『南の子供が夜いくところ』恒川光太郎（著）
からくも一家心中の運命から逃れた少年・タカシ。辿りついた南の島は、不思議で満ちあふれていた。野原で半分植物のような姿になってまどろみつづける元海賊。果実のような頭部を持つ人間が住む町。十字路にたつピンクの廟に祀られた魔神に、呪われた少年。魔法が当たり前に存在する土地でタカシが目にしたものは――。時間と空間を軽々と飛び越え、変幻自在の文体で語られる色鮮やかな悪夢の世界。
とある南国の島を舞台とした短編集。今までの本は日本が舞台で、昔話的、侘び寂びな雰囲気があったが、本書は一転トロピカル。今まで同様不思議で理不尽なお話だが、海や熱帯雨林を想像するだけで蒸し暑く、全然違うものに感じるのが面白い。
特に「夜の果樹園」が素敵。フルーツ頭なんて日本が舞台だと？？としかならない気がする。
しかし、草まつりの愛ちゃんもそうだが、今回もユナさんがめちゃくちゃ気になるものの、どうなってゆくのかまるでわからない。こういう投げっぱなしジャーマンは惹きつけられる反面、その人の物語が読みたくて読みたくて仕方がなくなるストレスも発生しちゃうので、程々にしてください。
南の子供が夜いくところ
プロローグ。一家心中を考えている家族が、自称120歳の少女（ユナさん）に出逢い、夜逃げに方向転換してゆく。
夜逃げさきが南国の島って、ある意味最高だよなぁ、めちゃくちゃ気分転換になるよ。と思ってたら別の話で母親からの手紙に噴いた。人間、本当に環境に左右されるよね。
紫焔樹の島
ユナさんの生い立ち話。巫女だけがたどり着ける樹に、赤い実と白い実がなる。赤い実は食べて良いが、白い実は神のための実なので、人間が食べると、赤い実、白い実ともに二度と食べられなくなる。そんな島に西洋人が流れ着き…。
どうしようもない遣る瀬無さだけが残る。まぁユナさん、不幸ではなさそうだから良いのかな。。
十字路のピンクの廟
ある日落ちてきた木像を調査するお話。
この話大好き。こういうおちゃめな魔神良いわぁ。燃やされなくて良かったねぇ。
雲の眠る海
スペインの侵略を受けた小島の人が現代に流れ着くお話。
これまた遣る瀬無い。一人で安穏と過ごすわけにはいかないんだろうなあ。としみじみ悲しくなる。
蛸漁師
息子を亡くしたある男が、海辺の崖の中に部屋を発見するお話。
これまた遣る瀬無いが、ラストはスッキリ。
まどろみのティユルさん
目が覚めると埋められてた人の話。しかも石化というか植物化しており、一眠りするうちに季節が変わっていたりする。
善悪ってなんだろうと考えてしまう一本。
夜の果樹園
夜逃げ一家のお父さんが息子の所へゆくお話。しかしバスを間違えたのか、人気のない所で終点となり、さまようはめに。やっと見つけた家を尋ねると、家でした犬と間違われ…。
今までの恒川光太郎作品で一二を争う程好き。意味不明すぎる展開ラッシュが凄い。それでいてホラーだし悲しい。この体験をした後、お父さんはどうなるのだろう。平穏に戻れるのだろうか。フルーツは二度と食べられなくなる気もするし、食べるとやっぱり美味しいな、って言う気もする。
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