Nirai-Kanai(ニライカナイ)

何となく書き始めた 不思議な世界の物語。 ニライカナイは海の彼方にあると言われる理想…

Nirai-Kanai(ニライカナイ)

何となく書き始めた 不思議な世界の物語。 ニライカナイは海の彼方にあると言われる理想郷。 海の底にあるという。 自らをそう名乗ることにした。 ここからあなたの元に届きますように。 最後に残るものが希望でありますように。 永易侑莉 (本小説は推敲後、タイトル変更しました)

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  • ストロベリーフィールド

    遺伝子操作が自由に可能になった、そう遠くない未来の世界のお話。 月2,3回の頻度で週末に投稿、更新予定。 長編ファンタジー。

  • 冥道(ハザマ)の世界

    きっと、あなたのすぐ側にもある世界のお話。

最近の記事

ストロベリーフィールド : 第三十幕 パトラの遺言

ハンナと眠り続ける小さなレオは、ペガサスの背に乗って南の島のパトラの家まで運ばれた。 流石に全員を一度に運ぶことが出来ず、経験者ルークは二度の往復をすることになったのだが、レオの誕生会以降ずっとパトラの家の周りに張り込んで残っていた大勢の記者たちは、ペガサスに乗った経験者ルークが子供二人を連れてやって来たのを見つけると久々の「異変」に興奮状態となり、家の外で騒ぎ立て始めると、あっという間に人の輪が何重にも広がっていった。 そしてすぐさま一度は立ち去った経験者ルークがあっと

    • ストロベリーフィールド : 第二十九幕 ”守り人”、蛟(Mizuchi)

      「いたっ……」 地面に転がったハンナは、そこまで言うと言葉を失った。 体中に痛みが広がっていた事もあったのだが、それ以上に見覚えのある丘に倒れていることに気が付いたからだ。 ハンナの目の前には赤く色づくパンパスグラスがどこまでも広がっていて、ハンナのすぐ隣には、のたうち回るころんとした小さな生き物がいた。 良く見ると、その全身は、鱗で覆われている。 まるで陸に揚げられた魚のようだ。 ただ一つ、魚とは違うのは、その身体には小さな手足が付いていた。 その長い髭と角は金白

      • ストロベリーフィールド : 第二十八幕 ハンナと龍

        足元には、巨大スクリーンが広がっていた。 宙に浮いている……。 そう思いながら、ハンナは空高い場所から足元を見下ろした。 その視線の先には、焼け落ちる家々、逃げ惑う人々、泣き叫ぶ子供たち、見覚えのある四つ角に、真っ赤に燃え盛っている古い木造の建物があった。 いつか同じような夢を見た気がするとハンナは記憶を辿っていた。 もしかして……? これは……グリーングラスの戦いの……。 ハンナは、自分が過去の世界にいるのではないかと思い始めていた。 これは、夢……それとも…

        • ストロベリーフィールド : 第二十七幕 赤い石、青の光と緑の光

          空を飛ぶペガサスは、大人3人と小さな子の4人を背中に乗せても全く平気な様子で、そのピンクのグラデーションの羽を大きく広げていた。 ところが空を滑空した後にパンパスグラスの丘の少し手前で降り立つや否や、突然大きく嘶きはじめた。 「ごめん、馬語、分かんねぇんだわ。……ところでパトラばあ様、今度は一体何ごとです?」 経験者ルークが、げっそりした顔になったパトラをペガサスから降ろしながら心配そうに声をかけた。 と、小さな子、レオをを胸に抱いたまま固まったようにペガサスに乗って

        ストロベリーフィールド : 第三十幕 パトラの遺言

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        • ストロベリーフィールド
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        • 冥道(ハザマ)の世界
          20本

        記事

          ストロベリーフィールド : 第二十六幕 裏切り

          「目が覚めたようね」 ハンナの目の前には、見知らぬ大人が立っていた。 女の人だ。 ハンナの母よりもずっと大柄で、袖から見える腕には筋の入った筋肉が盛り上がって見えている。 その人の、はちきれそうにつやつやしているその肌はハンナの母よりずっと若く見えていた。 ハンナは、突然のことにただその女性を見つめていた。 「かわいげのない子だよ、睨みつけるなんて。しつけもしていない親の質の悪さが丸わかり。ま、馬鹿な親に育てられたのはあんたの罪じゃないけど。生まれてきたのは間違い

          ストロベリーフィールド : 第二十六幕 裏切り

          ストロベリーフィールド : 第二十五幕 ホーム スイート ホーム

          十数年前、ユラ神の末裔であるミチコは突然、ウエストエンド国へと赤子を連れ戻って来た。 それをユラ神は受け入れた。 結界を張り、守り続けていた国へと、やすやすと導き入れた。 その日から、ライラは、ミチコの教育係となった。あの日を思い出すたび、ライラの心の中は憎悪と憤怒の火で焼かれた。だがその痛みはまた、ライラが地を這ってでも生きようとする力にもなっていった。 あの女は……一体、何をしに戻って来たのだ? ただ私たちからすべてを奪って再び突然逃げ出した…。 何故だ? ライ

          ストロベリーフィールド : 第二十五幕 ホーム スイート ホーム

          ストロベリーフィールド: 第二十四幕 マシュマロのステンドグラス

          窓に大きく何かが当たる音がした。 最初数えるほどだった音は、少しずつ増え始めて大きな音になり、次は風が窓をガタガタと揺らし始める。 あっという間に部屋の中は薄暗くなっていった。 「雨だね。今は出かけるなってことだ」 長い沈黙の後に、ようやく口を開いたパトラは、ゆっくりポットに手を伸ばしカップにお茶を注いだ。 上体だけを起こしていた小さな子は、音のする窓の外を振り返ってじっと見つめている。 その視線の先にはカラフルなステンドグラスに当たる雨粒が、色絵筆で殴り書きしたよう

          ストロベリーフィールド: 第二十四幕 マシュマロのステンドグラス

          ストロベリーフィールド: 第二十三幕 異形異種、過去をゆくもの

          頭の中で、いろいろな疑問が浮かんでは消える。 けれど、ハンナはまともに何かを質問することもできなかった。 自分が《呪われた子》である、と言われた事に打ちのめされていたからだ。 ハンナのママは、キッチンから小さなスツールを持って戻って来ると、その上に浅く座った。そうしてハンナに語り始めた。 「ウエストエンドから逃げるようにこの中立国になったばかりの村に来て、すぐに図書館へ行ったのよ。もう覚えてないと思うけれど……。 ママは、そこで生まれて初めて《地図》というものを見たの。

          ストロベリーフィールド: 第二十三幕 異形異種、過去をゆくもの

          ストロベリーフィールド: 第二十二幕 追われるもの

          家の前まで来ると、花の香りがしたような気がして、ハンナは思わず立ち止まった。 ライラックの香りだ。 けれど、どこにも花は無かった。ハンナは辺りを見回してから、気のせいかと思い直し、重い気持ちのを抱えたまま家へと戻った。 さっきの夢のような映像のせいか、また頭が痛んだ。 やっぱりママの言う通り、今日は家でじっとしておくべきだった……。 パトラのところへ行くと言っていたハンナの母親は、夕方までは家にいないはずだった。 ところが、家に入るとすぐ、お茶の香りと火の温もりがある

          ストロベリーフィールド: 第二十二幕 追われるもの

          ストロベリーフィールド: 第二十一幕 パンパスグラスの憧れの人

          遠くスノーマウンテンのはるか上空には、季節外れの真っ黒な雪雲が見えている。 学校とは反対の方へ進み、ハンナは曲がり角をストロベリーフィールドの方向へと曲った。 間もなく見えて来たフィールドの中に入り、数メートルも進むとすぐに、向かい風がハンナに向かって吹きつけ始めた。 前方には茶色い荒れ地が広がっていて、村人たちが言う様にまるで《呪い》にでもかかったように寒々しく見えている。 ハンナは、それが偽物であることを信じて疑わなかった。 確認するかのようにフィールドに足を踏み

          ストロベリーフィールド: 第二十一幕 パンパスグラスの憧れの人

          ストロベリーフィールド:第二十幕 偽物(フェイク)

          目覚めた時、ハンナはあの身体の重さ、けだるさがすっかり消えていることに安堵した。 屋根裏部屋を改装して作られた部屋は寒かった。 窓から刺す光は、弱く、部屋全体が薄暗い。 一瞬、身震いしてから、ハンナはベッドにかけてあったショールを引っ張りあげて肩にかけた。 恐る恐るつま先を上下に動かしてみたが、痛みもなく、普通に足の指まで、しっかり動いている。 少し前まで、夢なのかどうかもわからない世界でハンナの身体は鉛のように重かった。一歩踏み出すことさえ辛かった脚は、それが嘘だっ

          ストロベリーフィールド:第二十幕 偽物(フェイク)

          ストロベリーフィールド:第十九幕 夢か現実か

          空にそれぞれに色の異なる七色の蝶が繋がり、大きく広がってゆく。 激しく渦を巻く風のトンネルが、ハンナの身体の周りを取り囲んでいた。 トンネルは、竜巻のように長く長く、天高く続いている。 その長い風のトンネルは、地面から吹き上げているのではなく、天から地面へと吹き降りていた。 風のトンネルの外周に沿って空高く舞い上がっていた蝶たちが、その色ごとに一列になり、虹のような半円形の弧を描くと、やがて完全な円になって回転し始める。 と、そのはるか上空、風のトンネルの中央の天高く、銀

          ストロベリーフィールド:第十九幕 夢か現実か

          ストロベリーフィールド:第十八幕 むかし昔のお話

          五歳の誕生日を迎えた日、ハンナは家の中で唯一入ることを許されていなかった部屋、《祈りの間》に入ることを初めて許された。 そしてその部屋が、あまりにも期待外れな普通の部屋だったことに少なからず落胆したことを覚えている。 落胆した理由は、明らかだった。もっと何か謎めいた不思議なものや、魔法の道具、祈りの道具や古文書が山のようにある部屋を想像していたからだ。 その部屋は、二階にあるハンナの部屋と同じような造りで、違うことと言えば、その部屋の窓が全てステンドグラスになっていて、

          ストロベリーフィールド:第十八幕 むかし昔のお話

          ストロベリーフィールド:第十七幕 ウエストエンドの宝-②

          図書館の前を通り過ぎ、道なりにまっすぐ進むと、沢山の木と生垣に囲まれたコテージが見えてきた。 ここに、ユラ神の末裔家族が暮らしていることをライラが知ったのは、村に来たばかりの日だ。 それはあのボバリー家の事件があった日だった。 ライラはあの事件の直前に、この家の娘を街で見かけ、自分の復讐が後押しされているような気がして鳥肌が立ったのだ。 そんな数日前のことを、ライラは目の前の小さなコテージを見つめながら思い返していた。 先週末、偶然見かけた大きな花束を抱えた娘の後をつけ

          ストロベリーフィールド:第十七幕 ウエストエンドの宝-②

          ストロベリーフィールド:第十六幕 ウエストエンドの宝-①

          フラワーバレーの春の朝、夜明けの時間は、ライラが思っていたよりもずっと早かった。西の国よりも日の出の時間が早く、気温はとても寒い。 それでも、腕をあげられないほどに服を着込んで店にやって来ていた身体は、パンを作り出して三十分もすれば汗をかくくらいになり、一時間後にはライラは半袖ブラウス一枚になっていた。 「このオーブン、凄いわ。こんなものを簡単に作る国と戦って、勝てるわけがないのよ」 ライラはグリーングラスの国旗のマークの付いたオーブンを苦々しそうに睨んでからそう呟くと

          ストロベリーフィールド:第十六幕 ウエストエンドの宝-①

          ストロベリーフィールド:第十五幕 指輪の行方

          塀に沿って見える街路樹の大きな木々は、春だというのにすっかりすべての葉を落としていた。 要塞のように屋敷の周りをぐるりと囲む高いレンガ造りの壁の向こう側にも、同じような木々が見えている。その中でもひときわ目を引く大きな木は、この国で起こった二度の戦火をも生き抜いてきたものだ。太く張り出した幹から幾つもの枝が突き出ていて、まるで手の甲に張り巡らされた血管のように重なり、屋敷の窓に濃く暗い影を作っていた。 「まったく、厄介なことになりそうな匂いがプンプンするね」 屋敷の正門

          ストロベリーフィールド:第十五幕 指輪の行方