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Nakano Nanae
2022年6月27日 20:16
何にでも"致死量"というものがある例えば一生のうちで何度空から落ちる夢を見るかとか猫とビニール袋を見間違えるかとかホチキスで失敗する針の本数もシュレッダーにかける紙の枚数もさよならの時に手を振る回数もぜんぶ許容量が決まっていてそれを超えたらおしまい時々、人が突然死ぬのはそのせいだよ
2022年6月23日 13:40
真夏の教室に置いてきた透明な炭酸水転校生が食べているピーナッツバターサンドそういうものだけが音楽になることを許されて街中に鳴り響いている握りしめたペットボトルはすっかりぬるくなってしまったから私はこの夏の出来事を誰にも話さずに死ぬのでしょう
2022年6月17日 22:15
紫とオレンジで出来た夕方の空を見てもはや才能だよねと君が言う緑は合わないって分かってるから使わないんだよ私だったら合わなくても使う緑が好きだからだから才能がないんだと君が言う私だったらどの色がいいか分からなくて何も塗れなくて白紙の空になりそうだと思った私も才能ないよと言った
2022年6月14日 07:02
君はいつもより酒を飲んでめずらしく「幸福だ」なんて言う晴れがましい日に流れてくるのはあの頃一緒に口ずさんだ歌懐かしいねと笑ったけれどメロディーも歌詞も歌手の顔も1ミリも思い出せなかったそれが唯一の救いだった
2022年6月12日 23:26
幸福がどんな色をしているか、知ってる?自由の色正義の色花びらの裏側の色摘み取られた双葉の色雲に隠された空の色生まれたばかりの宇宙の色。何ひとつ知らないままでぼくらは明日を塗りつぶしている。
2022年6月11日 09:51
君が撮る写真は、いつも遺影みたいだった。花も、空も、動物たちも、ぼくも、ファインダーの中で息絶えて、いつでも永遠になれたんだ。
2022年6月8日 23:31
何も欲しくないどこにも行きたくない食べ物もいらない眠くないただ君のことを考えている会いたい訳じゃない話したいこともないして欲しいことはほとんどないただ君のことを考えている果実が赤く色づくように子どもが大人になるように何の断りもなく時間は過ぎる私は君の剥製を作る赤い実が腐って大人たちが死んでただ君のことを考えていた日々だけが火傷の跡みたいに残るんだろう
2022年6月8日 05:55
鳥の羽と天使の羽の違いについて真剣に考えているそんなことよりもコーヒーが冷めてしまう映画が終わってしまう夜が明けてしまう君にもう会えなくなってしまうそんなことよりも絵の具の黒と宇宙の黒の違いについて真剣に考えている
2022年6月6日 21:13
青い空、海の底のように青すぎる空に、鮮やかな、混ざったことのない絵具のような色の風船が飛んでいく。君が手を放したのは一度だけなのに、私は何度も何度も、その風船が飛んでいくのを見ている。瞳の奥で、脳の裏側で、心臓の端っこで、あるいは名前も知らない器官のどこかで。千回見送ったあと、千一回目の風船を眺めながら、ああ、これが永遠なんだ、と思った。
2022年6月5日 07:30
はじめは空気中の酸素のようなものだった。私はそれを何度も吸い込む。繰り返すうちに肺の中でどんどん濃度が上がって、やがて息が出来なくなる。その息苦しさを愛と呼ぶ人もいた。
2022年6月4日 03:00
アダムとイブもロミオとジュリエットも織姫と彦星もみんな幸せにはなれないから大丈夫だよと言ってくれた十四日、満ちて溢れる前の楕円の月みたいな気持ちをあなたにあげる
2022年6月2日 08:34
いつか君に会えるとき世界は一番透明度が高くて飢えた生き物は誰もいなくて私は両手いっぱいに溶けないアイスクリームを抱えて迎えに行こうと思っている