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起業と言葉vol.002 / Dropbox

(株)NOBU PlanningのCEO兼ビジョンライターで、縦型グルメSNS「Popdish」のCEO(Chief Eating Officer)をしています、起業家のノブです。元電通のコピーライターとして、「起業と言葉」について触れていきます。前回の記事にもたくさんの反響をいただき、やる気になったので(#褒められると伸びるタイプ)今回はその第2弾です。
第1弾を見逃したという方は、ぜひ以下の記事をご覧ください。なぜ私が起業と言葉について書こうと思ったのか、その理由なども書いています。


「ピッチ」と「プレゼン」の違い

さっそくですが皆さんは、ピッチとプレゼンの違いは何ですか?と聞かれて、すぐに答えることができますでしょうか?そんなの当たり前だろ、という方は読み飛ばして頂いて構いませんが、明確に定義を説明できる自信がない、という方はぜひ読んでいただければと思います。ここからは私の理解なので、いやいや違うよ、こういう定義だと思うよ!という方はぜひ優しくご指摘コメントしてください。(#批判コメントや誹謗中傷は傷つくから書かないでw)

ピッチとは何か

ピッチとは、5W1H(WhenとWhereは統合)で見ていくと、下記のように定義できると思っています。
WhenWhere/いつどこで:ピッチ会場やVCさんとの面談や交流会の場で
Who/誰に:不特定多数の、自社サービスに興味がない人たち(主にVCや事業会社やその他人々)に対して
What/何を:まだ世の中にない、新たな自社サービスや商品を
Why/なんのために:自社のサービスに共感してもらい、資金調達や事業提携するために
How/どのように:なるべく簡潔に、ポイントを短時間で説明する

プレゼンとは何か

一方でプレゼンとは、下記のように定義できると思っています。
WhenWhere/いつどこで:顧客のオフィスおよびあらかじめ指定したリモート環境(zoomやTeamsなど)で
Who/誰に:自社の既顧客、もしくはこれから新規の顧客となるであろう、サービスに関心を持ってくれそうな人に対して
What/何を:すでに世の中にある、あらかじめ決まった商品やサービスについてを
Why/なんのために:自社の商品やサービスを購入してもらうために
How/どのように:なるべく詳細に、特徴や内容を時間をかけて説明する

つまり全く違うけど両方必要だよってこと

このように比較して書くと、ピッチとプレゼンは、全く違うものであるということがわかるのではないでしょうか。もちろん、どちらが良い悪いという話ではなく、スタートアップにおいても、両方を場面や自社のステージによって使い分けていく必要があります。
しかし、この部分を理解せずにピッチコンテストなのに、相手が自分の業界について知っている前提で話してしまう、詳しすぎるプレゼン資料を用意してしまう、ということや、事業の詳細を説明するべきプレゼンテーション資料が必要な場なのに概要だけのピッチ資料しか用意していなかった、という話を聞いたりします。
スタートアップ界隈ではピッチ資料が出回ることが多いですが、ちゃんとした事業計画書などのプレゼン資料も用意しておきましょう。

ピッチ資料は、どこまで装飾するべきか

この連載では(#勝手に連載化決定!)、ピッチ資料の言葉について触れていきますが、ピッチ資料はどこまで装飾すべきでしょうか。

そのビジュアルやアニメーションは果たして必要なのか

私を含めて、多くの人は、「1スライド1メッセージ1ビジュアル」と言ったことをどこかで聞いたことがあり、どうにか実践しようとしていると思います。しかし、ビジュアルやアニメーションにこだわりすぎるあまり、一番伝えるべきことがぶれてしまったり、ビジュアルに引っ張られすぎて、間違った意図で相手に伝わってしまうということもあると思っています。

いきなりパワポ禁止令

誤解を恐れずに書いてしまうと、私は素晴らしい事業内容であれば、ビジュアルは不要だと思っています。(#あったほうがいいけどあくまで補足のイメージ)
むしろ、文字だけでピッチ資料を書いて、相手に伝わらなければ、そのピッチ資料および事業内容にはなんらかの欠陥があると思っています。ですので、ピッチ資料の作り方について聞かれた時は、まずはワードで段落を区切って、1段落(1スライド)1メッセージになるように文字だけで書き、それをトークスクリプト(ピッチの時の話し言葉)にした上で、初めてパワポを触ることをお勧めしています。この作業は一見遠回りに見えるのですが、結果的に大きな時間短縮になると思います。私ははっきり言ってパワポの作業が早い方ではないですが、ワード資料さえちゃんとできていれば、パワポのピッチスライドは1日で作ることができます。むしろいきなりパワポを触ると、スライドのデザインやアニメーションにこだわりすぎて、話の内容やロジックが途中で飛んでしまう危険もあり、話す練習してみた段階になってスライドの順番を入れ替える必要が出てきたりして、余計に時間がかかると思っています。

Dropboxのピッチデッキ

そう言った視点で見ると、今回紹介するDropboxは、文字だらけで、素晴らしい資料だと思っています。(#いい意味でワードをコピペしたような資料)

デモ動画が中盤に含まれていますが、ほとんどが文字。というスライドですが、各ページの言いたいことはしっかりと伝わる、秀逸なピッチ資料です。
Y Combinator 出身のスタートアップの中でも、初期の大成功事例としてよく語られるDropboxが創業したのが2007年。表紙の「Moving the world's files」(世界中のファイルを移動させる)という言葉に、世界進出への意志を感じます。(Y Combinatorについて知らない人は下記を読んでみてください。シリコンバレーの熱気やリアルが伝わりオススメです。)

Dropboxのキースライド

共感を呼ぶ入り方

まずはじめに、ピッチを聞いた人の共感を呼ぶような、ファイルの保管って大変だよねっていう、あるある話からスタートします。

パソコンの分厚さが時代を感じる・・・
ファイルやデータに関するあるあるネタで共感を呼ぶ

今と未来の比較

そうそう、大変なんだよって思った後に、今はどのように対処してるんだっけ?が続きます。

今はどんな手段で対応しているかを記載

そして「In the perfect world...」と書かれた未来の提示。

タイトルがかっこいい。未来からの逆算

Your files available wherever you are, on any device

Dropbox

この後も資料は続くのですが、このスライドまでで、ピッチを終了しても資金調達ができる。そう思わせる未来(「In the perfect world」)から逆算した言葉になっています。

もしも、他の順番だったらDropboxは生まれていない?

でももし、この一文が、表紙の次に来ていたら、ここまでグッとくる言葉にはなっていないと思います。ペインへの共感、今の代替手段、そしてこのパーフェクトな未来を提示されるからこそ、この一文の言葉の力は最大化される。そう思わざるを得ません。そういう意味で、Dropboxの創業者は名コピーライターだと言えます。

BeforeとAfterの差分の大きさは、問題解決の大きさである

自社のビジネスモデルや、革新性、ユーザー数や流通金額といったトラクション数値についてはどの企業も触れているものの、意外と抜け落ちてしまうのがこのBeforeの視点。今はその課題がどのように扱われていて、代替手段として自社サービス以外の何が使われているのか。競合分析や市場分析と言ってしまえばそれまでですが、そのBeforeと、自社のサービスが使われることで訪れる未来の世界(After)の差分が大きく、その解決が鮮やかなほど、解決できる問題は大きくなり、ピッチとしての説得力は大きく上がります。このBefore→Afterをわかりやすく示すために、実際にユーザーにデモプロダクトを触ってもらったシーンをムービーにしているようなスタートアップもよく見かけますが、ピッチにおいては非常に効果的な手法と言えます。

言葉の手法=Before→Afterで未来を提示する

DropboxはBefore→Afterをたった2枚のスライドと数行の文章だけで鮮やかに提示しました。ここでは、同じように企業が今と未来を比較することで、世界を変えた広告コピーの事例を紹介します。

未来を提示した広告コピー①東陶機器(現TOTO)

広告コピーの世界でも、今と比較しながら未来を提示した名コピーがあります。

おしりだって、洗ってほしい。 

東陶機器(現TOTO)ウォシュレット

今でこそ日本では当たり前に広まったウォシュレットという技術が登場したのが1982年。東京コピーライターズクラブの元会長にして、あの糸井重里さんとも比較されることの多い、コピーライター界の巨匠、仲畑貴志さんのコピーです。このコピーには、実は前段があり、その部分が非常に秀逸なBeforeの説明になっています。いきなりおしりの話をするのではなく、「手や顔は水で洗うでしょ」→「紙で拭く人っていないよね、どうして」→「紙で拭くと汚れがキレイにならないものね」→「おしりだって洗ってほしい」と続くのです。一つの広告内でBeforeとAfterを鮮やかに比較し、「おしりを洗う」という新しいウォシュレットの文化を、破壊的な説得力を持って説明した名コピーです。

ウォシュレット発売当時の広告。Before→Afterのお手本

未来を提示した広告コピー②Apple

あのスティーブ・ジョブズ氏が、iPodが初めて世に出るときのプレゼンテーションで説明し、発売時の広告キャッチコピーにもなったこの言葉も、Before→Afterによる未来の世界の提示と言えます。

1,000 songs in your pocket.

Apple iPod発売告知


iPod発売時の広告

iPad発売当時(2001年)は市場を革新したSONYのMDプレーヤーなどが主流の時代で、まだCDプレーヤーを使っている人もいるという状況でした。(#MD懐かしすぎ)
知らない若者のために記述しておくと、MD(ミニ・ディスク)は1枚あたり74〜80分の録音が可能で、せいぜい15〜20曲、倍速録音機などを駆使しても40曲程度が録音の限界だったと記憶しています。そして、CDの場合はもちろんですが、MDでもディスクと再生プレーヤーを持ち歩くと、かなりかさばるという状態でした。
そのBeforeの前提がある中で、Appleは「1,000曲」を「ポケットに入るサイズ」にしてしまったのです。下記が実際のジョブズ氏のプレゼンテーションです。現在のCDプレーヤーなどの市場についてきっちりと前半で説明しつつ後半でAppleの技術が変える世界を提示し、そして極め付けには「それが今ここにあります」と言って、説明の最後に自らのジーパンのポケットから、iPodの実物を取り出したのです。(#いま見てもこれは拍手喝采)


見ているだけでワクワクしてしまう映像です。ジョブズ氏の話すスピードやトーンなど、すべてが参考になります。映像を見ていたら、この動画だけで1本記事が書けそうな気がしてきましたが、「他の言葉の手法も早く知りたい」という、たくさんの読者のアンコール?をいただいておりますので、本日はこのへんで。

今回は、コピーライターの視点で、スタートアップやベンチャーの起業家向けにピッチとプレゼンの違いや、ピッチ資料の効果的な作り方、そして未来を提示する言葉の手法についてまとめてみました。
起業をしていなくても、すべての会社の新規事業や、広告やマーケティング活動、企業の広報やPR活動においても、これからの時代に言葉のチカラは必須だと思います。
ビジョンライティングやブランドを規定する言葉を作りたい方は、ぜひお気軽にご連絡ください!(顔が怖いと言われますが優しいタイプですw)

NOBU Planning CEO / ビジョンライター
縦型グルメSNS「Popdish」CEO(Chief Eating Officer)
鈴木宣彦
nobu@nobuplanning.com
https://twitter.com/meshiran_nobu

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