『奇妙な絵』ジェイソン・レクラク(著)中谷友紀子(訳)
オカルトで、ホラーで、ミステリ。お見事!
助走(というかトンネル)が本の半ばまで続き、主人公マロリーの弱さやヒステリックなところに読者がうんざりしてからの流れが素晴らしい。まさかそう来るとはね! ベテラン作家のような貫禄を感じる。
お話は、薬物リハビリ明けの主人公マロリーが、社会復帰のためベビーシッターの職を紹介され、なんとか就職にこぎつけるも、5歳のテディはアーニャという見えないなにかと喋ってるし、本人の知らないうちにホラーな絵を書いてるし、それがどんどんエスカレートしてゆく。マロリーは悪霊の仕業だと訴えるが相手にされず、逆に薬物を疑われ…。
縦軸のホラーにくわえ、マロリーが見栄のためについたささやかな嘘がどんどん広がってゆく恐怖とか、いつ解雇されるのかという恐怖、弱者に冷たい社会の不快さなど、ネガティブ要素が幾重にも絡んでなかなかにつらい。
それだけに、絵の真実が明かされる後半は爽快だった。ホラーファンもミステリファンも楽しめる構成が素晴らしい。
伏線っぽいのが溢れてるのに使わない、というのもいぶし銀。視線感知、本編に絡まないし(笑)
さらに、地味に皮肉に溢れてるのもよい。アングリーバードのくだりや、ラストの皆さんの掌返しなど最高であった。
エイドリアンの家にどうやって絵を置いたのか? とか微妙な点はあるものの、気になるほどではないかな。
ちょっと残念なのは挿絵。本書の売りの一つで、作中の絵が挿絵でも提供されるのだが、これがいかにもフォトショで作りましたという感じで興ざめ。せめて線画にしてくれよ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?