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2022年9月の記事一覧

【詩】知らない銀河

いつか私の覚えている星が全部燃え尽きて
知らない星ばかりになった夜空を想像した
そこに浮かぶ星座はなぜか
今日と同じように
オリオンやカシオペヤと呼ばれていた
私の胸に
ぽこぽこと空洞が生まれて
知らない銀河が
流れ込んでくるみたいだ
本物かどうかはどうでもいい
だってそれもどうせ
誰かが決めたことだから
風の時代が来て 終わって
海の時代が来て また終わる
小さな天文台から それを見ている

【詩】二頭の馬

私の左胸には翼の生えた馬が
右胸には角の生えた馬が住んでいた
馬は二頭とも気性が荒く乱暴で
似た者同士だったから
私の心臓はいつも
どくどくとうるさく脈打っていた
ある日馬たちは
いっそう激しく争って
ついに両胸から飛び出していった
そして心は
どこまでも静かになった

【詩】こんなにたくさんの夜

ゆっくりと歌おう
そうすれば
言葉はそんなにいらないから

お気に入りの夢だけを見よう
そうすれば
こんなにたくさんの夜もいらない

【詩】胸の温度

「おかえり」と言われたら「ただいま」と言うしかない世界で、
相応しい返事を毎回探している。
欲しくもないものを「欲しがれ」と言ってくる人たち。
長い坂をのぼって、なるべく高い場所から町を見下ろすのが好きだった。
冷えた空気が胸の温度とちょうど同じくらいで、
このつめたい心のままでも、生きていていいような気がしたから。

【詩】黒い星

どこまでも続く雪原に
横たわる君は
誰にも見つからないまま
咲いている白い花
果てしなく高い夜空に
浮かぶ僕は
誰にも見つからないまま
黒く光る星

【詩】底なしの春

流行りの店に飾られているもの
北の海辺に捨てられているもの
箪笥の奥に仕舞われたままのもの
まだこの世に生まれていないもの
どれもこれも区別がつかないくらいに
薄暗いこの部屋で
底なしの春を待っている

【詩】流星の小舟

ささやかで色の無い水流がいくつも合わさって
海に流れ出るころには綺麗な青色になる
どこにでも売っている
綺麗な綺麗な絵の具の青
流れに逆らって舟を漕ぐ
あの人は暗闇に消えそうな流星

【詩】この夏を洗い流して

八月の熱さのせいであっという間に
水滴が乾いていくのを見ていた
「神様に試されているんだ」と言う
君の神様は
何をそんなに怯えているの
水溜まりに映る色違いの羊雲
どこにも続いていない道
なるべく思い出さないようにしてるから
涼しい雨でどうか この夏を洗い流して