勤労感謝の日
ショートショート(?) 410文字
積み上げられた灰皿の横で黄ばんだ招き猫が笑っている
その奥でマスターが雪平鍋でコーヒーを温めなおす
カウンターの老人が言う
「俺は年金貰うだけだからな、気楽だよ」
「そうねえ」ママが芝居がかった声で答える
細長い店内の手前と奥に一つずつスピーカーがついている
左右に振られた音楽が片方しか聞こえないので気持ちが悪い
カウンターの老人が言う
「俺は税金を納めたんだ、それを貰ってるんだよ。長いこと働いて、いっぱい納めたんだ」
「本当にねえ」ママが鼻にかかった声で答える
枝だけになった観葉植物がふたつ並んでいる
床も椅子もテーブルも、全てが茶色い店内で、レジの脇にピンクのバラが一輪浮かんでいた
老人は続ける
「それをまるでお荷物みたいに言いやがって。一所懸命働いたんだよ。なあ」
「まあそんなこと」私にホットコーヒーを出しながらママが答える
私はコーヒーを啜り、静かにカップを置く
満足だった
ただひとつ、週刊誌の袋とじが切られていないことだけが不満だった
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