【詩人の読書記録日記】栞の代わりに 11月1日~11月6日

はじめに

こんにちは。長尾早苗です。もう11月になりました! 早いものですね……わたしは寄稿した雑誌や本の紹介もしつつ、お会いしたい方に会いたいなあという思いを強めています。とうとうこの記録も5か月目ですね。継続は力なりを実感しています……。

11月1日

ぐっすり眠れた一日。ショートエッセイを書きました。合評会の感想をフォルダに書き込むなど、もろもろ。自作詩についてのご指摘がありがたかったのと、色々と考えさせられ、自分の詩作スタイルについて考えた日でした。

11月2日

定期検診その1、移動図書館の日。告知できるようになりましたのでお知らせします。

双子のライオン堂出版『しししし4』(特集・中原中也)に、中原中也に関するエッセイを詩人として寄稿しました。先行発売は11月23日の文学フリマ東京です。webサイトに詳しく載っていますので、詳細はそちらに。

予約販売はこちらから! どうぞよろしくお願いいたします。

詩誌のオンライン合評のメール。来月楽しみだなあ。

・鈴木牛後『句集 にれかめる』角川書店

にれかむって、牛や馬が反芻するように草を食む様子から生まれたことばなんですね。ことばを反芻していくように句作する俳人。鈴木さんは本当に牧場で働いているそうで、だからこそ句のテンポが牛や馬の歩みのように規則正しかったり、またはことばをじっくり反芻するように味わいながら詠んでいらっしゃるような気がします。ことばを繰り返し味わう。いいことだなあ。

・小林理央『歌集20÷3』角川書店

すごーい! と歌集を読み終えた後言ってしまいました。そうか、5歳から詠んでいたんですね。なんというか、続けていくってすごいです。小林さんの歩みを見るようで。ことばというものに「憑かれてしまう」という言い方はあまりよくないのかもしれませんが、「ことば」というものが自分と分かちがたく、そしてそれに何があっても「憧れてしまう」ということは、小さいころから詠んできた歌人・俳人・詩人には言えるのかなあとも思います。なんだろう、ことばってすごく冷淡だし、それでしかコミュニケーションできないと思うと小ささを感じてしまう時もありますが、時としてすごく大きなものでもあるのかなと思いました。

・ねじめ正一『ナックルな三人』文藝春秋

詩人として生きたかった笹原。彼は絵本作家になることを余儀なくされますが、若年性認知症の絵本画家の石黒と出会い、彼とキャッチボールをするようにコミュニケーションすることで笹原の作品も変わっていきます。そして、二人が同時に憧れた女性。石黒の行方不明。なんでしょうね、なんでこんなに切なさがこみ上げてくるんでしょう。詩人として生きたい、という笹原の気持ちもわかるし、彼の抱えるほの暗い過去から抜け出すために彼の詩があり、絵本作品があり、というのもわかる気がするし、石黒の芸術論には人を食ったような邪気のないものがにじみ出てくるんです。そんな五十代の男性二人を描いた小説です。

11月3日

企画の打ち合わせもろもろ。色んな方にご縁があってうれしいです。祝日なのですがいつも通り仕事をしました。悩んで悩んで新作一編。

・シルバー・ラブクマ『泣きぼくろの記憶』文芸社

泣きぼくろが特徴の著者が語る自伝です。泣くということはひとにとって重要な感情表現だとわたしは思っています。自分の息子たち、夫を次々と失っていく悲しみに包まれた著者の生きる道が一冊の本になるというのは誰しもが願うことなのではないかとも思います。生きる道って誰でも、歳を重ねれば重ねるほど、何かに残しておきたくなるし、残そうという思いが強くなるのかもしれません。

・永嶋恵美『明日の話はしない』幻冬舎

明日ということば、みなさんはどんな響きを感じますか? わたしはとてもいいことばだと思うんです。明日が来たら、どんな今日でも幸せになれる。だからこそ未来を見る。でも、そう思えない現実ももちろんあって。この連作の中では、小児病棟・一九九八年のホームレス・不幸な生い立ちの元OLが登場します。そこに出てくる彼ら彼女たちは、「明日の話はしないと、わたしたちは決めていた」という一文から始まる物語を紡いでいきます。小児病棟の箇所を読んでちょっと思い出したのは、わたし自身も大きな手術をしたことが小さいころにあって、その時に小児病棟で仲良くなった子がいたんです。だからこそ最後の顛末には涙してしまいました。どんな未来でも、生きていかないとわからないこともあります。もしわたしがあの手術でいのちがなくなってしまったら、こんなふうに窓から晴れた空を見てぼうっとすることもなかったのかなと。

・西川美和『その日東京駅五時二十五分発』新潮社

この作品が書かれたのが2011年の早春だったそうで、2011311ということと、1945815という何かものすごく「ことば」に関して思うところがあって。この小説では終戦間近に招集され、陸軍にいながらも、一度も戦うことなく、何かすべてに乗り損ねてしまった少年が広島へ終戦当日帰る物語です。少年にとって、何か空疎なものだったというより、何がなんだかわからないまま「終わってしまった」ことだけを分かっていた戦争。その、自分が生きる世界の崩壊があまりにもあっけなくて、しかし生きる世界の崩壊はずっとあって。西川美和さんがこの物語を2011年に書いていたのはなんというか、ものすごくパワーのいることだったと思います。「あの日」に書けたこと「あの日」に書けなかったこと。

・フレドリック・バックマン 坂本あおい訳『おばあちゃんのごめんねリスト』早川書房

七歳のエルサはウィキペディアを使いこなす、ちょっと生意気な女の子。彼女の唯一の友達は、かなり変わったおばあちゃんでした。しかしおばあちゃんが天に召され、おばあちゃんからエルサが託された使命は、いままでの「謝罪」の手紙を色々な人に届けること。そうしてエルサが任務を果たしていく間に、たくさんのエルサの仲間ができます。はっちゃけたほっこり翻訳文学です。

11月4日

詩を推敲しながら、企画の打ち合わせのメッセージ確認など。ふと押し入れからハッカ油を見つけました。薬局で数年前に買ったものですが、目覚めや頑張りたいときにかぎます。編集される方々に敬意がわきます。執筆者として一人家にこもる生活をしていますが、本屋さんや編集のみなさまの日常を知ることができるツイッタータグ、「#本屋日録」、面白すぎるのでぜひ!

・アニエス・マルタン・リュガン 徳山素子訳『縫いながら、紡ぎながら』TAC出版

没頭する歓び。いやもうこれ本当にわかる気がします。洋裁・読書・作業などしていると、時間が経つのがあっという間に感じたり、まだこんなこともしていなかった! ってなる経験、みなさんにあるでしょうか。わたし自身は実は毎日そういう時間を作るために詩人になりました。詩を作っていたり、読書をしていたり。食べるのとか忘れちゃうんです、本当に。それはまずいなということで、パソコンにタイマーを取り入れた訳ですが(笑) この物語に出てくる主人公は、洋裁を趣味としています。最初は自分に自信がなく、おどおどとしていますが、ある特殊なプロのクチュリエ(洋裁師)が彼女を発見し、「職業」として彼女を服作りや洋服のデザインの仕事につかせました。最初は自分に対して何も誇れることのなかった女性が、好きなこと・得意なことを天職として見つけ、成長して行く物語です。

・ジェイムズ・ボールドウィン 川副智子訳『ビール・ストリートの恋人たち』早川書房

肌の色が違って、住んでいる国が違って、瞳の色が違って、何が悪いんだろう。「差別」ということばを平明にわたしなりに解釈するとそうなります。この物語の中でニューヨークのハーレムに住む黒人の少年少女たちが、守りたいこと・守るべきもの・自分たちの希望について本当に考えている物語です。語り手は19歳のティッシュ。彼女はある種強姦に近い形で、22歳のファニーの子どもを宿します。しかし、彼女にも彼にも何も、知識がなかった。それでも、いのちということやファニーが罪びととして生きるやるせなさも、彼女が受けた「何も知らない」ということに対しての憤りも感じました。ただただ、自分が母親になることというのはとても経済的にも大変ですし、責任をとても伴いますが、それを彼女も知りませんでしたし、しかも教育機関がそもそも彼女たちにありませんでした。ファニー自身も、自分がしていることに関して「何が悪なのか・何が罪なのか」を分からないでしてしまったことです。「被害者」と「加害者」の間で揺れ動く恋人たち。うーん……と考えさせられました。

・ロビン・スローン 島村浩子訳『はじまりの24時間書店』東京創元社

図書館の内情を知っている方・本が好きな方・図書館や本を愛する方全員におすすめしたい本です。わたしももう数年前になりますが、もともとは図書館員として働いていました。大学生だった頃は図書館という場所がただ大好きでしたし、幼稚園の頃から図書館に毎週通うのが当たり前という家庭で過ごしました。今は一人の執筆者として、本を出したり、編集の裏側を知ったり、本屋さんのことを知っていく中で、どれだけ「本」というものを作るのに大変な作業かがわかってきた気がします。この物語の主人公は大学図書館員ですが、普通は図書館員は図書館の中にいて書架整理・目録整理・本の装備(ブックカバーを巻いたり、バーコードをつけたり)・レファレンス(質問の受け答え)・事務作業と大変忙しい中、暇そうにしていることを義務とされます。しかし主人公は他の国に赴き、貴重な資料を集めるという仕事を引き受けました。そんな中で出会った書店が「24時間書店」。終日開いている書店で彼が出会った人々と本とは……。今はインターネットがありますから、こういう「選書」と呼ばれる本を探す作業はウェブサイトとエクセルを駆使しながら行うのですが、こういったものもとても楽しそうです。本を巡る旅なんてとても素敵だと思います。本にかける熱い思いが伝わってくる一冊です。

11月5日

定期検診その2。新月。図書館に行って文庫本をたくさん借りてほくほく。歩数計ポイントでドリンクを買いました。がんばったわたしへのご褒美。

11月6日

作品群の推敲、新作一編。もろもろ入稿のお知らせが入ってうれしいです。趣味の料理にすべてを使いました。白島真さんと帛門臣昴さんとツイッターのスペースでお話しして、大学生の頃現代詩文庫で読んだ吉原幸子さんのことを思い出しました。ずいぶんと詩の勉強にかまけていたなと思います。帛門さんの個人誌「卵」第四号をネットプリントし、吉原幸子さんの『昼顔』、『吉原幸子全詩1・2・3』予約。帛門さんの吉原幸子評と追悼詩、とてもよいのでぜひ! こちらからになります。

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