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(ミステリーホラー)混沌の化神 -7

少し遅めの昼食をとった。
身体を慮った母親が作ってくれたおかゆを食べ終え適度に満たされた気分ではあったものの、それでもまだ少し、夢の内容に引きずられていた。
母親からは"青山のおじいさん"、なる倒れた自分を運んでくれた人物にお礼をしてきなさい、とのお達しがあった。

携帯を見ると時刻は16時20分、身体としてはもう何の問題もない気がする。
確かにお礼に伺わなければという気持ちではあったものの、なんとなく今日ではない、そんな気がした。

今日はもう、家から出るのはやめて明日にでもお礼に伺おう等と考えていると、プルル…プルル…と携帯の着信が鳴った。
画面には、営業 馬場の名前。

何か仕事の件で用事でもあっただろうか。そう思った刹那、年末最後の出勤日に彼が話しかけてきた時のことを思い出した。

まさか。
「はい、須藤です…」
「あ、馬場です。今大丈夫?」
「うん、どうしたの…?まさかとは思うけど…」
「ははは…まさかとか言わないでよ。もう群馬には入っていてそちらの近くまで来ているんだけど、実は少し離れた所のホテルしかとれなかったんだよね。というか、その辺りにはホテルがなかったし。」
あっけらかんとした様子で何を言っているのだろう。まさか本当に訪ねてくるとは思いもしなかった。

「はぁ。で、私はどうすればいいの?」
「そこ、飲み屋ある?」
「あるけど…地元のおじさん達ばかりで、知り合いも多いから。絶対来ないで。」
「OK。んー、じゃあ須藤さん〜市まで来れたりする?」
「冗談でしょ…?今どこ?」
「今は〜市まであと30分…てとこかな。冗談だとしたら、僕は何の為に群馬まで来たのさ?」
愛知から群馬までの道程を考えると、さすがに無下に断るのはあんまりでは、そう思った亜矢子はテーブルの車のキーを手に取った。
「着いたらまた電話して?多分私のほうが早く着くから。」
「了解、ありがと。」
そう答えると馬場は電話をきった。

人が倒れて目を覚ました日に、なんて間の悪い男なのだろう。
でもこの日は亜矢子にしては珍しく、誰かと話して気を紛らわしたいと考える程に、独りでは解消しきれない気分に満ちていた。

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