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恋ができなくなった私たちへ

年収も学歴も身長も関係ない、“ぎゅん”
またあの音が聴きたい。

自然体で、心から惹かれ、好きって言いあえる恋愛がしたい。


半年間婚活をして、入籍を目前に控えた彼と別れ、数ヶ月が経ちました。

今は独り身でいることの気楽さを満喫していますが、明日大好きな人が結婚しようと言ってくれたらきっと、一晩で荷物をまとめることでしょう。


いつしか私は相手に、あれがなきゃ、これがなきゃ、これがあるから、ばかりになっていた。

そうじゃなくて心が鷲掴みにされて動く、あの不確かだけれど力強い振動。


ぎゅん。


そう、言葉にして例えると、まさにぎゅん。

あの音をまた聴きたい。

何があるから好き、じゃなくて、何もなくても好きだったあの頃みたいに。



過去、この人の為だったら死んでもいい、と思った人は一人。
一日でも長く、最期までそばにいたい、と思った人はひとり。

相手を自分と錯覚するほど近くに感じ、こんなにも深く愛する力が内側にあったことに心が震えた日。

心地良いリズムで寝息を立てる背中の隣で、あぁ、生きていて良かったと思った。
静かに涙をこぼしながら見た、淡いピンクとオレンジに滲む、朝焼けのグラデーションの色が忘れられない。



昔は見た目がかっこいいとか、話していて楽しいとか、ギターが上手だとか。

単純な思考回路の先に、打ち上げ花火のように一瞬にして燃え上がる恋心がありました。


24歳で婚活をしてみて、当たり前のようにしていた恋ができなくなっていることに気が付きました。

──複雑で、論理的で、ずる賢くて。
多くの人を知れば知るほど、新しい人に会えば会うほど、欲が出てしまう。

横並びにされた、年収、学歴、身長。
それは選べるものなら、低いよりも、高い方がいい。
多くの人が思うように、わたしもそうだった。


より合う人とより良い人生を送るため、面接のような緊張感で繰り返すお見合い。

いつしかジャッチメントが増え、自分が望む『結婚観』が少しずつ見えてくるようになりました。
相手の年収というものを、身に降りかかる数字として認識したのも初めてのこと。

お見合い前に確認できるお相手のプロフィールは、本人の住まいや年収にとどまらず。
親兄弟の生年月日や職種、同居の希望まで知ることができて、 『より良い、よりお好みの遺伝子からお選びください』とさえ言われているようだった。


そこには結婚までの最短ルートを、サイコロを振らずに、地図を見ながら一歩ずつ着実に歩んでいけるような安心感があった。

なんだかこのままいい結婚ができそう、とのんきに空を見上げていた時期もある。


都心で暮らす年収うん千万の投資家から、地方のセコムに勤める笑顔の柔らかな男性とデートを重ねた。

結婚したいと思ったのは、地元の金融機関で仕事に勤しむ、一緒に居て穏やかな気持ちになれる彼だった。

けれど、今までの “あの音” がしない。

心の奥底で繋がりあう、“あの音” がしなかった。


歳を重ねる過程で、子どもを持つことや家庭に憧れを抱き、同時にきれいごとだけでは固められない現実を少しばかり見聞きしました。
未来に安心や安定を求めることは、健全な道を辿っているのだと思うのだけれど。



年収も、職種も学歴も、住む場所も、親との関係も、乗っている車も、身長も、長男か、も。


何ひとつ気にしていなかったあの頃って

なにも考えずに、どこからともなくやってくる熱烈な『好き』の二文字を目印に、時間もお金もすべてを自由に使っていた。

夜も朝もなく、老いも恐れもなく、全身全霊で震えあがり、心はスキップをしながら、
ふたりで遊び尽くしたあの季節は、

実はものすごく貴重な時間だったと、今になって思うのです。



思い返すと笑い転げてしまうほどに浅はかで、単純で、文字にするのも恥ずかしい。

すごく自由で、気ままで、わがままで
もはやあの数年は猫として生きていたのではないか、若いときだったな、激しかったなって。

今もまだまだ未熟なのに、そう感じてしまうほどなのです。


だけど恋に落ちるのはそんな、とても人には見せられないような理由がいいと思うのです。



2023.3/5

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