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【短編小説)】枝葉(全7話)

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祖父の遺産相続の話から、行方不明の叔父の痕跡を追うことになった佳穂。叔父の『最後の住所地』で聞いた話、そして雪国からの手紙。わずかな手がかりを元に旅先で佳穂が見つけたものとは、、、
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短編小説|「枝葉」 (第1話/全7話)

短編小説|「枝葉」 (第1話/全7話)

森を抜けると景色は一変し、やがて海が見えた。

私はスマホで音楽を聴きながら車窓から外を眺めている。乗車した駅で買ったホットの焙じ茶は、ずいぶん前に冷たくなってしまった。バッグからアーモンドチョコレートの箱を取り出して、1つ摘まんで食べる。コーヒーがあったら良いのにな、と思う。

「お、佳穂。チョコ持ってんじゃん。おれにも1個くれ」

「うるさいよ洋人。いまさあ、やっと海が見えて旅気分を満喫しよう

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短編小説|「枝葉」 (第2話/全7話)

短編小説|「枝葉」 (第2話/全7話)

その4日後。覚さんから家に連絡があった。

「佳穂、今から覚さんのところに話聞きに行くけど、あんたも来なさい。暇でしょ。有希ちゃんも行くって」

「暇でしょ、は余計でしょ。まあ、時間はあるから付き合ってもいいけど」

「はいよ、じゃあ車乗って」

私は自分が関わった戸籍収集の結果に興味があった。戸籍というものを見るのも初めてだし、家族の成り立ちについても知りたいと思っていた。

「ええとですね、長

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短編小説|「枝葉」 (第3話/全7話)

短編小説|「枝葉」 (第3話/全7話)

電車が出発し、私の住む町はすぐに見えなくなった。山間部に入り、日が遮られた線路は寂しさを感じさせたが、電車の中は暖房が効いてとても暖かい。

「佳穂、ちょっと今日の打ち合わせしないか?」

「えっ、うん。洋人、覚さんに何言われてきたの?」

「ああ、それも伝えようと思ってな。まず、席、座って良いか?」

「今だけね。打ち合わせ終わったらあっち行ってよ」

「はいはい、分かってますよ。今日行くのは、

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短編小説|「枝葉」 (第4話/全7話)

短編小説|「枝葉」 (第4話/全7話)

私と洋人は町に戻り、叔父さんの最後の住所地に行ってアパートのおばちゃんと大家さんに聞いた話を、洋人のメモとともに覚さんに伝えた。

「そうか、やっぱりいなかったか。最後の住所地にいないってことは、手続き上はこれでいけるかな。不在者財産管理人」

「これだけでいいんですか?叔父さんはまだどこかで生きているかもしれないじゃないですか」

「佳穂ちゃん、もしかしたらそうなのかもしれない。叔父さんは生きて

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短編小説|「枝葉」 (第5話/全7話)

短編小説|「枝葉」 (第5話/全7話)

幸いホテルは2室確保できた。とりあえず、これで今日は風雪をしのげる。そう思うだけで安堵した。ただ、こんな旅でも洋人と一緒というのが気に入らなかったけど。

「そう文句ばっかり言うなよ。おれだって巻き込まれてんだからな」

ホテル向かいの焼き鳥屋でビールを飲みながら洋人も文句を言った。

「確かに。これは我が家の問題だからね。でもさ、嫌だったら断ってもいいんだよ」

「いや、嫌とは言ってない。でもな

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短編小説|「枝葉」 (第6話/全7話)

短編小説|「枝葉」 (第6話/全7話)

「あの、お時間があるのであれば、ちょっと上がってお話しできませんか」

私は耳を疑った。

「お話って、、、」

「長谷川修治のことです。私も、お話したいことがあります。どうぞ、寒いので、入ってください」

驚きで声が出ない。とにかく、お宅に上がらせてもらおう。

「子どもが散らかしてまして。汚いところですけど、お掛けください」

リビングに案内され、ソファーに座るよう促された。部屋の中はとても暖

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短編小説|「枝葉」 (第7話/全7話)

短編小説|「枝葉」 (第7話/全7話)

米沢から戻った翌日、私はバイトが終わった夜に覚さんの事務所を訪ね、旅の全てを報告した。

「良い出会いだったみたいだね。私はただの遠い親戚のおじさんだけど、優さんに会いたくなったよ」

「うん。すごくいい人だったよ。なんといっても、私に似た美人さんだった」

「いや、優さんの方が圧倒的に美人だったぞ。お前、完敗だ」

「なんだよ洋人!あんただって似てるって言ってたでしょ!」

「雰囲気がな」

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