脚本 「かごめ」 第十一場

■第十一場
  例の喫茶店。洋一郎とトキオは先に帰ってもういない。良玄は玲奈を待って、ここに残って、所在なげにしている。テーブルの上にはアイスコーヒーと水。
  玲奈入場。小走りで良玄のもとに。
玲奈「遅くなってごめんね。」
良玄「お疲れ様。美羽、大丈夫? 」
玲奈「うん、すやすやと寝てる。‥色々あったけど、吐き出すこと吐き出したから、一応すっきりしてると思う。明日の朝、もう一度様子見てくる。朝食作って持っていきたいし。(店員に)‥すみません! アイスコーヒーお願いします! 」
良玄「‥玲奈は、ほんとうによく、美羽のために頑張ってるなあ。‥ねえ? どうしてそんなに一生懸命出来るの? 」
  美羽は照れたように笑う。
玲奈「その言葉、そのまま良くんに返すよ。」
  良玄は少しうろたえる。
良玄「‥それは、‥ちょっと言えないなあ。」
  玲奈はくすくす笑う。良玄も苦笑。
玲奈「駄目よ。前から不思議だったのよ、良くんと美羽の関係。すっきりしちゃいなよ。」
良玄「関係って、言わないで。」
玲奈「いいから、いいから。‥じゃあ、‥わたしは理由をきちんと話すから。良くんの理由もしっかり聞かせて。‥まあ、おおよその想像はついてるんだけどね。」
  良玄は、何か反論しかけて、やめて、苦笑する。
良玄「‥わかった。じゃあそちらから。」
  玲奈は虚空を見て、頭を整理する。
玲奈「どこから話していいかわかんないけど、‥わたしと美羽、高校のクラスメイトだったのね。すごく仲良かったの。だから美羽のために頑張ってる。はい以上。」
良玄「おい。」
  玲奈はいたずらっぽく笑う。
玲奈「何? 」
良玄「それで終わり? なら俺の話も早いよ。幼馴染だったから。はい以上。」
玲奈「ごめんごめん。で、なんでそんな仲良かったかというと、わたし、高校で、‥いじめに合ってたのよね。そんな中、美羽だけが味方だったの。」
良玄「イジメられる感じには見えないけどなー。」
玲奈「まあわかりやすい言葉で言うと、‥わたし、‥ビッチだったから。‥男子からも女子からも軽蔑されてた。」
  玲奈はゆっくりと告白する。言葉に詰まる良玄。
玲奈「そうなったきっかけは、‥中学2年だったかの夏休み。‥強姦されたのよ。叔父さんに。‥初めてだったのにすごく乱暴だった。‥いきなりわたしのところに突っ込んできたから、‥ほんとに痛かった。血もたくさん出た。」
  玲奈は冷静を装うが、かすかに震えている。
良玄「‥警察には? 」
玲奈「叔父さん、‥正確にはお父さんの妹の旦那さんなんだけど、‥ヤクザまがいの仕事してて、手下みたいなのもたくさんいたから、‥父さんも母さんも逆恨みに震えて。‥警察には言えずじまい。両親がそんなだからわたしも、‥黙るしかなかった。」  
  玲奈は悲しみをこめて話す。良玄は、そんな玲奈をじっと見つめている。
玲奈「叔父さん、それからしょっちゅう家に来るようになった。もちろんわたしが目的。だからもう観念したの。黙って相手に委ねて痛くされるのはもう嫌だから、まず叔父さんのをくわえて、落ち着かせて。自分のも濡らして、痛くなく、スムーズにできるように。そうしたら、慣れちゃったし、気持ちよくなってきたし、叔父さんはどんどんわたしに優しくなっていったのね。‥あ、わたしは勝ったんだ。‥そんなこと思っちゃったのよね。‥ごめん、ちょっともらっていい? 」
  玲奈は、良玄のアイスコーヒーを一口飲む。良玄は水を一口。
玲奈「それからのわたし、ちょっとおかしくなっちゃって。気になる男性を見ると、‥エッチがしたくなって、したくなって、たまらなくなるの。‥言葉や心なんてどうでもよくて、身体でやり取りすることしか考えられなくなった。‥確かにビッチなんだけど、人って表面しか見ないものね。みんなそんなわたしを軽蔑するだけで、どうしてそうなってしまったんだろう? ってところまで考えてくれるの、美羽だけだった。」
良玄「そうか‥。」
玲奈「うん。‥美羽に全部話したら、すぐに自分の本心がわかって。カウンセラーも受けて。それでわたしはそれで助かった。‥美羽はわたしの恩人。だから美羽が鬱になって、高校辞めた時、恩返しをしないといけないときだ、って思ったの。‥でも、どうして美羽、自分も強姦されてた、ってこと、話してくれなかったんだろう。」
  玲奈は寂しそうに下を向く。
良玄「玲奈は、自分が被害者だってこと、心の底ではわかってたんだよ、多分。‥美羽との違いはそこで、そこが美羽の一番の問題‥。」
玲奈「‥そうね。」
良玄「玲奈は何も悪くない。」
玲奈「うん、ありがと。‥さっ、カミングアウト大会再開しよっか! 今度は良の番ね。」
良玄「参ったなー。これは今言うタイミングじゃないんだけど。」
玲奈「美羽はいないんだからいいでしょ? 練習のつもりで。ほら、汗ふいて! リラックスして! 」
  玲奈は自分のハンカチで良玄の額や頬を拭う。
良玄「ちょ! 」
  あわてて思わず制止しようとする良玄。笑う玲奈。

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