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NODUS vol.2.5 ─11のコレスポンダンス─

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https://nodus2010.tumblr.com/haydnconcert オンライン配信企画「NODUS vol.2.5 ─11のコレスポンダンス─」のプレイベントとな… もっと読む
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2022年3月の記事一覧

序文 - NODUS vol.2.5 ─11のコレスポンダンス─

序文 - NODUS vol.2.5 ─11のコレスポンダンス─

■ハイドン没後100年企画について

ヨーゼフ・ハイドン没後100年にあたる1909年、音楽学者ジュール・エコルシュヴィル(1872-1915)の提唱により、フランス・パリの音楽雑誌「ルヴュ・ミュジカル・S.I.M.((S.I.M. = Société Internationale de Musique = 国民音楽協会)」は六名の作曲家にハイドンの音名象徴による動機を与え、それらを用いた短いピア

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モーリス・ラヴェル 「ハイドンの名によるメヌエット」(1909)

モーリス・ラヴェル 「ハイドンの名によるメヌエット」(1909)

作曲家 モーリス・ラヴェルについてモーリス・ラヴェルは1875年3月、フランス南西部のスペインに近いバスク地方のシブールで生まれ、バスク人の母とスイスの発明家の父の元で育った。
ストラヴィンスキーから「スイスの時計職人」と異名を授かった彼は、精緻で完璧主義的な書法と人間味を兼ね備えた、いわば「感性と知性の中間点(本人談)」を目指した作風を特徴とし、近代フランスの音楽界に大きな影響を与えている。

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石川潤 「薄められていくハイドン」(2022)

石川潤 「薄められていくハイドン」(2022)

概要 〜 ハイドン音列の消失この作品はハイドンの音列に固執しながら溶解していく過程を描いた音楽である。
ハイドンの音列だったものはさながら浴槽に投げ込まれた砂糖玉のように、
面影を失い、自我を消失させていく。
それはまるで、咀嚼と消化の過程のようである。

十二音技法による自我の喪失この作品は十二音技法を「自我の喪失」の効果として用いている。
十二音技法は、ドからシまでのオクターブ内の十二音を、一

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ポール・デュカス 「ハイドンの名による悲歌的前奏曲」(1909)

ポール・デュカス 「ハイドンの名による悲歌的前奏曲」(1909)

作曲家 ポール・デュカスについてポール・デュカスは1865年10月にパリに生まれた。性格は寡黙で完璧主義、自分に大変厳しくそれゆえ自作品の多くを自らの手で破棄してしまい、現存する彼の作品はかなり限られている。作曲や評論のほか、後年は母校であるパリ音楽院やエコール・ノルマルで教鞭も執り、弟子にはオリヴィエ・メシアンなどがいる。代表作は「魔法使いの弟子」「アリアーヌと青ひげ」「ピアノソナタ」など。

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増田達斗「夢の中のハイドン」(2022)

増田達斗「夢の中のハイドン」(2022)

曲名の由来シュルレアリスムの絵画が好きでして、昔から大変馴染み深い作曲家の一人であるハイドンを、そんな絵画のように登場させられたら面白いだろうな、という思いから当作品を書きました。もっともここでは”ハイドンの音名象徴”ですが。

シュルレアリスム=超現実主義の大きな流れの一つに”デペイズマン”という概念があります。本作「夢の中のハイドン」を構成するにあたりこれは重要な発想の源であったため、楽曲分析

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ヴァンサン・ダンディ「ハイドンの名によるメヌエット」(1909)

ヴァンサン・ダンディ「ハイドンの名によるメヌエット」(1909)

作曲家 ヴァンサン・ダンディについて

ヴァンサン•ダンディは1851年3月に生まれたフランスの作曲家である。君主主義で反ユダヤ主義などの過激な政治的思想でも知られていた彼はしばしばその偏見によって悪く評価されてしまう事があるが、しかし今日では型破りな手法を表現手段に用いる「脱構築者」として肯定的な評価を得ており、教師としてもサティ、ルーセル、マルティヌーなど後の音楽界に影響を与える作曲家を門下に

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渡部真理子「うっかりメヌエット」(2022)

渡部真理子「うっかりメヌエット」(2022)

勤務している学校の初見授業課題を作成したり、ピアノ作品を初演して頂いたり、2021年はピアノ曲とご縁がある年でした。
NODUSのメンバーとこの企画を考えていた頃、作品を作るにあたって一番先に思い浮かんだことが、「子供のための作品」でした。

概要
本作の題名である「メヌエット」は、多くの作曲家がピアノ曲に残しています。
メヌエットは割と穏やかな性格の曲ですが、本作は、メヌエットを学んでいる(踊っ

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レイナルド・アーン「ハイドンの名による主題と変奏」(1909)

レイナルド・アーン「ハイドンの名による主題と変奏」(1909)

作曲家 レイナルド•アーンについて

レイナルド・アーンは1875年8月ベネズエラの外交官でユダヤ人の父親と、スペインのバスク人の母親の元で生まれ、フランスで活躍した作曲家である。奇しくもラヴェルと同じバスク人のハーフだが、バスク地方の音楽を作風に取り入れたラヴェルとは対称的に、アーンの作風は至って古典的であり、むしろラヴェルらの前衛的な潮流から距離を置いていたとされる。
多くの作品を遺したが、中

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辻田絢菜「ハイドンのおまじない」(2022)

辻田絢菜「ハイドンのおまじない」(2022)

作品概要「名前の綴りを音に置き換える」という古くから使われてきた手法について、実際に響く音と文字との関連性について昔から少しだけ疑問に思う部分がありました。そこでこの二つの点について自分なりの結びつきを見つけたいと思ったのが今回の作品のアイデアの発端になりました。

話は変わりますが、昨年魔女をモチーフにしたファッションブランドのショップに伺う機会があり、現代魔女の思想や、魔女に伴う文化についてと

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シャルル=マリー・ヴィドール 「ハイドンの名によるフーガ」(1909)

シャルル=マリー・ヴィドール 「ハイドンの名によるフーガ」(1909)

作曲家 シャルル=マリー・ヴィドールについてシャルル=マリー・ヴィドールは1844年2月にフランスのリヨンにてオルガニストの父と発明家の母の間で生まれた。チャイコフスキーと同世代であり、1909年の「ハイドンの名による」作品の作曲家の中で最も高齢である。
ヴィドールは超絶技巧のオルガニストとして知られており、今日では全十曲あるオルガン交響曲が代表的な作品として知られている。その作風はシューマンやメ

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青柿将大「吃音研究I -ハイドンに基づく-」(2022)

青柿将大「吃音研究I -ハイドンに基づく-」(2022)

ここ数年、音楽における(例えば楽器や声、テクスト、既存の音楽作品などの)アイデンティティの剥奪・喪失と再定義が自身の創作上の興味を占めており、今作も例外ではありません。
今作ではまず、ハイドンのピアノ・ソナタHob.XVI:6・第一楽章からハイドンの音名象徴(H・A・Y・D・N=シ・ラ・レ・レ・ソ)のみを、セクションごとにそれが次第に“成長・完成”していくように抽出しました(即ち、セクション1では

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クロード・ドビュッシー 「ハイドンを讃えて」(1909)

クロード・ドビュッシー 「ハイドンを讃えて」(1909)

作曲家 クロード・ドビュッシーについてクロード・ドビュッシーは1862年8月、パリの西部であるサン=ジェルマン=アン=レーにて陶器屋の父と裁縫師の母の間に生まれた。
いわゆる「印象主義」を代表する作曲家として知られており、調性音楽のスケールを使用しながらもその枠にとらわれない新しい響きを切り開いた。その功績は、フランスの現代音楽を牽引したブーレーズから再評価されており、またさらに特筆すべき事として

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