】                      ・暖房負荷:8,580MJ/年(2,384kWh/年)                  ・暖房費(すべての部屋でエアコン暖房):38,000円/年           ・暖房一次エネルギー消費量:13.8GJ

 私が前回提案したのは、このように、実現すべき室温をまず設定し、それを実現させる断熱レベル別の暖房スケジュールを提示するのが良いのではないかということだ。

 一次エネルギー消費量の計算は、現在と同じように「エネルギー消費性能計算プログラム(建築研究所のサイトで公開)」でやれば良い。ただし、たとえば「居室間欠暖房」を選択した場合は、UA値に従って暖房スケジュールが変わり、それで計算するのが現在と違うところだ。

 そうすれば、ここで計算したような結果が出てくるから、「暖房費を減らしたいから建物性能(断熱性能と日射熱取得性能)を上げたい」と思う人が増えるはずだ。また暖房エネルギーが減れば一次エネルギー消費量基準をクリアしやすくなるから、設備選択の自由度が高まり、設備関連のコストダウンの可能性も出てくる。

  いまの省エネ基準の計算では暖房スケジュールが決まってしまっているから、基準をクリアしていても、断熱レベルによっては不適切な室温となる住宅が出現してしまう。最低限確保すべき室温をまず決め、そこから断熱性能に合わせた暖房スケジュールを決める。この方法の妥当性は極めて高いと思うがどうだろう?

省エネ住宅=高断熱・高気密&光熱費削減住宅?

 この話も前回に少し触れたが、「とりあえず置いておこう」としたものだ。説明義務制度の補足資料として国交省がつくった「ご注文は省エネ住宅ですか?」という漫画にはこんなことが書いてある。

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 このように、「省エネ住宅=高断熱・高気密住宅」と読めるような表現になっているが、これには次のような様々な問題がある。

①省エネ基準をクリアした省エネ住宅は高断熱と誤解される可能性がある。

 UA値が省エネ基準ギリギリであるような住宅を「高断熱」と言って良いのか? 確かに、現状の既存住宅(つまり新築する前に施主が住んでいる家)に比べると「高断熱」なのだろうが、「高断熱」という表現は“相対的に”ではなく“絶対的に”断熱性能が高いと受け取られる言葉だろう。このあたりの表現をもっと慎重に考えるべきだ。

②外皮基準には断熱性能だけではなく日射遮蔽性能の基準もある。

 「断熱性能が高い=日射遮蔽性能が高い」という誤解はプロでもよく見受けられる。もしこれが正しいのであれば、ηAC値の基準など不要でUA値だけあれば良いことになる。「日射遮蔽性能が高い(ηAC値が小さい)=躯体の断熱性能が高い&窓の日射遮蔽性能が高い」が正しい理解であり、断熱性能が高いだけでは「夏涼しい」は保証されない。「断熱性能が高い=日射遮蔽性能が高い」という誤解をさらに蔓延させてしまうような記述の罪は重い。

③外皮基準には気密性能の基準がないのに「高気密」を持ち出してよいのか?

 基準がない状況では「どこからが高気密か?」ということが判断できないはずで、「高気密」という表現には根拠がなくて不適切。さらには「外皮基準をクリアした住宅は(なんとなく雰囲気として)高気密になるんだ」という誤解も招く。

④外皮基準をクリアした住宅は「夏涼しく、冬暖かい」という誤解を招く。

 外皮基準をギリギリでクリアしているような住宅は「十分に夏涼しく、冬暖かい」とは言えない。確かに入居して1年目くらいは「新築前に住んでいた無断熱に近い家」に比べて「夏涼しく、冬暖かい」と感じるだろうが、住み続けていくと不満を感じるレベルだ。

 まだ指摘したい内容もあるが、このあたりにしておこう。

 こうした問題は、「外皮基準のレベルが高くないこと」と「外皮基準をクリアする住宅を増やしたい」と考える国の意向との矛盾によって生じている。今の外皮基準は「国が考える最低限のレベル」という位置づけなので、当然高いレベルではない。しかし外皮基準をクリアする住宅を増やしたいから、(最低限のレベルなのに)その外皮基準をクリアする住宅のメリットを表現したい。そこに矛盾が生まれてしまう。さらには、こうした漫画は施主向けでなのでわかりやすく書きたいから、たとえば日射遮蔽性能のことをきちんと説明するのを避けざるを得ない。

 しかし本気で「快適で健康的な省エネ住宅」を増やしていきたいと考えているのであれば、もっともっと練った戦略を考えるべきだ。たとえば現行の外皮基準のレベルについても、実際のところ(最低レベルであること)をきちんと伝えるべきだろう。それに施主が納得するのであれば問題はないし、それでは満足できない施主はさらに高いレベルを望むことになり、それは我が国の住宅全体の外皮性能のレベルアップにつながるはずだ。矛盾を抱えながらいまの省エネ基準が高いレベルにあると誤解されるような表現をするよりも、いまの省エネ基準が最低レベルであることを言うほうが圧倒的に適切ではないか。

 今回はこのへんで。まだ言いたいことが残ってしまったので次回に。

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