柳瀬順

トゲトゲトルゲ

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dtm練習① ポケットモンスター赤緑 サントアンヌ号

耳コピ 名曲や!

    • 雌性先熟 掌編小説800文字

       つり革からぶら下がっていたのはサナギだった。驚いている間に電車のドアは閉まっちゃって、中は不思議なにおいで満たされていて、わたあめに包まれたみたいに頭がふわふわした。砂糖水を焦がしてカラメルを作った時のような甘いにおい。それまで私が保健の教科書とかで見たサナギはどれも茶色い枝豆みたいだったけど、まだ蛹化が始まったばかりだからか、一見普通の人にしか見えなかった。服もきちんと着たままで、お祈りでもするように胸の前で合わせた手でつり革につかまってぶら下がっている。でも手やほっぺた

      • 筝曲’’六段の調’’にみる文化的遺伝子

        「私があなた達と同じ高校生だった頃、芸術に全く興味がありませんでした。特に鑑賞するにあたって予備知識や歴史を理解していないと理解できない芸術なんかは邪道であり知識人が仲間内で教養をひけらかしているだけだと思っていました。今もそう思うことがないわけではないのですが、いろんな見方を試すのも悪くないのでは、という話です。 今回は音楽。古典の名曲、六段の調です。 まあ琴の曲だなあと思う程度だと思います。実際は筝(そう)という楽器で琴とは別の楽器なのですけど、筝が常用漢字ではなくて琴

        • 新成人たちへ 掌編840字

          ショートショート 840文字  舞台袖で原稿用紙に目をやる。このホールで新成人を相手にスピーチをするのは四度目だ。当時の私はどうだったかなどと思い出したくもない。まだ県会議員だった父の取り巻き達にもてはやされてのぼせ上がっていた。もっと言えば父の御威光の下で副市長にまでなった今となにも変わっていないと言えるかもしれない。道化と根回しは上手くなったがまさかそれを彼らに伝えるわけにもいかない。それでも私が彼らに伝えられることがなにかないだろうか、毎年いろいろ考えて、いつも長い小

        dtm練習① ポケットモンスター赤緑 サントアンヌ号

          喫煙者、或いは愛煙家

          ショートショート 1860文字  トイレから出ると台に向かう気はすっかり失せていた。一応店内を回ってみたがやはり食指が動かずにそのまま出口へと向かった。半年程前に自分は軽度ながらも紛れもないパチンコ依存症なのだと自覚して以来熱が少しずつ冷めてしまい、最近はいよいよ打つのが億劫になってきた。仕方がないので車をパチンコ屋の駐車場に止めたまま近くの公園に向かう。細い道ではあるが小学校が近いためか綺麗に整備され、両脇に等間隔でハナミズキの木が白い花を咲かせている。カバンを車に置いて

          喫煙者、或いは愛煙家

          ヴァレーブラックノーズシープ

          ショートショート(?)  300文字 黒い顔と目が合う 黒い毛に覆われているのでどこに眼があるのか分からない それでもその眼は俺を捉えている 黒い毛で覆われた顔が一つの大きな目玉であって、その目玉は俺を見据えている ときどき擡げ、俯き、そしてまた俺を見る 女はカワイイカワイイとその羊の写真を撮ってはしゃいでいる ナメクジの様な女の舌 イモムシの様な女の指 カラスの様な女の喘ぎ声 この女に四肢があり、その先に五本の指があることが気持ち悪い 信頼などなかったはずだった 裏切

          ヴァレーブラックノーズシープ

          ハンドブレンダー

          ショートショート 840文字   下の子の離乳食の為にジャガイモとブロッコリーをハンドブレンダーで潰していると、また急にあの感覚がやってきた。私は慌ててブレンダーから手を放して後ずさりをする。手のひらと背中に油のようにぬるぬると生暖かい汗がにじむのを感じた。生後半年を過ぎた娘と、その妹にガラガラを振ってあやしてくれている四歳の息子のところまで行って私は息子を抱きしめた。どうしたの、と聞くのでなるべく普段通りに何でもないよ、と答えて笑顔で顔を覗き込む。うん、いつも通り笑え

          ハンドブレンダー

          ギターを弾く人

          ショートショート 750文字  仙人みたいな髭のじいさんが芝生の上に胡坐をかいてバイオリンを弾いていた。高音を弾くときに弓が体に当たらぬように、器用に体をくねらせて弾く姿は蛇のようだ。  その妙なじいさんのいる大きな広場の端にベンチを見つけ、俺は煙草に火をつけた。火をつけてからここは禁煙かもしれないと思ったがあたりに看板などは見えない。そうだったとしても、もうすぐ日付が変わる頃だし勘弁してれと願った。  疲れ切っていた。星一つ見えない空だったが、こんなに広い空を見るのは久し

          ギターを弾く人

          そーめん食べたい

          ショートショート(?) 370文字 「夕飯なにがいい?」 「今食べたばかりだからな、何にも思いつかない」 「そこをなんとか」 「んー、食材何があるの。早く使った方がいいものある?」 「こないだ買い物したから肉も野菜も結構あるよ、強いて言えば大葉が少し傷んできてる。あと昨日の茄子の煮びたしが残ってる」 「しそご飯は?きざみ海苔と大葉細かく切ったやつに胡麻と醤油かけるの。それとみそ汁と茄子でよくない?」 「でた、しそご飯。好きだねー。でもなんか違うな」 「じゃあ豚肉の生姜焼きに

          そーめん食べたい

          血圧を測っている中年男性

          ショートショート 1110文字  薄手のシャツならまくらなくても良いとのことだったので、そのまま腕を通してスタートのボタンを押した。待合室の奥にある無料の自販機の前でアロハシャツを着た男がどのボタンを押すか悩んでいた。入口の外で輸血用の血液が足りていませんと大声で張り上げていた男がいたが中まで声は聞こえなかった。  タニさんと呼ばれている男が、血圧計が怖いと言っていたのを思い出した。もう二十年以上前によく通っていたバーでの話だ。みんなからタニさんと呼ばれていたが本名かどう

          血圧を測っている中年男性

          サルコペニア肥満症の男

          ショートショート 940文字  公園かと思ったがそこは神社だった。俺が細い裏側の道から入っただけで、正面にはちゃんと鳥居があり立派な拝殿へと石畳が続いていた。その脇にはお祭りのときに舞でも踊るのであろう大きな舞台まである。  小鳥がさえずる中をふらふらとベンチに近づいてやっとのことで腰を下ろした。まるで砂でも吸って吐いてしているかのように息がのどに張り付く。吐き気と眩暈と頭痛がした。  先日返ってきた人間ドックの結果は散々なものだった。肺機能や血管年齢などほとんどの数値が

          サルコペニア肥満症の男

          くるくる巻かれた龍

          ショートショート 1230文字  錆びついた扉は見かけによらず簡単に開いた。一歩入ったとたんに埃とカビの古くさい臭いが鼻を突く。日差しがないので幾分マシかと思ったが、絡みつく様な蒸し暑さは倉庫の中も同じであった。板張りの床の上にはトラロープやポールが散乱し、左右の壁際に置かれた棚にはぎっしりと段ボール箱やプラスチックコンテナがつまっていた。  「まいったな」俺は思わずつぶやいた。  久しぶりに帰省して、することもなく寝続けていた俺に、親父が頼んできたのが商店街の倉庫のチェ

          くるくる巻かれた龍

          座禅を組む人

          ショートショート 800文字  子供の頃、寝室の天井が板張りで、眠る前に木目でいろんな想像したのを思い出した。地図に見えたり顔に見えたり海に見えたり、あの頃は想像力が豊かだった。今は何にも思い浮かばない。  お堂の隅で木壁を見つめ続けて長いことになる、と思う。でも三十分で鳴るらしい鐘はまだ鳴らない。足が痺れてきたし、なにより暇だ。  目をつぶっていろんな事を考えるのが座禅だと思っていたけど、この寺では薄目を開けて壁を見て、栗みたいな形にした手の間に意識を集中させるらしい。

          座禅を組む人

          夜眠る前の暗い部屋のベッドで

          ショートショート 640文字  また会社の夢を見た。納品が間に合わないとか予定を忘れていたとか、最近見るのはそんな夢ばかり。  携帯を見る、まだ4時前。起きるには早すぎる、けどそんなに眠たくはない。  しょうがないからそのままだらだらと携帯をさわっていたら電話が鳴った。  びっくりして思わずとると、ませた口調で話す女の子だった。  女の子は電話台の前に持ってきた小さな椅子に乗っている。鶯色のダイアル式電話の受話器を重そうに持って、もう片方の手でお母さんの真似をしてコードを

          夜眠る前の暗い部屋のベッドで

          蠅(自由律俳句)

          目を逸らせば蠅

          蠅(自由律俳句)

          勤労感謝の日

          ショートショート(?) 410文字 積み上げられた灰皿の横で黄ばんだ招き猫が笑っている その奥でマスターが雪平鍋でコーヒーを温めなおす カウンターの老人が言う 「俺は年金貰うだけだからな、気楽だよ」 「そうねえ」ママが芝居がかった声で答える 細長い店内の手前と奥に一つずつスピーカーがついている 左右に振られた音楽が片方しか聞こえないので気持ちが悪い カウンターの老人が言う 「俺は税金を納めたんだ、それを貰ってるんだよ。長いこと働いて、いっぱい納めたんだ」 「本当にねえ

          勤労感謝の日