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【ショート集】草原と枕

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ショート小説集第一編
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#2000字のドラマ

【ショート小説】マロンスの神様

【ショート小説】マロンスの神様

カランとベルがソプラノを打ち鳴らす。
僅かばかり覗きガラスの貼られた木製の扉が、ゆっくりと開かれるとそこには、茹だるような外の暑さに顔を顰めながら、二人の女性が立っていた。二人は店内の冷房に吸い寄せられるように、するすると中に入ると少しばかり店内を見渡し品定めをしている。
「いらっしゃいませ。二名様ですか。」
私が、涼しげな笑顔を作りいつもの言葉を投げかけると
「あぁ二人です。ここってタバコ吸えま

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【ショート小説】まじか、これ泣く感じだわ

【ショート小説】まじか、これ泣く感じだわ

しっとりとした雨がベランダを濡らす。
梅雨時期の空気が揺らめく煙を少し窮屈にしている様だ。甘くしたコーヒーはほんの一瞬だけ意識を鮮明にさせて、すぐにその残り香を消した。

携帯の時計を見ると午前6時丁度であった。
隣の部屋からは、大人しく謙虚な電子目覚ましの音が微かに聞こえてきた。
ふと携帯のニュースに目を落とすとトレンドが目に飛び込んできた。
どうやら、ランキングの1位は、昨夜亡くなった有名人の

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【ショート小説】ココロポツリ

【ショート小説】ココロポツリ

いつだか読んだ本に、他人の心の声が聞こえる主人公の物語があった事を今も鮮明に覚えている。
“さとり”と呼ばれるその能力のせいで、さまざまな挫折を味わいながら苦悩する主人公。それでも、理解者との出会いで、まるで奇跡のような困難を乗り越えていく、ヒューマンストーリー。僕はそれが羨ましくてたまらなかった。そう、僕は”さとれず”。
僕がこの能力にはっきりと気づいたのは、中学二年の頃。当時の僕は来年の受験を

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【ショート小説】脱ぎ散らかしてよ感情

【ショート小説】脱ぎ散らかしてよ感情

五人の女どもがおりました。
それぞれが、赤、青、黄、緑、サンドベージュのリボンを身につけております。
「私達、特殊歌撃フォース、オフェーリア!」
夏休みの体育館には、天地を揺るがす程の雄叫びが、木霊を包括しながら広がって、やがて消えていきます。
「何をやっとるんだ。」
頭頂部を体育館のライトに輝かせた教頭は、メタルフレームの眼鏡を少しばかり斜めにさせて、天空より壇上に降り立った女どもを棒立ちのまま

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【ショート小説】それはなんて青春

【ショート小説】それはなんて青春

仕事中、パソコンの画面に齧り付いていると
どうゆう訳か涙が流れそうになった。
理由はわからない、きっかけも何も無かった。
只、不意に小学校時代を思い出していた。
クーラーの効いたオフィスは大勢の人が忙しなく、時には楽しげで時にはもがき苦しむように社会を回していた。

もう、薄ぼんやりとなった記憶を弄ると、色々な思い出があるような気がした。記憶のおもちゃ箱の奥底に、一人の女の子が透明な箱に入れられて

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