丸いフライパンのたまごやき
弁当のたまごやきはいつも丸いフライパンで母が作ってくれていた。
たまごやき用の四角いフライパンは家になかった。
単に使い分けるのがめんどくさい、四角いフライパンの用途が他にない、などの理由からだろう。
丸いフライパンで焼いたたまごやきは形が少しいびつだった。
両端は生地が足りてなくて薄っぺら、真ん中はほわほわでふかふかしている。
味付けは少し甘い。
母はいつも真ん中の一番美味しいところを弁当に入れてくれた。
たまごやきは毎日入っていて、飽きる飽きないではなくそこにいないと弁当が完成しない、そんな存在だった。
高校生活が終わり母のたまごやきを食べることがなくなった。
私は一人暮らしを始めるときに、角のあるたまごやきが食べたくてたまごやき用の長方形のフライパンを買った。
卵一つでふわふわふかふかに作れる小さめサイズだ。
たまごやきを作るたびに、その小さくて角のしっかりあるかわいらしい形を眺めては「このフライパンを買ってよかった」とうっとりしていた。
実家に帰省していたある日、父の弁当用に母がたまごやきを焼いていた。
いつもの丸いフライパンで。
母に「卵焼き機、使わないの?」と尋ねようとしたが、それはやめた。
たまごの香ばしい匂いが台所に漂う。
ふらふらとその匂いに誘われてできたてのたまごやきを見に行く。
細長くて、全体的に平たい、でもふかふか。
黄色いふかふかはきれいな焼き色がついていて朝日に照らされ黄金に輝いている。
母のたまごやきはこうでなくっちゃ
久しぶりにたまごやき、作ってもらおうかなあ
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