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短編小説

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記事一覧

【小説】俺は信号無視をした

【小説】俺は信号無視をした

横を通りすぎる歩行者が青信号を見つめながら立ちすくむ俺を怪訝な顔で一瞥していった。
俺はこの青信号を渡るわけにはいかない。
俺はこれから信号無視をしなければいけないのだ。
なぜ信号無視をしなければいけないのかというと、世間では今、歩行者の信号無視が大変な問題となっているからだ。
信号無視は様々な問題がある行為だ。信号を守らないことによって、信号無視した本人の身に危険が及ぶだけでなく、びっくりした車

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【小説】コロナ禍のコロナカ

 総理大臣が「緊急事態宣言を発出します」なんてSFじみたことを言ってから、さらにSFじみたことが起こるなんて。



 やることがない。Netflixでアニメや映画を視るのにも飽きて、あたしはひたすらボーッとしていた。
 SNSを見てもコロナ禍のストレスからか、最近は誰かと誰かが揉めている様子ばかり流れてきて疲れてしまう。単純にやることが無くなったのもあるけど、やる気自体が消失してしまっている。

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【小説】ツナガル部屋

ドアを開けて中に入ると、煌々と光るPCの画面を分断するように、兄が座椅子に座っていた。変わらない毎日の光景だ。

「はい、これ。」

「んん。」

 私がテーブルに、ストローを挿したエナジードリンクを置くと、兄が気のない返事を適当に返した。

 エナジードリンクの缶には、「最高のパフォーマンスを発揮するための相棒!」などと、仰々しく野心を煽るような長文が書かれている。

 毎日毎日PCの前で背中を

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【小説】寄る辺ない夜、寝ないで。

「──YOU LOSE──」

 ディスプレイに映し出された英字は、アタシに無慈悲に現実を突きつける。何もそんな太字で煌々と光りながら、英語で言わなくてもいいじゃんかよ。なんで英語なの?日本が戦争でアメリカに負けたから?
 目の前にはさっきまでアタシに操作されてたプレイヤーキャラが、どこの誰とも知らない対戦相手の銃弾に撃ち抜かれてみっともなくくたばっていた。
「使えねーな!お前は何のために生まれて

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【小説】消える白い部屋

気がついたら、其処にいた。

四方八方、壁も天井も床も、嘘みたいに真っ白だった。
どこにも出口は見当たらない。
小さな、真っ白な部屋。いや、部屋というより、空間という感じだった。

そこに私は立っている。ひどい孤独感に支配される。
ひとつだけ、正面に小さな丸い小窓が付いていた。
そこから覗くと、外に何人か人がいるのが見えた。
楽しそうにはしゃいでいるように見える。
だけど声は聴こえなかった。

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