入社1ヶ月半で会社を辞めさせられた話⑥

前回の話はこちら▼

「会社を辞めさせられた」のは、「失恋」とすごく似ていた。


なんでもかんでも恋愛に例えるのは良くないとは思うが、今回仕事を辞めさせられた時の心境は、全体的に失恋とすごく似ていた。

辞めさせられる話を聞いている瞬間は、本当に現実味がなくて、受け入れられなくて、脳が理解するのを拒否していて、「これは夢なのではないか」と本気で疑ってしまうような感じだった。
(付き合っていた人に振られる瞬間とかも、これと同じ感覚なのではないかと思う。)

就職活動の際に選考段階で落とされてしまうのは、「この会社は私のことを全てわかっているわけではないし、そんな会社に落とされても痛くも痒くもない」と思う。(付き合う前に失恋するのは、 「この人は私のことをちゃんとわかっていないわけだし」と思うことができるので傷は浅い。)
しかし、ちゃんと就職して研修も受けて、自分自身の性格や特性、努力の方向性、能力や技術などもすべて知られた上で会社を辞めさせられるのは、本当に自分と会社との相性が悪かったという事実や、自分は会社の求めているレベルに達していなかった、ということを突きつけられているようで、 虚しいし悔しいし、情けなくなってくる。(付き合ってから失恋するのも、これと同じような感情になるのではないか。自分のことをすべて知られた上で、「あなたとは付き合えない」と言われるのは、 付き合う前の失恋とはもう比にならないくらい壮絶な経験なのかもしれない。)

会社を辞めさせられた直後は、もう今後、就職活動なんてできる気がしない。あと5年くらいは就職活動なんてできないだろうな、と思ってしまう。
しかし、結局その気になれば、案外簡単に始められてしまう。
(失恋した時に、「もうしばらくは恋なんてしたくない」と言っていたくせに、意外と1ヶ月後には新しい人を好きになっていたりする、のと同じ。)

「もうこれ以上の会社なんてこの世には存在しない」と思っているので、もし他の会社に受かったとしても、結局は比べてしまって「前の会社の方がよかった」と思ってしまう気がする。
(失恋した時、もうこれ以上の人なんてこの世に存在しない、他の人のことを好きになっても結局は比べてしまう気がする、と思うのと同じ。)

どんな場所に行っても、どんな出来事があっても、会社での記憶と無意識に結びつけてしまう。
例えば、会社にいる時に取引先となっていた他の会社の商品を、店頭でたまたま見かけるだけで、思い出してしまう。
研修中に行った場所の近くをたまたま通りかかるだけで、そこでの光景を思い出してしまう。
会社の研修で、ある物の形のデザインを考える、というものをやってからというもの、他の場所でその物を見るだけで「どういう構造になっているんだろう」という視点で見るようになってしまう。そんな視点で見たところで、肝心のそれを生かすための「会社」はもう私には残っていないんだ、と気がついて、虚しくなる。
(失恋後はどんなものを見ても、「あの人と一緒に来た場所だ」「あの人と一緒に見た映画だ」と相手に関連づけてしまう、のと同じ。)

会社内の、研修中に使った部屋全ての光景や、出来事をすべて鮮明に思い出せてしまう。
会社に行く途中の道とかまでも、鮮明に思い出せる。
「もうあの場所には行けないんだな」と実感した途端、どうしようもなく切なく、虚しくなる。

生涯、定年までずっとこの会社で働き続けたいと思っていたし、そうなるものだと本気で思っていた。
(この人と結婚したい、この人と結婚するものだ、と思っていた相手を失ってしまうのと同じだと思う。)

先輩に「もう一度だけチャンスをください」「あと 1週間だけでも」と粘っていたのも、元カノのことを忘れられない未練タラタラ男みたいでダサいなあ、と思う。

どんな失恋ソングを聴いても、歌詞に共感できてしまう。
失恋の擬似体験みたいで、少しだけ、楽しさもあった。

私は、「仕事のため」「会社のため」と思えば、本当になんでも頑張れた。 自分が普段絶対にやらないような、やりたくないようなことのためでも、なぜか努力できた。

最初は営業志望だったので、募集要項の「運転免許必須」というのを見て、絶対に取るつもりはなかった思っていた車の免許を、お金も時間もかけて、免許合宿に行って必死で勉強して、免許を取ってきた。

研修中の仕事のレポートは、毎日仕事が終わると同時にカフェやファミレスに行って、寛ぎながらも終電や閉店の時間まで時間をかけてゆっくりやって、仕事自体は18時半で終わるのに、家に着くのはいつも0時ごろだった。
一人でゆっくり仕事の振り返りをする、そんな時間もすごく幸せだ った。

1ヶ月半の研修中のメモ、まとめ直し、ツールの勉強などに使ったノートの総ページ数は、239ページだった。ちょうどノート3冊分くらい。
1ヶ月半でこんなにノート使ったのなんて、初めてか もしれない。自分の中では本当に、人生でもトップレベルに頑張った、と思う。

この仕事を続けられるなら、彼氏と別れることになってもいいし、友達全員と縁を切ることになっても別に良かった。
「この人が手に入るなら、もう他に何もいらない」と本気で思えるような、恋愛とすごく似ていた。

私は大学でも、様々な活動に参加してきたし、自分なりに頑張ってきたつもりだったが、「他のものをすべて捨てても良い」と思えるくらい熱中できたことなんて1つもなかった。
こんな私に初めてできた、大切なものだったのに。
初恋を失ったのと、本当になにも変わらない。

今回、会社を辞めさせられそうになっている時に、心配してメッセージをくれた人や、相談に乗 ってくれた人が、合計で17人くらいいた。
(辞めさせられてからも含めたら30人くらい。)
私は本当に周りの人に恵まれているんだな、と実感できた。
それでも、もし仕事を続けさせてもらえるのなら、その人たちを全員失ったとしても別に良い、と本気で思えるくらい、会社のことが大好きだった。

「入社1ヶ月半で会社を辞めさせられた」「教えられたツールの操作を全然できていなかったのが原因」という、本当に要約の要約みたいな部分だけを人に話すと、「その会社やばくない??ブラックじゃない?辞めて正解だよ、1ヶ月半よく耐えたね」みたいなことを色々な人に言われてしまう。

しかし、この1ヶ月半、(辞めさせられそうになるまでは)、私は会社に対して嫌だと思ったことも辛いと思ったことも本当に一瞬もないし、むしろ毎日が楽しくて楽しくて仕方がなかった。
こんなに充実していて濃い毎日を過ごした経験が一度もなくて、とにかく新鮮で、新しい学びしかない毎日で、この会社にいたら確実に自分自身が成⻑できる、他の会社に行っていたら絶対になれなかったような、本当に人間としてレベルの高い存在になれる、と思うともうワクワクして泣きそうになって仕方がなかった。

それに、今回辞めさせられたのは、決して会社が悪いわけでもなくて、でも私が特別悪かったわけでもなくて、本当に仕方がなかったことなんだ、というのを、とにかく色々な人に分かってもらいたい。

誰になんと言われようと、私は本当に間違いなくこの会社が大好きだった。
これも、「人になんと言われようと、私はこの人のことが大好きだからそれでいい、この人と一緒にいられればなんでもいい」ってなる恋愛と、なんにも変わらない。

そしてやっぱり、「この会社に入れて本当によかった」と心から思う。 自信を持って「この人を好きになってよかった」って思えるような、良い恋ができたと思う。

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