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【詩人の読書記録日記】栞の代わりに 10月10日~10月16日

はじめに

こんにちは。長尾早苗です。今週はもろもろ原稿チェックなど仕事で忙しい日々ですが、乗り越えます! がんばります!

10月10日

なんだか朝方寒くて着る毛布を解禁してしまいました。午後から暑くなったり……。体調を崩しやすいのでみなさま本当にお気をつけくださいませ!小川洋子『小川洋子の偏愛短篇箱』回送中。野村喜和夫『Plan 14 詩集』予約。

・武田百合子『富士日記 不二小大居百花庵日記 上・下』中央公論社

武田百合子さんにハマってしまいました。彼女の書く日記は多分自分だけのためだったのでしょうが、彼女の文才を大いに鍛えるものでもありました。ものすごい記録魔で、日々の三度三度の献立から、娘の花さんの成長、夫武田泰淳の口述筆記の日々などで、泰淳が亡くなってから発表されました。わたしも記録魔で、日々日記に書いていますが、ここまではさすがに書けません。それでも、彼女が生きていくためのしるしとして日記を書いていたのは励みになります。わたしもがんばろう。

・武田百合子『遊覧日記』筑摩書房

日々を見るまなざし、というものを考えます。日々の中にはいろんなものが隠されていて、ほとんどそれは日常の「ケ」なのですが、娘さんとの二人暮らしの中で見つけた「ハレ」の遊覧をきちんと文学の随筆にまで発展させています。日記文学というものはとても難しいジャンルです。日記的散文というものは何に属すのかわからないこともしばしば。しかし、誰かが言ったこと・行ったこと、それに対する「観察眼」というものが非常に武田百合子さんはすぐれていると思いました。

・白洲正子・円地文子『古典夜話』新潮社

けり子とかも子の対談集、と副題が出されていますが、これは『浮世風呂』から取ったもの。実際にいたんだそうです。お風呂場で市井の女性が古典について好き放題言い合うこと。かなり知識もないとこういった会話はできないでしょうし、白洲正子さんも円地文子さんも、本当に古典の先生の代表的な作家なのです。講義的にならず、本当にお二人ともお風呂場であけすけ古典についてあれこれ言いあうようなリラックスした会話がなされています。こういったリラックスした会話が自作詩や他の方の詩とできればいいな、と合評に思いを馳せます。

・伊吹有喜『なでし子物語』ポプラ社

手を伸ばせば、きっとつながれる。あたたかさに泣きそうになってしまいました。いじめにあっている耀子、過去の思い出だけに生きている照子、生い立ちに苦しむ少年立海。みんなが何かをかかえています。そしてみんな、なにかと闘っていて、そしてそこから何か始まるきっかけを求めています。この本を読んだ後、わたしは急に、ユー・レイズ・ミー・アップという曲を思い出して聴きました。涙が止まらなかった。

・穂村弘・東直子・沢田康彦『ひとりの夜を短歌とあそぼう』角川学芸出版

短歌を書いている方に対して本当に尊敬の念を抱きました。詩もそうでなければならないのですが、本当に「感情」や「ことば」「音」への執着がものすごく短い詩形の中にはあるんですね。ここをもっと「感情」のゆれ動きを表したいからこうするといいんじゃないか、というような添削自体もものすごく勉強になりました。短歌では歌会があります。そこでよいと思ったことばについて、あれこれ語り合うことについて思いを馳せました。

・倉田百三『出家とその弟子』岩波書店

普段はあまり戯曲を読みません。しかし、会話体で紡がれていく文章にはとても魅力を感じます。この戯曲は親鸞を主人公に、出家するということ、煩悩を捨てるということを親鸞の人生に合わせて描いています。出家ってわたしはものすごくパンクなことだと思っていて、やっぱり「すべてを捨てる」ってすごく難しいことなんだろうなと思いました。自分の欲を捨てること、そういったものを手放した先に待っているのはただただ「ほとけ」のような穏やかさではないでしょうか。そういった考え方は、わたしにとっても憧れです。穏やかに日々生活していきたい……ですが、わたしには「誰かを愛したい」とか「何かを食べたい」という欲はあるので(笑)、出家は当分先のことになりそうです(ちなみによく話を聞いてくれる美容師さんからはおばあちゃんになったら出家してそうとよく言われます)。

10月11日

野村喜和夫『Plan 14』回送中。気温や気圧の変化が目まぐるしく、夕方から朝にかけてほとんど眠ってしまいました。新作は書かず。リユース図書に持っていく本があと三冊になりました!

・武田百合子『日日雑記』中央公論社

武田百合子さんの最後の作品。散文詩的な文芸作品だと思いました。どの視点も、面白い。何かを見つめる目、というのが他の人とは違うなあ、すごいなあと思っています。本当に日々のことなんですけど、「あ、こういうことも確かにある!」とわたしが日記に書かないようなことまで観察して書いています。夫の泰淳さんが読んだら、なんていうのかなあ。

・板野博行『眠れないほどおもしろい百人一首』王様文庫

百人一首の頃の「恋」って、今とは全然文脈が違ったんですよね。今「恋」というと、とっても素敵な感情だし出来事だけど、それがまっすぐなものかどうかなんて、本人にさえ分からないと思うんです。ただ、百人一首の時は命がけ。そして、書いているみんなは教養がありましたから、自分の心を和歌にするということに非常にすぐれていて、自分の心を見つめる目がついていたように思うんですよね。そんなわかりやすい百人一首入門解説でした。

10月12日

イベントの打ち合わせ。なんだか静かな勇気をもらいました。がんばろう。

・ほしおさなえ『言葉の園のお菓子番 孤独な月』大和書房

このシリーズを読むと、仲間に本当に会えた気がするんです。実は、わたしのような人物が出てきていて(誰かはご想像にお任せします)わたしだったり連句仲間のことだったり。本当に懐かしいなと思ってしまいます。こんなこともあったな、こんな場所で巻いたな、と思うことが多くて……。今回は前回出てこなかった連句仲間が登場します。そして、一葉自身も成長していてとても読みごたえがありました。そして読後、清らかなものに包まれたような心地がしました。

・由良弥生『眠れないほど面白い古事記』王様文庫

日本神話ってすごくドラマチックで面白いんです! わたしも大学時代は国文科専攻だったので興味があって古事記や万葉集を勉強していました。古事記の授業の時は胸が高鳴りましたね。先生お元気かなあ。とにかく、神さまたちがみんなギリシャ的というか、すごくアニミズム的なものもあり、人間臭いんです、いい意味で。そういう「堅苦しさ」とは何ら無縁の物語の解説書、本当にわかりやすく書かれているのでおすすめです。

・植木朝子編訳『梁塵秘抄』筑摩書房

遊びをせんとや生まれけむって、どこかで聞いたなと思ったら、平清盛でしたかね、あのくらいの時代が舞台の大河ドラマだったような気がします。彼らの時代では「文学」こそが教養で、その「ことば」にのせて思いを伝えあうという所は本当にいい時代だったなと思います。もちろん動乱の世の中でしたから、必ずしもその時代がよかったとは言い切れませんが、「ことば」にして残すって、非常にのちのちの時代になってありがたい記録になっていたり、高度な文芸作品になっていたりするんですよね。初めて読みましたが、現代語訳もついていて解説もわかりやすいのでおすすめです。

10月13日

新作エッセイ1本。一日雨なので仕事をがんばれました。晴耕雨読というけれど、それが理想なんだろうなあ。大橋崇行『浅草文豪あやかし草紙』回送中。

・野村喜和夫『Plan 14 詩集』本阿弥書店

野村さん、一日何万歩歩いているんだろう……ちょっと歩数計を見てみたいような気がします。以前、野村さんの『花冠日乗』を取り上げましたが、野村さんの詩は深い哲学と思考とウォーキングハイによってできていると感じました。狂気と混沌があるようにも感じられるのですが、一貫してこの詩作品群を貫くのは深まった思考なのではないかと思います。この詩集はレイアウトも凝っていまして、なかなかできない詩だし、野村さんだからできたのかなあと思っています。

・まど・みちお『いわずにおれない』集英社

まどさんの詩は、平明な文体でつづられているのに、そこに深い深い感情や意味を感じてしまったり、文化や時代の背景を感じてしまう方も多いかもしれません。すごくわかりやすいのに、実は根本的な「何か」をちゃんとついている。わたしにとってまどさんはそんな方です。ひとり、について見つめた詩句、生きることについて、ことばについて。そういったものを長く考え続けてきて、「ことば」がどう読まれたがっているかを感じ続けた詩人だと思います。

10月14日

なにかと仕事で気ぜわしかった日。エッセイ3本。

・小川洋子編・著『小川洋子の偏愛短篇箱』河出書房新社

小川洋子さんは不穏なもの、アンバランスなものが好きなんだなあと思います。ご自身が描かれる小説の中の登場人物や場所も、一日数時間しか記憶が残らない博士、標本室など、そういった耽美的でアンバランスなものが多いです。そしてこの短編集も。短編の後には小川さんの解説エッセイが載っていますが、それもとても魅力的なのです。小川洋子さんご自身はわたしも大好きで、日曜日のFMラジオのパーソナリティの本の紹介番組も毎週聞いています。彼女の穏やかで安定した声や語り口が大好きなんですよね。なんだか書いているものと作家とはまた別人格なのかもしれません。

・梅原猛『古事記 増補新版』学研M文庫

この国はうたから始まった、という事実にぼうっとしてしまいます。そうか、神さまたちの応答も、すべてはうたから。つまり、ことばというリズムがあって、そこに現れる「音楽」があると思うんです。いつか、人の声を聞くと楽譜にできるアーティストの方のラジオを聞いたことがあったんですけど、すべての「おしゃべり」であったり「うた」は音楽によって始まっているんですね。神さまたちだけではなく、王様たちもそうだったことに改めて「うた」の神秘性を思います。

10月15日

昨日まで朝晩寒くて家で仕事ばかりしていたので、今日こそ朝に歩くぞ~!と思っていて、やっと100冊あった使わない・読まない本をリユースできました。今年初の柿仕事。なかなか手に入らないものだったのでうれしいです。新作1編、エッセイ1本。武田百合子『ことばの食卓』回送中。

・森浩一『萬葉集に歴史を読む』筑摩書房

穏やかな刺激というか、なんといえばいいのか。萬葉集について、歴史を「読む」ってすごく刺激的なんですけど、心が整えられていくことでもあるんですね。当時の人々がどうしても残したかった思い、生活。そういった記録を読み返すだけで心が落ち着きます。当時の「文字」も残されていて、写真に収められているのが印象的でした。文字について思いを馳せます。

10月16日

執筆が仕事であったり苦労であったりするのですが、やっぱり書いていると安心するなアと最近思います。忙しければ忙しいだけ読んでしまうし書いてしまうんですよね。随筆の日記を書き溜めています。わたしも「何かを見つめるまなざし」を日々深化させていきたい。日々の執筆の練習用です。がんばっていこうと思います。

・大橋崇行『浅草文豪あやかし草紙』一迅社/講談社

大橋さんはわたしが大学生だった頃に文学フリマで知り合った小説家兼日本近代文学大学講師の方です。彼の創作講座を取っている学生さんたちとよく文学フリマでご挨拶していました。みんな元気かなあ。この一冊は、現代に転生した泉鏡花と樋口一葉がコンビを組んで事件を解決していく物語です。現代に転生した森鴎外の娘、森茉莉など、日本文学を学んでいればお馴染みの顔がずらり。懐かしいなあとさえ思ってしまいました。多分大橋さんじゃないと書けないのではないかとさえ思ってしまいました。

・寺山修司『寺山修司全歌集』講談社

寺山修司の歌って、すごく秀逸なんです。特に、「大きさ」「色」かな。時には不穏なものを感じさせるものも多いんですけど、そこに瑞々しさとダイナミズムが隠されているように思うんです。彼は「墓を立てたかった」と歌を作るのをやめてこの歌集を出したそうなんですが、それ自体もパンクですよねえ。ただ、彼自身がとても「表現者」として憧れる部分があるため、自分の中に抱えている「不穏さ」を表しているようにも思います。

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