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感想

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#ホラー

『奇妙な絵』ジェイソン・レクラク(著)中谷友紀子(訳)

オカルトで、ホラーで、ミステリ。お見事!  助走(というかトンネル)が本の半ばまで続き、主人公マロリーの弱さやヒステリックなところに読者がうんざりしてからの流れが素晴らしい。まさかそう来るとはね! ベテラン作家のような貫禄を感じる。 お話は、薬物リハビリ明けの主人公マロリーが、社会復帰のためベビーシッターの職を紹介され、なんとか就職にこぎつけるも、5歳のテディはアーニャという見えないなにかと喋ってるし、本人の知らないうちにホラーな絵を書いてるし、それがどんどんエスカレートし

『その昔、N市では』マリー・ルイーゼ・カシュニッツ(著)酒寄進一(訳)

不気味、ホラー、理不尽、嫌系などの短編集。知らずに読んだので、しょっぱなから、ん??となったが、ネガティブなだけでなく、詩的だったり微妙に美しかったりする奇妙な魅力があり、なんとも奇妙な読後感。酔ってるが気持ち良いのか悪いのかわからない、みたいな。 カシュニッツは戦後活躍したドイツの作家。半世紀以上前の作品だが、編者のチョイスのおかげか、今の作品と言われても気づかないかも、というレベル。不思議な話ばかりなのに、芯が普遍的なんだろうね。人間はそうそう変わらない、ということが楽

『真夜中のたずねびと』恒川光太郎(著)

今作はホラー成分多め。しかも読後嫌な気分になるやつ。クズ率が高い。個人だけでなく社会も腐ってる。まるで現実のようで気が滅入るが、主人公たちの超然とした姿に心が雪がれる。 特に好きなのは以下2つ。 ずっと昔、あなたと二人で阪神大震災で孤児となった女の子が空き巣で生きていくお話。ある日霊能者と出会い、天使として指令をこなしてゆく。ある日、大きな任務として子供の死体を回収しに行くのだが…。 胡散臭い霊能力者の家とはいえ、安住の地ができてよかったなぁと油断してたので終盤の超展開

『無貌の神』恒川光太郎(著)

古い順に読んでいて、最近はあんまり好みじゃないな…という気持ちだったのだが、これは初期に近く、ホラー寄りでかなり好み。それでいて史実を取り込む最近のやり方と合わさっており、進歩を感じる。 掲題作『無貌の神』の世界観はお見事で、不気味ながらも、自分も行って食べてみたいと思わされる。でも行きたくないかな(笑) 『カイムルとラートリー』はほのぼの枠。異形が純真なのはずるいよねぇ。ラストも卑怯としかいえない。作者の「お前らこういうの好きだろ?」というニヤニヤが見えるよう。大好物で

『カミサマはそういない』深緑野分(著)

目を覚ましたら、なぜか無人の遊園地にいた。園内には僕をいじめた奴の死体が転がっている。ここは死後の世界なのだろうか? そこへナイフを持ったピエロが現れ……(「潮風吹いて、ゴンドラ揺れる」)。僕らはこの見張り塔から敵を撃つ。戦争が終わるまで。しかし、人員は減らされ、任務は過酷なものになっていく。そしてある日、味方の民間人への狙撃命令が下され……(「見張り塔」)。現代日本、近未来、異世界――様々な舞台で描かれる圧倒的絶望。この物語に、救いの「カミサマ」はいるのか。見たくない、しか

『私はフーイー 沖縄怪談短篇集』恒川光太郎(著)

ヨマブリと胡弓の響き、願いを叶えてくれる魔物、ニョラの棲む洞窟、林の奥の小さなパーラー、深夜に走るお化け電車、祭りの夜の不吉な予言、転生を繰り返す少女フーイーが見た島の歴史と運命とは― 短編7編。沖縄土着の怪談アレンジかと思いきや、舞台が沖縄なだけで、いつもの恒川光太郎。ホラー寄りだが、比嘉慂の『美童物語』みたいに洗骨とか黒い歴史にはあまりふれてない。 前半は正直イマイチで、沖縄である意味が薄く、むしろ足をひっぱてる印象だったが、戦争の歴史が絡んでくる後半は呼応するように

21世紀の地獄『テスカトリポカ』佐藤究(著)

メキシコのカルテルに君臨した麻薬密売人のバルミロ・カサソラは、対立組織との抗争の果てにメキシコから逃走し、潜伏先のジャカルタで日本人の臓器ブローカーと出会った。二人は新たな臓器ビジネスを実現させるため日本へと向かう。川崎に生まれ育った天涯孤独の少年・土方コシモはバルミロと出会い、その才能を見出され、知らぬ間に彼らの犯罪に巻きこまれていく――。海を越えて交錯する運命の背後に、滅亡した王国〈アステカ〉の恐るべき神の影がちらつく。人間は暴力から逃れられるのか。心臓密売人の恐怖がやっ

『おはなしして子ちゃん』藤野可織(著)

小学校の理科準備室に閉じ込められた私。ホルマリン漬けの瓶に入った“あの子”が、一晩中お話をせがんできて(「おはなしして子ちゃん」)。「私の近くにいるとみんなろくな目に遭わない」黒髪の転校生トランジの言葉を裏付けるように、学校で次々に殺人や事件が起きて…!?(「ピエタとトランジ」)。14歳の夏、高熱を出した美少女エイプリルは、後遺症で一日に一回嘘をつかなければ死んでしまう体になってしまって(「エイプリル・フール」)。キュートで不気味、残酷だけど愛しい、恐るべき才能が炸裂する10

『南の子供が夜いくところ』恒川光太郎(著)

からくも一家心中の運命から逃れた少年・タカシ。辿りついた南の島は、不思議で満ちあふれていた。野原で半分植物のような姿になってまどろみつづける元海賊。果実のような頭部を持つ人間が住む町。十字路にたつピンクの廟に祀られた魔神に、呪われた少年。魔法が当たり前に存在する土地でタカシが目にしたものは――。時間と空間を軽々と飛び越え、変幻自在の文体で語られる色鮮やかな悪夢の世界。 とある南国の島を舞台とした短編集。今までの本は日本が舞台で、昔話的、侘び寂びな雰囲気があったが、本書は一転

『草祭』恒川光太郎(著)

団地の奥から用水路をたどると、そこは見たこともない野原だった。「美奥」の町のどこかでは、異界への扉がひっそりと開く―。消えたクラスメイトを探す雄也、衝撃的な過去から逃げる加奈江…異界に触れた人びとの記憶に、奇蹟の物語が刻まれる。圧倒的なファンタジー性で魅了する鬼才、恒川光太郎の最高到達点。 美奥という地方をテーマにしたホラー短編集。それぞれ微妙にリンクしていて大好物。愛ちゃんの本編は別の本なんですか? けものはら用水路沿いからしか入れない、崖に囲まれた不思議な野原のお話。

『秋の牢獄』恒川光太郎(著)

十一月七日水曜日。女子大生の藍は秋のその一日を何度も繰り返している。何をしても、どこに行っても、朝になれば全てがリセットされ、再び十一月七日が始まる。悪夢のような日々の中、藍は自分と同じ「リプレイヤー」の隆一に出会うが…。世界は確実に変質した。この繰り返しに終わりは来るのか。表題作他二編を収録。名作『夜市』の著者が新たに紡ぐ、圧倒的に美しく切なく恐ろしい物語。 恒川光太郎のハズレのなさ、安定っぷりには驚かされる。今までの作品と似通っているので、新鮮な驚きというのは少ないのだ

怖いというより不気味『夜市』恒川光太郎(著)

妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場「夜市」。ここでは望むものが何でも手に入る。小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。野球部のヒーローとして成長した裕司だったが、弟を売ったことに罪悪感を抱き続けてきた。そして今夜、弟を買い戻すため、裕司は再び夜市を訪れた――。奇跡的な美しさに満ちた感動のエンディング! 魂を揺さぶる、日本ホラー小説大賞受賞作。 『竜が最後に帰る場所』で恒川光太郎にはまったのでデビュー作から読んでゆく。 デビュー作

オカルト&ミステリー『怪奇探偵リジー&クリスタル』山本弘(著)

1938年、ロサンゼルス。私立探偵エリザベス・コルトと、助手の少女クリスタルは、それぞれの“特殊な身体”と知恵を駆使し、奇怪な事件の数々に立ち向かう! パルプマガジンの表死絵そっくりな惨殺死体、幻の特撮映画上映中に消えた人々、甦る十七世紀イギリスの錬金術……。型破りな謎と解決法、全編を貫くマニアックな薀蓄に驚嘆必至の5篇を収録。物語を愛するすべての人に贈る痛快で風変わりなミステリー! 読書メーターで知り手に取る。寺田克也表紙がかなり好み。 前情報無しで読んだので、初っ端か

『八月の暑さのなかで――ホラー短編集』金原瑞人(訳)

英米のホラー小説に精通した訳者自らが編んだアンソロジー。エドガー・アラン・ポー、サキ、ロード・ダンセイニ、フレドリック・ブラウン、そしてロアルド・ダールなど、短編の名手たちによる怖くてクールな13編。 ホラー短編オムニバス。いろんな作家のちょっと不気味なお話が楽しめる。アウターゾーンとか、世にも奇妙な物語で育った世代にとっては、もはや物足りないレベルだが、未だ輝く作品も多い。レノックス・ロビンスンの『顔』が美しさ、不気味さで抜きん出ていた。 以下、好きなやつだけピックアッ