周りはいかにして「男であること」を求めたのか。
(前回の記事はこちらから)
人と良好な関係を築き、好かれるためには「男であること」よりも「やさしい人」であった方がいい。
堅くそう信じ、自己を形成してきた僕を「男」に引き戻したのは『魂うた®️』、そして結婚生活だった。
『魂うた』、正式には『魂と繋がる歌の唄い方』と呼ばれるこのワークショップのことは、これまで何度も語ってきた。
歌うことを通して、自己の本質と繋がり、「本当の自分」を他者と分かち合う場だ。(もちろん、こんなふうに一言では言い切れない感動的な経験を伴うわけだけれど)
この場で、僕は何度となく「男」であるよう促されてきた。
それは「もっとワルになること」だったり「もっと前に出ること」だったり「大きな声を出すこと」だったり「女性を誘惑するように唄うこと」だったりした。
都度、僕は「攻撃的すぎる」「怖がられるのではないか」「嫌われるのではないか」と心配し、敬遠してきた自分を表現することを許された。
それはとても解放的で気持ちがよく、かつ、聴いている人を満足させる歌になった。
結婚生活は、より強烈だった。
奥さんが求める「男であること」は、ずばり「稼ぐこと」だった。
これは辛かった。
なぜなら、僕はお金や稼ぐことから逃げ回ってきていたから。
僕は、お金のために働くことに強い抵抗と不安があった。
父が二言目には「最後はお金だ」と言う人なので、それに反発する気持ちもあったのかもしれない。でも、本当のところは分からない。
そういう僕に対する奥さんの怒りは、熾烈だった。
他の場面でどんなに「やさしい夫」として仲良くできていても、そのポイントになると逃げ場がなくなるほどの怒りが噴き出した。
当時は、相手にどこか問題があると思っていたが、そうではなかった。
あれは、僕が僕に対して向けた怒りだったのだ。
奥さんは、明らかに僕を怒らせようとしていた。
「やさしい」僕はそう簡単には怒らない人だったから、相当踏み込んだことを言わなければならなかった。
それは過去の自分を焼き尽くす、ものすごい怒りだった。
「やさしい人」のまま築こうとした家庭は壊れ、船は座礁し、共に暮らすことができなくなった。
その怒りと向き合うことで、僕は自分が「男」に戻ることを余儀なくされた。そして「男」を取り戻すことが自然なことだと思うようになった。
いつの間にか、考え方も変わっていた。
支払いをすべて自分がしたいと思うようになった。プレゼントがしたくなった。結婚当初は不公平だと思っていた「男が稼ぎ、女が遣う」という考え方もいいと思うようになった。
誰もがそうかは分からない。けれど、うちの夫婦はそのかたちの方がお互いがいきいきとできるように思えた。
僕は「男になれる」とうれしく感じる生き物に生まれ変わっていた。
それが本来の姿であるように思えた。
他にも変化がある。
僕はより攻撃的になった。かつての毒舌の感じが、戻ってきたのだ。
人を叱る機会もあった。相手の改善点を指摘することにひるまなくなった。違うものを違うとはっきり言うようになった。いずれも「やさしい人」にはあり得ないことだった。
そして周りから「こわい」と言われるようになった。それでもいいと思えるようになった。
そもそも「やさしい」ということの意味が変わった。
いままでの「やさしい」は、相手に本気で関わることを恐れていただけだと分かった。
それは劇的な変化だった。
自分に再び力がみなぎってきた。わっはっはと笑いたくなるような気分になった。
ケンカの後、奥さんが「祐典が怒るとホッとする」と言っていたことがある。僕のエンジンは、そこまでしないと火が点かないポンコツだったのだ。
奥さんには苦労をかけ、ものすごい仕事をしてもらった。感謝しかない。
そしていま、僕は「男であること」を取り戻そうとしている。
それが、僕自身の誇りにつながっている。
男には男の ふるさとがあるという
女には女の ふるさとがあるという
(中島みゆき『旅人のうた』より)
父は、僕を厳しく育てたかったという。
その意味が、いまなら分かるような気がする。
父は、僕を「男」にしたかったのだ。
ずいぶん遠回りをしたけれど、いま正しい道の上にいる実感がある。
と、結論めいたことを書きそうになるけれど、油断は禁物だ。
これはまだ、現在進行形の話だから。
心の底から「男だ」というには、まだ早い。
まだ、結果が出ていない。
稼げていない。
そう言い聞かせながら、すぐに甘ったれそうになる自分と向き合っている。
そういう自分を、奥さんが時々うれしそうに眺めているのを知っている。
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