脚本 「かごめ」 第四場

■第四場
  美羽が8歳の頃。冬、昼過ぎ、快晴。父の裕次が務める健康食品会社のオフィス内。5人ほど従業員がいる。部長用の大きな机がオフィス奥にある。机上には赤い花(造花)が飾られている。部下の粗末な机と椅子が並ぶ。
  部長が、手に持っていたコーヒーカップを、裕次に投げつける。陶器製のカップは床に落ちて割れ、激しい音がなる。

部長「アポイントメントをキャンセルされましたじゃないよ!! これで何回目だ時谷君! いったいお客様に何をしたんだ! 」
  部長はぎらぎらした目で裕次をにらみつける。裕次は申しわけないという表情でうなだれるのみ。一人の社員が無表情にコップのかけらを拾い、もう一人が床や机に飛び散ったコーヒーのしぶきを雑巾でふく。その他の社員も無関心。
裕次「‥はい、特に非礼なことはしていない、つもりなんですけど‥。」
部長「‥キャンセルの理由は? 」
裕次「何でも、至急別の人に会う約束ができたらしく‥。」
  部長は苦々しい顔で言う。
部長「それは他社の営業だろ? またやられたんだよお前は。‥ウチの商品のこと、きちんと説明しているのか? ‥オルニチン、アラニン、パンテトン。グルタミン、シスチン、アスパラギン。しじみの持つありとあらゆる栄養成分を凝縮させた健康食品「しじみの里」。しかも1か月分4000円のところを、2か月無料サービス。‥これで売れないはずがないんだ! 」
裕次「申し訳ございません。わたしの営業力がないばかりに‥。」
部長「もういい! 聞き飽きたよ言い訳は。‥今日は帰りなさい。‥明日からもう来ないでいいから。」
  クビ宣告に衝撃を受ける裕次。部長は裕次を見ない。
部長「雇う時の約束だっただろ。成績が悪い場合は雇止めすると。契約書にもあるんだ。帰りなさい。‥会社の持ち物は全部机の上に出しとけよ。」
  そう言うなり、部長は裕次を無視。一人の社員が部長机に近づき、部長の耳元で何事かの用件を耳打ち。そちらに集中する部長。
  裕次は、それでも憐れみを乞うように部長と周囲の社員を見ていたが、誰も目を合わさない。仕方なく、社員証や営業資料を机に置き、一礼。
  オフィスを出る前に、同僚の野田仁美に小声をかける。仁美は裕次の後ろについていく。一緒にオフィスの外に出て扉を閉めたところで、二人は向かい合う。仁美はそっけない態度。
仁美「何? 」
裕次「‥申し訳ない。こんなことになってしまって。」
仁美「んー、まあ仕方ないんじゃない? 」
裕次「‥急で悪いけど、今晩ちょっと付き合ってもらえないか? これからのことも相談したいし。」
仁美「‥何か話すこと、ある? ‥手早くここですませようよ。もう会わないようにしよ。」
  裕次は驚き、憐れみを乞う表情。
仁美「‥別にわたしとあんた、付き合ってるわけでもないし。‥女が欲しいなら他をあたりなよ。まあ、そんな情けない顔してる無職の男なんて。誰も寄りつかないだろうけどね。」
  仁美は自分の言葉の残酷さに、小さく苦笑する。裕次はいたたまれず、逃げるようにその場を去る。

  ‥三時間後、裕次は美羽が待つ自宅に帰る。酒をしたたかに飲んで足元がふらつくが、なんとか玄関の扉を開ける。
美羽「おとうさん! おかえりー! 」
  幼い美羽が玄関に飛び込み、父に抱き着く。
裕次「美羽ー!、いい子してたかー。あ、今日の遠足、楽しかったか? お父さんが作った弁当、どうだった? 」
美羽「すんごく美味しかった! ちゃんと全部食べたよ。あ、でも豚さんのお肉の‥、なんかくるくる巻いたの、すごく美味しそうだねって良くんに言われたから、自慢して一切れあげちゃった。」
  照れ笑いする美羽。
裕次「そうかー。美羽もその友達も、よかったなー。」
  裕次は美羽をしっかりと強く抱きしめる。
美羽「‥おとうさん、ちょっと苦しい。‥おさけ、のんでる? 」
裕次「黙って! じっとしてなさい。」
  大声に美羽はびっくり。裕次も自分の声にびっくりする。
裕次「ごめん。‥大きな声出してごめんな。」
  裕次は、優しい顔に戻って、じっと美羽の顔を見つめる。顔がほころぶ。美羽も戸惑いながら笑顔。
裕次「美羽は美人さんだなー。‥尚子そっくりだ。」
  そう言って、裕次は美羽の唇にキスをする。
  美羽は何が起こったかわからず、顔をきょとんとさせ、キスされた唇を手で拭う。裕次は美羽の仕草に気づかず、一人で笑っている。 

  ‥その日の深夜、裕次と美羽は、布団を並べて寝ている。
   突如、裕次は布団をはねのけて起き上がる。しばらくじっとしていたが、思いを決して、隣の美羽の布団の中にすべりこむ。終始無言で、思いつめたような表情。美羽はびっくりして目覚め。布団から半身を起こす。
美羽「おとうさん!? あーびっくりした。‥どうしたの? 」
裕次「尚子‥。」
  裕次は美羽を布団の中に抱きよせ、キスをして、パジャマを脱がせる、
美羽「おとうさん、なになに? 今からお風呂? 」
  裕次は、美羽の裸体を撫で、やがて胸と陰部を触り、なめる。
美羽「おとうさん、くすぐったい。気持ち悪い。‥やだ。やだやだ! おとうさん! 」
裕次「黙って!‥美羽ももう8つになったからな、‥おとうさんのこと好きだよな? 大丈夫だよな? じっとしてて。」
美羽「おとうさん、でもこわい。」
裕次「黙って!! 」
  裕次は半身を起こし、美羽を仰向けにして、陰部に挿入する。
  美羽は恐怖で泣きながら叫ぶ。
美羽「おとうさん、‥こわい。こわいー! っ!! 」
  美羽は、挿入の痛さと恐怖に声も出ず、顔をくしゃくしゃにゆがめ、涙をながし、握りこぶしで床を叩く。

  ‥幼い頃の忌まわしい記憶を夢に見ている現在の美羽。布団の中でもがいている。窒息しそうな苦しい表情。口を開けているが、叫び声が出ない。
美羽「‥あ、ああっ! 」
  ようやく叫び声が出て目が覚める。布団を蹴飛ばして、半身を起こす。呼吸が荒い、汗が噴き出ている。額の汗を袖で拭く。自分の陰部をパジャマごしに、そっとさわり、がっくりと下を向く。

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