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レイナルド・アーン「ハイドンの名による主題と変奏」(1909)

作曲家 レイナルド•アーンについて

レイナルド・アーンは1875年8月ベネズエラの外交官でユダヤ人の父親と、スペインのバスク人の母親の元で生まれ、フランスで活躍した作曲家である。奇しくもラヴェルと同じバスク人のハーフだが、バスク地方の音楽を作風に取り入れたラヴェルとは対称的に、アーンの作風は至って古典的であり、むしろラヴェルらの前衛的な潮流から距離を置いていたとされる。
多くの作品を遺したが、中でも歌曲《私の詩に翼があったなら》が今日最も有名な作品として知られている。

「ハイドンの名による主題と変奏」について

アーンの《ハイドンの名による主題と変奏》は、テーマと5つの変奏からなり、古典的で簡明なスタイルと響きをもっている。
ルヴェ•ミュジカルのハイドンの名に拠る企画は、純粋に近代フランス音楽の洋式だったり新古典派的な解釈だったりするものが多く、ハイドンの時代の様式を用いた曲がアーンを除いて無い。これは企画の特長とも言えるし、逆にあえてこの中で古典派を貫いたアーンにも一つの個性を見出すことができると言えよう。
(これは余談だが、本企画の新曲もハイドンを何らかの形で引用してるとはいえハイドンの様式で構成された曲は無いため、11曲の中でアーンだけが「最もハイドンらしい」ということになる。)

主題は二部形式。メヌエット調の穏やかな曲調。前半はHAYDNのテーマによる問いかけと答えであり、後半はダンディの項でも紹介したヘミオラを用いて発展し、最後はHAYDNの音列で完結する。

第一変奏は十六分音符による装飾的変奏で、細やかな指の動きを見せるものとなる。

第二変奏は主題に回帰しながら一部シンコペーションで少し崩したような変奏で、シンプルながら躍動感のある展開を見せる。この崩したリズムは次の変奏への橋渡しにもなる。

第三変奏は同主短調に転調し、ホケトゥスのようなリズムで静かにせきこむように進む。わずかながら右手に主題のメロディの動きが垣間見える。

第四変奏は主調に戻り、三連符による装飾的変奏が行われる。第一変奏とは和声等に微妙な差異がある。

第五変奏はテンポも拍子も変えて快活な性格となり、この曲のフィナーレを明るく飾る。

演奏者からのコメント

こちらは極めて古典的な作品です。完全に18世紀後半~19世紀初頭の曲調ですね。そしてハイドン音列がすんなりフィットしていることに思わず笑みがこぼれます。古典派の変奏曲を弾くときのアプローチそのまま、各音符の発音を明瞭に描きつつ各変奏のキャラクターを引き出すことを心掛けました。
(増田達斗)


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