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かごめ

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脚本 「かごめ」 最終十三場

■第十三場
  前場の翌朝。結局朝まで付き合わされた二人は、疲れ切って例の喫茶店に入る。
良玄「すみませーん。コーヒー二つ。」
玲奈「濃い目でお願いします。」
  そう言いながら、瞼をこする良玄。玲奈は首を鳴らす。
玲奈「美羽に朝まで付き合わされちゃったね。」
良玄「美羽、しばらく昼夜逆転するだろうな。」
玲奈「でも、よかったよ。美羽、少しは元気出たみたいだし。昼夜の逆転くらい、何でもないよ。‥美

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脚本 「かごめ」 第十四場

■第十四場
  前場から5日後の深夜。風が強い。美羽は珍しく熟睡。
  良玄登場。玄関のカギを静かに開けて、足音をたてないように入室。上半身肌着だけになると、美羽の布団にゆっくりすべりこむ。
美羽「誰? 」
  寝ぼける美羽。良玄は布団の中で美羽を抱きしめる
美羽「良? 」
  良玄は、布団から半身を起こし、美羽のパジャマをぬがせにかかる。
美羽「なんなの? 」
良玄「黙って。俺に任せて。」
  

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脚本 「かごめ」 第十三場

  前々場から三時間後。洋一郎の自宅。部屋で紅葉と一緒にいる。洋一郎は美羽のことをあけすけに話していた。
紅葉「壮絶だね、美羽さん。‥ウチの家庭は、やっぱ普通な方ね。」
洋一郎「それだけどさ、低いところにベクトル合わせるのは、やっぱやめようよ。‥あ、それでさ、俺はみんなの言うことがもどかしくってさー。‥美羽に快楽、‥なんか楽しいことを与えて気分を明るくさせてあげれば? って言ったんだよ。」
紅葉「

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脚本 「かごめ」 第十二場

■第十二場
 美羽、良玄、トキオ、玲奈、洋一郎、紅葉、裕次、玲奈の叔父が、「かごめかごめ」で遊んでいる。真ん中の鬼は玲奈。他は玲奈を囲んで踊り、歌う。
全員「かごめ、かごめ。かごの中の鳥は、いついつ出会う。夜明けの晩に、鶴と亀がすべった。後ろの正面、だあれ?」
玲奈「おじさん?」
玲奈の叔父「あたり!(叔父がその位置にいない場合は『違うぞ!』)」
  紅葉が舞台中央前に出る。裕次と玲奈の叔父は上手

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脚本 「かごめ」 第十一場

■第十一場
  例の喫茶店。洋一郎とトキオは先に帰ってもういない。良玄は玲奈を待って、ここに残って、所在なげにしている。テーブルの上にはアイスコーヒーと水。
  玲奈入場。小走りで良玄のもとに。
玲奈「遅くなってごめんね。」
良玄「お疲れ様。美羽、大丈夫? 」
玲奈「うん、すやすやと寝てる。‥色々あったけど、吐き出すこと吐き出したから、一応すっきりしてると思う。明日の朝、もう一度様子見てくる。朝食

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脚本 「かごめ」 第十場

■第十場
  前場から五時間後。トキオの自宅。夕食を終えたところ、父の亀井仁はテーブルでビジネス書を熱心に読んでいる。母の恵は、鼻歌を歌いながら食器を洗っている。姉の奈央は、テーブルから少し離れたところでテレビを見ている。トキオは、テーブルに座り、先ほどの出来事を考えている。
  テーブルの上は、各人の湯飲みがあるのみ、清潔。あかるい色のテーブルクロス。
トキオ「うちの家庭って、普通だ。」
仁「ん

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脚本 「かごめ」 第九場

■第九場
  前場から15分後、例の喫茶店に良玄、トキオ、洋一郎が集まる。テーブルには人数分のアイスコーヒー。全員美羽のことを考えている。重苦しい雰囲気。
良玄「セックス、優しさ、男性、父親、自己嫌悪、正当化。‥いろんなものが絡み合ってる。父親への気持ちをどう整理していいか、自分でもわからなくなってるんだ。」
トキオ「言ってることが、あっち行ったりこっち行ったりで。どれが本心かわからない。とても整

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脚本 「かごめ」 第八場

■第八場
  前前場から10日後。昼すぎ、曇り空。美羽のアパート。美羽、玲奈、良玄、トキオ、洋一郎がいる。部屋は前より整然としている。青い花(造花)が、飾られている。
  美羽は、家族の事、特に父の事について語り終えた。
  美羽は布団から半身を起こしている。淡々とした表情。玲奈は呆然とした表情で美羽の傍にいる。良玄は美羽と正対の位置にいて、まっすぐに美羽を見て冷静を装う。トキオは良玄の隣にいる。

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脚本 「かごめ」 第七場

  美羽、良玄、トキオ、玲奈、洋一郎、紅葉、裕次が、「かごめかごめ」で遊んでいる。真ん中の鬼は美羽。他は美羽を囲んで笑顔で踊り、歌う。
全員「かごめ、かごめ。かごの中の鳥は、いついつ出会う。夜明けの晩に、鶴と亀がすべった。後ろの正面、だあれ?」
美羽「お父さん?」
裕次「あたり!(その位置にいない場合は『お父さんはここ!』)」
  裕次が話した途端、良玄、トキオ、玲奈、洋一郎、紅葉は裕次をにらむ。

脚本 「かごめ」 第六場

  前々場の翌日、美羽のアパート、深夜。小雨。
  美羽は浅い眠りから覚めて、半身を起こす。じめじめした部屋の空気に顔をしかめる。布団の脇に置いてあるペットボトルの水を少し飲む。
  そこに、美羽の空想上の玲奈があらわれる。
玲奈(空想)「美羽。」
  美羽は、少し寝ぼけている。
美羽「あ、玲奈。お弁当買ってきてくれたの? 」
  玲奈は、おごそかな口調で語る。
玲奈(空想)「私は来たくてお前のと

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脚本 「かごめ」 第五場

■第五場
  内山洋一郎の自宅。家族で夕食。テーブルにいるのは、洋一郎と、母の美千代、妹の紅葉。父の鉄幹は少し離れたところの小机で、一人で夕食のおかずをつまみに酒を飲んでいる。
  全員黙々と下を向いて食べている。
  鉄幹はテーブルの方を見ずに言う。
鉄幹「ごはん! 」
  美千代がお茶碗にご飯を入れて、鉄幹のもとに歩み、茶碗を差し出す。
美千代「はいお父さん。一杯でいい? 」
  鉄幹は答えな

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脚本 「かごめ」 第四場

■第四場
  美羽が8歳の頃。冬、昼過ぎ、快晴。父の裕次が務める健康食品会社のオフィス内。5人ほど従業員がいる。部長用の大きな机がオフィス奥にある。机上には赤い花(造花)が飾られている。部下の粗末な机と椅子が並ぶ。
  部長が、手に持っていたコーヒーカップを、裕次に投げつける。陶器製のカップは床に落ちて割れ、激しい音がなる。

部長「アポイントメントをキャンセルされましたじゃないよ!! これで何回

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脚本「かごめ」第三場

■第三場
  前場と同時刻。時谷美羽が居住するワンルームアパート。狭い室内に物とゴミが散乱している。美羽は四肢の力が抜けた状態で、死骸のように布団に横たわって、目を瞑っている。立田玲奈は、散らかっているゴミを袋にいれている。
玲奈「美羽、お弁当冷蔵庫に入れておいたから。温めて食べてね。」
  美羽は寝転んだまま、目を瞑ったまま、小声で返事。
美羽「‥ありがとう。‥玲奈がいるから助かる‥。」
玲奈「

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脚本「かごめ」第ニ場

■第ニ場
  2017年6月。鬱々とした曇り空。昼下がり。東京都某所の古ぼけた喫茶店。店内は広いが客は数人しかいない。鵜飼良玄、亀井トキオ、内山洋一郎は、店の奥のボックス席でコーヒーを飲みながら話している。テーブルも椅子も、暗い色。
  良玄は服装は、折り目がきっちりついたシャツ、しかし靴は古い。トキオはラフなシャツだが、靴は高価なもの。洋一郎は上着は半袖シャツ、下はジャージ、靴は穴サンダル。
 

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