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商標法 判例 ローラーステッカー事件 令和3年(ネ)第2608号

1.従来の学説等

 従来、商標法に明文の規定が設けらえた商標権侵害の態様以外においても、商標権侵害と評価しうるケースがあるとする説があった。

具体的には、商品に付された登録商標を剥離抹消する行為は、商標の出所識別機能(商標の基本的機能)を害する行為と評価できるので、商標権の侵害行為と評価するべきとする説(少なくとも、弁理士受験業界での多数説)があった。この説に沿った判決として、大阪地裁におけるマグアンプK事件(平成4年(ワ)第11250号)がある。

2.本件(大阪高裁 令和3年(ネ)第2608号)の概要

 本件(ローラーステッカー事件(令和3年(ネ)第2608号))では、上記「弁理士受験業界での多数説」とは異なり、「登録商標の剥離抹消行為等が、それ自体で商標権侵害を構成するとは認められない」という判断が示されている

 商品を製造販売するメーカー側が、商品販売店等の剥離抹消行為を禁止したい場合、予め商標の剥離抹消行為等を禁止する旨の契約締結が必要と思われる。

3.判決文の概要

 控訴人P1は、健康維持を目的とした運動器具等を開発・商品化し、販売する個人である。控訴人は、平成10年ころから、自ら発明した車輪付き杖(商品名「ローラーステッカー」、以下、「本件商品」)を直販、又は、卸売業者を介して販売していた。控訴人は、商標「ローラーステッカー」(標準文字)、指定商品「第18類 つえ」とする商標登録第6203564号(以下、「本件商標権」)に係る商標権を有している。

 被控訴人(フジホーム株式会社)は、健康器具等の卸売りを目的とする企業である。被控訴人は、本件商品を仕入れて販売していた。

 控訴人の主張によると、被控訴人は、
(i)本件商品の梱包箱に記載された控訴人屋号の上に「ハンドレールステッキ販売元フジホーム株式会社」と印字されたシールを貼り付け、
(ii)②控訴人が商品本体に同梱した「ローラーステッカー使用説明書」(以下「控訴人説明書」)を、被控訴人の作成した「ハンドレールステッキ取扱説明書」(以下「被控訴人説明書」)に差し替えて販売している。
このため、控訴人は、被控訴人の行為は控訴人の本件商標権を侵害等すると主張した。

一審では控訴人の請求・主張が棄却されたため、控訴人が控訴した。この訴訟での争点の一つが本件商標権に対する侵害行為の有無である。

判決文の重要と思われる部分は、以下の通りです。

(2) 商標法の目的は、信用化体の対象となる商標が登録された場合に、その登録商標を使用できる権利を商標権者に排他的に与え、商品又は役務の出所の誤認ないし混同を抑止することにあり、商標権侵害は、指定商品又は指定役務の同一類似の範囲内で、商標権者以外の者が、登録商標と同一又は類似の商標を使用する場合に成立することが基本である(商標法25条、37条)。すなわち、商標法は、登録商標の付された商品又は役務の出所が当該商標権者であると特定できる関係を確立することによって当該商標の保護を図っているということができる商標権者が指定商品に付した登録商標を、商標権者から譲渡を受けた卸売業者等が流通過程で剥離抹消し、さらには異なる自己の標章を付して流通させる行為は、登録商標の付された商品に接した取引者や需要者がその商品の出所を誤認混同するおそれを生ぜしめるものではなく、上記行為を抑止することは商標法の予定する保護の態様とは異なるといわざるを得ない。したがって、上記のような登録商標の剥離抹消行為等が、それ自体で商標権侵害を構成するとは認められないというべきである。
(3) また、その点を措くとしても、後半期間における被控訴人らの行為(被控訴人らの行為②及び③に関する。)は、以下のとおり、控訴人標章の剥離抹消行為と評価し得る行為には当たらないと解される。
ア 前記第2の2で補正した上で引用した前提事実によれば、控訴人が被控訴人らに納入した本件商品の梱包箱の外側にはそもそも控訴人標章は表示されていないから、被控訴人らが仕入れ後に貼付した被控訴人らシールによって控訴人標章が覆い隠されたという事実はない。控訴人が被控訴人らシール①によって覆い隠されたのを問題としているのは、控訴人の屋号であって、控訴人標章ではない。また、被控訴人らの行為によって、本件商品本体に英文字で印字された「Roller Sticker」という標章(称呼及び観念において控訴人標章と同一のもの)に何らかの変更が加えられたという事実もない(本件商品の品質にも変更はない。)。
イ そうすると、控訴人標章の剥離抹消行為として問題となり得る行為は、被控訴人フジホームが、控訴人から本件商品を仕入れた際に梱包箱に同梱されていた控訴人説明書を被控訴人説明書に差し替えた行為のみ(被控訴人ら行為②に関する。)であるが、控訴人説明書は、取引によって納入された本件商品の梱包箱の中に、本件商品の使用方法を説明する書面として、本件商品に貼付等されずに単に同梱されていたものにすぎないから、本件商品に標章を付した(商標法2条3項1号)とはいえず、控訴人説明書が取引書類(同項8号)に当たると認めるに足りる事情も窺われない。したがって、控訴人説明書に「ローラーステッカー使用説明書」との記載があるのは、控訴人標章を商標として使用したものとは認められず、控訴人説明書を差し替えたことが控訴人標章の剥離抹消行為と評価すべきものとは認められない。
ウ 以上のとおり、後半期間における被控訴人らの行為は、そもそも控訴人標章の剥離抹消行為と評価される行為には当たらないから、その余の点を判断するまでもなく、商標の剥離抹消を理由として商標権侵害をいう控訴人の主張は採用できない。 なお、被控訴人らの行為②及び③における本件商品について、控訴人が本件商品本体に付した標章(称呼及び観念において控訴人標章と同一のもの)と、被控訴人らが梱包箱に付した被控訴人ら標章とが併存しているとしても、控訴人から適法に本件商品を仕入れた被控訴人らが、再販売業者としての出所を明らかにするため本件商品に併存して自らの標章を付すことが一般的に禁止される理由もない。
(4) したがって、後半期間における被控訴人らの行為について、本件商標権侵害は成立しないから、商標権侵害の不法行為は成立しない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/175/091175_hanrei.pdf

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