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特許法41条 国内優先権☆

 本記事は修正後の記事です。過去の記事へのリンクは、最下段に記載しています。

1.定義

 特許出願等に基づく優先権制度とは、特許出願をする際に、我が国に既にした自己の特許出願等(先の出願)の発明を含めて包括的な発明として優先権を主張して出願をした場合、その包括的な特許出願に係る発明のうち、先に出願されている発明についてその特許審査等の基準日又は基準時を先の出願日又は出願時とするという優先的な取扱いを認める制度をいう。

2.制度趣旨

 本制度の導入により、
第一に、基本的な発明の出願後に、当該発明後の改良発明とを包括的な発明としてまとめた内容で特許出願を行うことができ、技術開発の成果が漏れのない形で円滑に特許権として保護されることが容易となり、
第二に、先にされた特許出願又は実用新案登録出願を基礎として優先権を主張して特許協力条約(PCT)に基づく国際出願において日本国を指定(PCT8条(2)(b)にいう自己指定)した場合にも、その指定の効果が我が国において認められることとなった。特許協力条約に基づく国際出願であって日本国を指定国に含むものは、その国際出願日にされた特許出願とみなされる(184条の3第1項参照)ことから、特許法に特段の定めがない限り特許出願として特許法の規定の適用を受けることとなり、本条の規定の適用も受けることとなる。

 要約すると、国内優先権制度は、①先にされた発明及び後にされた改良発明の両方について、漏れのない形で特許権による保護を図ること、及び、②制度の国際調和、を趣旨としています。

3.その他

 国内優先の場合、発明の同一性(単一性)に注意しましょう。これは、優先権の基礎とした出願に係る発明と、優先権を伴う出願に係る発明の間に、発明の単一性がなければ、優先権主張による出願日遡及効がないからです。

 優先権主張は特許請求の範囲に記載された発明について主張するものですから、明細書に実施例の追加がなされていても、原則として、優先権主張は有効です。

 優先権主張の効果が「認められない部分」に対する特29条の判断は、優先権主張を伴う出願の出願時を基準として判断されます。このため、追加した部分が原因で拒絶(49条)される場合もありえます。

 3.1.優先権の基礎となった出願の公開擬制による特29条の2の適用

 例えば、優先権の基礎となった出願Xの明細書等にA及びBが記載されており、優先権を伴う出願YにB及びCがされているとします。

 出願X:A、B
 出願Y:  B、C

この場合、出願Xに出願公開請求がなされない限り、出願Xの出願公開がなされることはありません。

しかし、出願X、出願Yの両方に記載されたについては、出願Yについて特許掲載公報の発行、又は、出願公開がされた時に出願Xについて出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされたものと擬制して、特29条の2の適用があります(特41条3項)。この特41条3項の効果が、いわゆる「公開擬制」による効果です。

一方、出願Xにのみ記載されたAについては、出願X、出願Yを特29条の2の他の出願として、特29条の2が適用されることはありません(特41条3項)。

4.判例(東京高裁H15/10/08「人口乳首事件」)

 この判例では、国内優先権主張を伴う出願に新たな実施例が追加された場合の優先権主張の効果が示されました。具体的には、後の出願の特許請求の範囲の文言が、先の出願の当初明細書等に記載されたものといえる場合であっても、後の出願の明細書に、先の出願の当初明細書等に記載されていなかった技術的事項を記載することにより、後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項が、先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えることになる場合には、その超えた部分には優先権主張の効果は認められない、とされています。

 具体例を使って説明します。例えば、優先権の基礎となった出願Xの明細書等にA及びBが記載されており、優先権を伴う出願YにB及びCがされているとします。この場合、出願Xを基礎とした優先権の効果は、出願Yに係るCには及びません。

・特許法41条

(特許出願等に基づく優先権主張)
第四十一条 特許を受けようとする者は、次に掲げる場合を除き、その特許出願に係る発明について、その者が特許又は実用新案登録を受ける権利を有する特許出願又は実用新案登録出願であつて先にされたもの(以下「先の出願」という。)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(先の出願が外国語書面出願である場合にあつては、外国語書面)に記載された発明に基づいて優先権を主張することができる。ただし、先の出願について仮専用実施権を有する者があるときは、その特許出願の際に、その承諾を得ている場合に限る。
一 その特許出願が先の出願の日から一年以内にされたものでない場合(その特許出願を先の出願の日から一年以内にすることができなかつたことについて正当な理由がある場合であつて、かつ、その特許出願が経済産業省令で定める期間内にされたものである場合を除く。)
二 先の出願が第四十四条第一項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第四十六条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る特許出願若しくは第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願又は実用新案法第十一条第一項において準用するこの法律第四十四条第一項の規定による実用新案登録出願の分割に係る新たな実用新案登録出願若しくは実用新案法第十条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る実用新案登録出願である場合
三 先の出願が、その特許出願の際に、放棄され、取り下げられ、又は却下されている場合
四 先の出願について、その特許出願の際に、査定又は審決が確定している場合
五 先の出願について、その特許出願の際に、実用新案法第十四条第二項に規定する設定の登録がされている場合
2 前項の規定による優先権の主張を伴う特許出願に係る発明のうち、当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(当該先の出願が外国語書面出願である場合にあつては、外国語書面)に記載された発明(当該先の出願が同項若しくは実用新案法第八条第一項の規定による優先権の主張又は第四十三条第一項、第四十三条の二第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)若しくは第四十三条の三第一項若しくは第二項(これらの規定を同法第十一条第一項において準用する場合を含む。)の規定による優先権の主張を伴う出願である場合には、当該先の出願についての優先権の主張の基礎とされた出願に係る出願の際の書類(明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に相当するものに限る。)に記載された発明を除く。)についての第二十九条、第二十九条の二本文、第三十条第一項及び第二項、第三十九条第一項から第四項まで、第六十九条第二項第二号、第七十二条、第七十九条、第八十一条、第八十二条第一項、第百四条(第六十五条第六項(第百八十四条の十第二項において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。)並びに第百二十六条第七項(第十七条の二第六項、第百二十条の五第九項及び第百三十四条の二第九項において準用する場合を含む。)、同法第七条第三項及び第十七条、意匠法第二十六条、第三十一条第二項及び第三十二条第二項並びに商標法(昭和三十四年法律第百二十七号)第二十九条並びに第三十三条の二第一項及び第三十三条の三第一項(これらの規定を同法第六十八条第三項において準用する場合を含む。)の規定の適用については、当該特許出願は、当該先の出願の時にされたものとみなす。
3 第一項の規定による優先権の主張を伴う特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(外国語書面出願にあつては、外国語書面)に記載された発明のうち、当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(当該先の出願が外国語書面出願である場合にあつては、外国語書面)に記載された発明(当該先の出願が同項若しくは実用新案法第八条第一項の規定による優先権の主張又は第四十三条第一項、第四十三条の二第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)若しくは第四十三条の三第一項若しくは第二項(これらの規定を同法第十一条第一項において準用する場合を含む。)の規定による優先権の主張を伴う出願である場合には、当該先の出願についての優先権の主張の基礎とされた出願に係る出願の際の書類(明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に相当するものに限る。)に記載された発明を除く。)については、当該特許出願について特許掲載公報の発行又は出願公開がされた時に当該先の出願について出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされたものとみなして、第二十九条の二本文又は同法第三条の二本文の規定を適用する。
4 第一項の規定による優先権を主張しようとする者は、その旨及び先の出願の表示を記載した書面を経済産業省令で定める期間内に特許庁長官に提出しなければならない。

●過去記事
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