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長編がうまくいかない原因3つ

8月の頭まで大学で創作の授業をしています。

そろそろ作品の形が見えてきましたが、かなり苦労している生徒さんも見受けられます。

今回はそういった生徒さんに共通する、物語がうまくいかない原因をご紹介します。



うまくいかない原因

生徒さんが出してきた作品を見ると、「もうちょっとなんだけどなあ……」と思うことがよくあります。

最低限の話にはなっていても、今ひとつしっくり来ないのですね。

だいたいは、話がふわっとしすぎていたり、設定がごちゃついていたり、いらない要素が入っていたりして、強い物語になっていない印象です。


うまくいかない原因はさまざまなのですが、今回はわりとよく見かける3つをご紹介します。

  1. キャラクター
    動機が弱く、説得力がない

  2. ストーリー
    障害や問題が弱い

  3. アイデア
    最初のアイデアを捨てられない


それぞれ簡単に見ていきましょう。


1.キャラクターの問題

1つ目はキャラクター関連です。

主人公の動機が弱いというのがよく見かける大きな問題です。


動機とは「〜したい」という強い思いです。

主人公に動機がなければ、物語は動きません。


動機はベクトルなので、

  1. 方向

  2. 大きさ

の2つを持っています。


1の方向が物語の進行方向であり、2の大きさが物語の駆動力になります。

方向性が定まらず、また大きくもない動機だと、物語は停滞し、掴みどころのないふわっとした話になりがちです。

動機と物語


おそらくですが、生徒さんはキャラクターを実在する人物として捉えすぎています。

現実の世界で、「〜したい!」という強い思いを持ち続ける人物は珍しいでしょう。

多くの人は「〜したいけど、そういうわけにもいかないよなあ……」とか「〜したいと思ったけど、やっぱりこっちにしよう」といった、悪く言えば優柔不断な、よく言えば現実的な選択をするものです。


そういった、現実世界にいるような人物を主人公にすると、単なる動機の弱いキャラとなり、物語を進ませるのが難しくなります。

経験を積めば、そういった優柔不断な人物でもストーリーを作れるでしょうが、最初はシンプルに、強い動機のある主人公の方が簡単なのです。


物語は現実ではなく、作り物です。

中途半端なリアルさを持ちこむと苦労します。

現実にはあり得なくても、主人公に強くてシンプルな動機を与えれば、物語は自動的に進むのです。


2.ストーリーの問題

2つ目はストーリー関連です。

典型的な長編では4つの障害(問題)が起こりますが、その障害が弱い(小さい)というのがよく見かける問題です。

ヤマが低いと言ってもいいでしょう。

障害の大きさと物語


単純に言って、障害が大きければ大きいほど、物語は盛り上がり、面白くなります。

反対に障害が小さければ、物語からは盛り上がりが失われ、読むのが苦痛になるほど退屈になっていきます。


これは1の動機の問題とも関係しています。

動機が弱いと、障害を考えるのが難しいのですね。


たとえば主人公に「マンガ家になりたい!」という強い動機があれば、障害や問題を起こすのは簡単になります。

たとえば、

  • 絵は描けるけどストーリーが作れない

  • 新人賞を競うライバルがいる

  • アイデアを盗まれる

  • 原稿をどこかに置き忘れてしまった

  • 締め切りに間に合わない

などがすぐに思い浮かぶでしょう。


動機がある主人公には方向性があるので、その方向性を邪魔する出来事が障害になります。

ところが、主人公の動機が弱いと、方向性も弱いため、邪魔をしにくくなるのですね。

「どうでもいいや」と思っている人物を邪魔するのは難しいのです。


生徒さんを見ている感じでは、「あまり波乱を起こしたくない」という印象を受けます。

波乱を起こすと、考えることが増えるので面倒だからでしょうね笑。

ですが、波乱のない話は、そもそも話として成立していないのです。


可能なら、主人公にとって最悪な事件を起こしましょう。

「最悪」となるのは、主人公にやりたいことがあるからです。

主人公のやりたいことをとことん邪魔するのが、作者の仕事です。


3.アイデアの問題

3つ目はアイデア関連です。

最初のアイデアを捨てられないというのがよく見かける問題です。


授業では最初に話のアイデアを見せてもらうのですが、最初に出したアイデアを最後までずるずると引きずる生徒さんがいます。

そのせいで、物語が複雑になり、展開させるのが難しくなっているにも関わらず、そのアイデアを使い続けるのですね。


「この要素はなくしてもいいんじゃない?」と提案しても、頑なに変えません。

こだわっているというより、そのアイデアありきの思考から抜け出せない感じでしょうか。

それさえなければもっとシンプルで強い話になるのに、どうしても捨てられないのです。


これは生徒さんに限らず、いつでも起こりうることでしょう。

最初のアイデアというのはなかなか捨てられないものです。

出してしまったアイデアには愛着も生まれますし、人は損失を回避しようとしますから、出したものを捨てるのには抵抗を覚えるのだと思います。


ですが、ここはもっと大きな目で見なければなりません。

そのアイデアや要素のせいで、物語がうまく進まないなら本末転倒です。

勇気を出してアイデアを捨て、考え直しましょう。

その手間を惜しんではいけません。


行き詰まったら顔を上げて、ゴールを確認するといいです。

作者のゴールは、自分が出したアイデアに固執することではなく、良い作品を生み出すことです。

良い作品を作ることさえできれば、途中はどうでもいいのだと気づけるといいですね。


「でも、そのアイデアを捨てたら、もうアイデアを思いつかないかもしれない……」と心配する人もいるかもしれません。

ですが、その考え方は逆です。

古いアイデアを捨てないから、新しいアイデアを思いつかないのです。


よく言われることですが、新しいものを掴むには、いま握りしめているものを手放す必要があります。

手放す方が先なのですね。

ですので、安心して、その古いアイデアを捨ててしまいましょう。

そうすれば、きっと新しくて刺激的なアイデアを思いつきますよ。


今回のまとめ

「長編がうまくいかない原因3つ」でした。

  1. よくある原因は3つ

  2. キャラクターの問題
    動機が弱すぎる

  3. ストーリーの問題
    障害が小さすぎる

  4. アイデアの問題
    最初のアイデアを捨てられない

人に教えてみると、気づかされることがたくさんあります。

教えることこそが、もっとも多くを学べる機会なのかもしれませんね。

それではまたくまー。


(2023.7.31追記)

やったー!

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