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音楽は言葉を超える 〜 ソウルフルな歌声:マイケル・ケトラーの場合 〜


【音楽の魅力】

人は知らず知らずのうちに音楽から力をもらっている。

音楽によって心が癒されたことが何度もある。

優しく包まれたり背中を押されたり、慰められたり励まされたり、時には苦しみを和らげてくれることもある。

私たちは、その時々によっていろいろな音楽に触れながら暮らしている。ピアノの音色、オーケストラのシンフォニー、コーラス、スクリーンミュージック、歌声…。

今回は、様々なシーンの中から「歌」について考えてみた。


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歌詞が理解できるという理由で日本語の歌に触れることが多かった。

言葉が直接心に届き、ストレートに共感できることは心地良い。

様々なジャンルの素晴らしい楽曲が次々に創り出され、好きになった曲を繰り返し聴いたり口ずさんだりする。

時にはライブに出かけて多勢の人とリアルで魅力的な時間を共有することもある。
そのうち、日本語にこだわらずに海外の曲を聴くことも増えてきた。

言葉の意味は理解できなくても心惹かれる曲はたくさんある。

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音楽には、人の気分を高揚させたりストレスを軽減させたりする力や、時には痛みを和らげる可能性がある。

音楽が人の心に影響を与えると言うことは、新しいことではない。

今から400年以上前に、ウィリアム・シェイクスピアは「音楽は脳に刻み込まれた厄介者を消し去ることができる」と言っている。
脳に快楽をもたらす化学物質のドーパミンは、音楽を楽しんでいる時には最大で9%増加する(『Nature Neuroscience』参照)らしい。

音楽は時には人の心を動かすこともある。

その力の源はどこにあるのだろう。


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数ヶ月前、計画していたことが思い通りにいかなくて解決方法が見つからず、なんとなく不安に過ごしていた時期があった。

先が見えず少し心が内向きになっていた。

そんな時に、偶然耳にした歌に助けられた。
その時に励まされたシンガーを紹介すると共に、人の心を動かす力の源について探ってみたい。


【マイケル・ケトラー】

偶然目にした画面に映し出されたのは、若くはない男性シンガーだった。

赤と紺のチェックのシャツにジーンズ、四角い眼鏡。

ステージは、AGT「アメリカンズ・ゴット・タレント」(米の公開オーディション番組)の予選の一コマである。

審査員の質問に「ナーバス(緊張している)」と答える単語が聞き取れた。期待も先入観も持たずに聴き始めた。曲名はビージーズの「To Love Somebody」。

静かに歌い出されたその第一声は美しく澄んでいた。

一瞬で会場全体が静寂に包まれたように感じた。

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(マイケル・ケトラー)


真面目で誠実な歌い方で、言葉一つ一つが胸に染み渡ってくる。
歌は、曲の進行と共に徐々に力を帯びてくる。
後半に入り体の中心から発せられる声を通して、豊かで熱い思いが伝わってきた。

歌詞の意味は部分的にしかわからないがソウルフルな歌い方から、言葉を超えた何かが届いた。

なぜこんなにも心が動かされるのだろう。

マイケル・ケトラーについてもう少し知りたいと思った。

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調べてみると、米カリフォルニア州に住む小児精神科看護師で、6人の子どものお父さん。

一人目は母子共に危険な出産を経て奇跡的に命を授かった娘、それに加えて、劣悪な環境で暮らしていた3人の兄弟、ホームレスだった子、脳性小児麻痺の子の5人の男の子を養子を迎え、6人の子どもを育てるお父さんであった。


審査員から「なぜこのオーディションに臨んだのか」と聞かれたマイケル・ケトラー は
「子どもたちに安全な場所と夢を見ることができる環境を与えるのが自分の仕事である。そして、父も夢を持っていること、夢に向かって挑戦していること、不可能なんてないと言うことを見せるため」
とエントリーの理由を語った。

彼は、今までにもCDを出したりバンドを組んで音楽活動をしたりしていたが、さらに大きな夢を目指しているのだった。

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【言葉を超える】

ケトナー夫妻は、強い意思や客観的な適正を備えていたからこそ、里親の許可を与えられたのだろう。

小児精神科看護師であれば子どもと接するのは上手かもしれないが、5人の養子を迎えるには相当の覚悟が必要であったと思われる。

子どもたちの幸せな生活を願って決断したとはいえ、子育ては楽しいことばかりではなく苦労や悩みもあると想像する。

夫妻と一人目の娘さんの協力があればこそだろう。

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誠実でなければできないこの行為は、彼自身の精神に影響を与え彼の歌にも影響を与えていると思う。

この経験は彼の心を通して歌の中に入り込み、歌を通して聴く者の心にストレートに届いている気がする。

マイケル・ケトラーは予選を通過して、準々決勝、準決勝、決勝と進んでいくことができた。
歌声だけで充分素晴らしかったが、その背景にあるストーリーも聴く者の心に変化を与える。

あの静かで強い歌声の背景に子どもたちに対する深い愛情があったのだと知った時、歌は今まで以上に美しく心に響いた。

人の心を動かす力の源は「生き方」なのかも知れないと思う。 

        

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【歌詞を理解しながら…】

音楽は、言葉以上に心を動かし、感情を動かす力を持っている。

音楽はシンプルに心に何かを届けてくれる。

英語や英語以外の言語が理解できなくても伝わるものはある。
優秀な翻訳者がその歌詞を訳してくれることもある。

しかし、もし英語や英語以外の言語を話せて、歌詞を理解しながら聴けたらどんなにいいだろう。

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つくづく英語や英語以外の言語を獲得しておけば良かったと思う。
(今からでも遅くないかも知れないが。)


マイケル・ケトラー は、きっと今も歌い続けているだろう。いつか彼の歌を間近で聴いてみたい。





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