夜眠る前の暗い部屋のベッドで
ショートショート 640文字
また会社の夢を見た。納品が間に合わないとか予定を忘れていたとか、最近見るのはそんな夢ばかり。
携帯を見る、まだ4時前。起きるには早すぎる、けどそんなに眠たくはない。
しょうがないからそのままだらだらと携帯をさわっていたら電話が鳴った。
びっくりして思わずとると、ませた口調で話す女の子だった。
女の子は電話台の前に持ってきた小さな椅子に乗っている。鶯色のダイアル式電話の受話器を重そうに持って、もう片方の手でお母さんの真似をしてコードをくるくる回してる。
よく電話で遊ぶなって怒られたっけ。
お気に入りだったアルフのトレーナーを着てる。次の冬にはもう着られなくなっていて落ち込んだ、そしたらお母さんが枕カバーに縫い直してくれた。あれどこにやったんだろう。
そうそうあの頃は近所のおねえさんに教えてもらっていつも髪を結んでたな。キラキラの星が付いたゴムをおねえさんに貰ったんだ。
わたしたちは長い間いろんなお話をした。何を話したかほとんど覚えていないけど。
私はわたしに、あなたは幸せねって言ったと思う。
わたしは私に、楽しい夢を見るには友達のことを考えながら眠るといいよと教えてくれた。
携帯を見る。もうすぐ6時。
いつもなら絶対にベッドから出ない時間だけど、今日は起き上がってみた。
一応、着信履歴を見てみる。やっぱり電話はなかったみたい。
久しぶりにコーヒーを淹れてみよう。部屋を横切ってカーテンを開けると、柔らかな朝が広がっていた。
あなたは幸せねって声に出してみる、なんだか少しうれしかった。
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