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ヤンキーデビューちょっと失敗した話


高校1年生の春

入学してから初めての体育の授業

僕が入学したこの高校は
いわゆる不良が集まるヤンキー校だ。


僕は残念ながら
ヤンキーだから入学した訳じゃない

単なるバカが拗れて
流れ流れて行き着いてしまった。

ただこれは運命だ。
中学生の時から不良漫画が大好きで
憧れの不良になるチャンス。

ヤンキーデビューだ。

眉毛を剃り
ワックスとヘアスプレーで髪の毛を
針金の様に固めてオールバック。

完璧だ。

入学式はなるべく
背の低い奴らにメンチを切ってやった。

完璧だ。

後はここでのし上がれば
もっと完璧だ。



ただ初手でミスった。

初めての体育の授業で体操服を忘れた。


まぁいい。
最初の授業から体操服を持って来ない。

これもヤンキーだ。

1人だけ制服の僕に
体育の先生が言う

「お前ゴールの所で旗持って、
 よーいドンって言う係をしろ」


最初の体育の授業は
身体測定。

50m走でゴール付近に立ち
僕のよーいドンの合図で
先生がストップウォッチを押すという
段取りを提案してきた。


ふざけんな。
俺は不良だぞ?

そんな教師の犬みたいな事するわけが無い。


僕、いや俺は先生に真顔で言ってやった。



「あ、分かりました。」


またミスった。

体育の先生は怖かった。
筋肉もムキムキで皮膚を突き破りそうな程の
パツパツの身体をしていた。


初手をミスったが
そんなお手伝いみたいなものを
真剣にやる訳が無いだろ。



他の同級生が
白線に横一列に並び
先生がストップウォッチに手を掛ける。


僕は気怠そうな態度を全面に出し
ネットカフェの受付をする時くらいの
小さな声で

「よーいドン」

と言った。


僕のあまりに小さい、よーいドンの合図で
みんな走って良いのか分からず

少しフライング気味に出る奴
聞こえなかったから走り出さなかった奴
全力でスタートを切ったが周りが走ってないのに気付いて止まる奴


とにかくバラバラになってしまった。


「ストップストップやり直し!」

先生が手で大きくバツをして
バラバラに走り出した生徒を制止する。


その時、そのグダグダの
よーいドンに巻き込まれた
1人の生徒が僕に向かって




「声小さいんじゃ殺すぞごらぁぁ」




僕は震えた。



武者震い。



いいや、違う


めちゃくちゃ怖かった。



叫んだのはヤンキーデビューではない
筋金入りの本格派ヤンキーだ。


ラガーマンくらいのガタイに
シャー芯くらいの細い眉毛が
ほぼ直立くらいの角度で仕上がっている。


しかし、ここで負けてはならない。

あまりここで黙ってるビビってると
思われる。

僕は

「声小さいんじゃ殺すぞごらぁぁ」


に対して





「ごめん!!!!」



言ってやった。

すいません。じゃない。

ごめん!!!!だ。


…ごめん。じゃない。


ごめん!!!!だ。

引く【ごめん】じゃなく押す【ごめん】だ。


そこからは
ピンマイクでも付いてるのかと言うくらい
大声で


「よーーーーいドンっ!!!」

言ってやった。

そのまま体育も終わり

1人で教室に戻る。


途中の廊下で後ろから声をかけられる。

「おい。」


振り向いたら
さっきのシャー芯眉毛だ。


しばかれるんか?と思い
一瞬だけ泣いた。


するとシャー芯眉毛が
「お前おもろいな」

そういうと僕の頭を撫でた。


同い年である。
これは舐めすぎだ。

僕はすかさず言った。

「ありがとう!!!!」

ありがとうございます。ではない。
ありがとう!!!!だ。

…ありがとう。ではない。

ありがとう!!!!だ。

引く【ありがとう】じゃなくて押す【ありがとう】だ。


シャー芯眉毛は
それから特に僕を気に入ってくれる様子もなく
夏休み明けには学校に来なくなった。


ヤンキーデビューを決めた僕の
高校の最初に発した言葉は、


「あ、分かりました。」
「ごめん!!!!」
「ありがとう!!!!」

だ。


うん。ちょっと失敗した。


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