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高寄昇三『大阪市廃止と生活行政の破綻』 : ポピュリズムに〈対抗する〉ためには

書評:高寄昇三『大阪市廃止と生活行政の破綻』(公人の友社)

本冊は、大阪維新の会によって進められている「大阪都構想」の欺瞞について、

(1)それが所詮は「大阪を、東京に次ぐ第二の〈都〉にするものではなく、単に、大阪市を解体して、大阪府に従属する四つの特別区に改変することで、大阪市の豊かな税収を、大阪府の自由にしようと企むものでしかない」という事実を、的確に紹介するとともに、

(2)しかし、維新の会は、その「本音と現実効果」を隠蔽したまま、手前味噌な自画自賛のプロパガンダ(政治的な洗脳的宣伝)によるポピュリズム(ウケ狙い主義)によって、「都構想」に関する住民投票の有権者である、大阪市の住民を欺こうとしている、という現実を指摘し、さらに、

(3)そのポピュリズムに対抗するには、どうしたら良いかの具体的方策を示す

ものとなっている。

したがって、「大阪都構想の現実(欺瞞)」について知りたい人は、本書を手に取ると良い。
真剣に勉強する気があるのなら、本冊は読者に裨益するところの大なるものがあるだろう。

ただし、弱点が無いでもない。それは「充分に平易ではない」という点である。
本冊の正式名称は『大都市問題の専門家が問う 大阪市の廃止と生活行政の破綻』であり、サブタイトルとして『〝市民連合〟による住民投票勝利への戦略』が付されており、要は、本册の眼目は「都構想の酷さ」の説明よりも、目前に迫っている「住民投票」において、負けないためにはどうすべきか、その具体策を授ける、というところにある。
しかし、本書の弱点は、タイトルにもあるとおり、著者が「学者」であり、前述のとおり、その記述が正確ではあっても「充分に平易ではない」という点にあるのだ。

著者は本册において「維新の会が、そのポピュリズムにおいて、欺瞞的なわかりやすさで訴えてくる以上、こちらも論理的正当性に固執するだけでは勝てない。もちろん、維新の会のような嘘はつけないが、もっと住民たちの気持ちにダイレクトに伝わる、平易でわかりやすい訴えで、維新の欺瞞に対抗しなければならない」という趣旨のことを訴えている。

無論、これはまったくの正論だ。だが、問題は、それが口で言うほど簡単ではないという点にある。
つまり、維新の方は平気でデタラメな数字を出してきて、調子の良いことばかりを語るフリーハンドなのだが、それに対抗するこちらは、嘘をつくことができないという条件付きなのだから、同じように「わかりやすく語る」というのは、けっこう至難の技なのである。

その証拠に、著者は「平易に語らなければ勝てない」と言うけれども、そう言っている著者による本册自体が、例えば同種の冊子である、同社(公人の友社)刊行の『「大阪都構想」ハンドブック ー「特別区設置協定書」を読み解く』(大阪の自治を考える研究会)と比較すると、あきらかに読みにくく、充分に平易ではないのだ。
だから、私が「大阪都構想の欺瞞」について知りたい初学者に、どちらを薦めるか言えば、残念ながら本册ではないということになってしまうのである。

つまり、(ごまかざずに)「平易に語る」ということは、言うほど簡単なことではない。それは本册の著者自身が実証してしまっていることなのである。
だが、それでも「都構想」に反対する我々は、「平易に語る」ことができなければならないし、そのための具体的方策としては、本册著者の示すとことは充分に参考となろう。

そうした意味で、私としては、「都構想の現実」を知りたいと思うのであれば、どちらも読むべきだと助言したい。
たしかに内容的に重なる部分はあるのだが、あとで読む方は「復習」だと考えれば良い。
いずれにしろ、100ページほどの冊子なのだから、どちらか一方だけなどとケチなことを考える必要はない。物事を正しく理解し、そして平易に語るためには、地道なくり返しの勉強が必要なのである。

初出:2020年9月4日「Amazonレビュー」

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