脚本 「かごめ」 第十三場


  前々場から三時間後。洋一郎の自宅。部屋で紅葉と一緒にいる。洋一郎は美羽のことをあけすけに話していた。
紅葉「壮絶だね、美羽さん。‥ウチの家庭は、やっぱ普通な方ね。」
洋一郎「それだけどさ、低いところにベクトル合わせるのは、やっぱやめようよ。‥あ、それでさ、俺はみんなの言うことがもどかしくってさー。‥美羽に快楽、‥なんか楽しいことを与えて気分を明るくさせてあげれば? って言ったんだよ。」
紅葉「楽しいこと、って例えば? 」
洋一郎「例えば、‥おれと紅葉がしてること、とか。」
  紅葉は大きく目を見開く。
紅葉「‥お兄ちゃんそれ本気で言ってる? お父さんにエッチされちゃった人のことだよね? 」
洋一郎「でもさ、彼女は、やっているうちに気持ちよくなってきた、ということも言ってたんだよ。‥だから、‥そういうのは大丈夫かな? って‥。」
紅葉「それは、身体がそう感じてるだけ。心は別のところにあって、とても傷ついているんだよ。‥お兄ちゃんとわたしだって、気持ち良くなってるけど。‥でも恋愛じゃあないでしょ? 」
  上目遣いで兄の顔を見る紅葉。洋一郎の心は揺れ、視線がぎこちなくなる。
洋一郎「‥そう、だよな。恋愛では、ない、よな。うん。」
紅葉「お兄ちゃん。」
  紅葉は、洋一郎を優しく抱く。
紅葉「今日先生に相談したの。わたし、北海道の大学、受験することにした。もうすぐ本当に離れ離れになる。‥ごめんね。」
  洋一郎は紅葉を抱き返さない。
洋一郎「‥寂しくなるけど、その方がいい。‥しっかり勉強して、自立して、就職して。二度と牢獄に戻ってくんなよ。」
紅葉「うん。‥お兄ちゃんがいたから、わたしはここまで生きてこれた。ありがとう。」
  紅葉はそのままキスの体勢に入るが、洋一郎は応じない。それを察して抱いた手をほどく紅葉。
紅葉「ごめんね。お兄ちゃん。」
洋一郎「謝るのは俺だ。俺の夢の方がおかしいんだ。‥でも、俺は紅葉のこと、‥いや、紅葉の兄貴なんだからさ、なんとかしなくちゃ! って。‥それだけは間違いないよ。」
紅葉「うん。愛はたくさんもらったよ。‥大好きだよ、お兄ちゃん。」
  紅葉は兄と別れる悲しさに、下を向き肩がふるえる。洋一郎は、紅葉を抱き寄せようとするが、思い直して紅葉の背中をやさしくなでる。
  紅葉が落ち着くと、洋一郎はスマホを取り、良玄に電話しようとする。
洋一郎「良。おれらはとんでもない間違いをしたかもしれない! 」

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