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冬官庁訪問全落ち見聞録

割引あり

初日

 朝早く起き、スーツを着込み、なれないカバンに省庁研究の本と就活マナーの本を詰め込む。日比谷線に乗り、各駅各駅の魂の格を噛み締めながら霞ヶ関駅へ向かう。電車内には明らかに学歴の高い白髪の高級官僚が、電車の物置棚に新聞と革の鞄を置いている。どこか古びているけど静かな熱気のある、かつて国を動かした英霊の残り香を感じながら、緊張の霞ヶ関駅を降りた。駅のホームは地下にあり、慣れない東京の地下鉄の出口を辿りながら地上に出た。階段を登った先はなんと合同庁舎だった。正直かなり衝撃を受けた。今までの人生で長い事夢見てきた合同庁舎、霞が関を目にし魂が震えたのは今でも覚えている。僕は負けない。官僚になり故郷に凱旋するんだ。リクルートスーツを身にまといながら現職の官僚に紛れて一階の改札までやってきた。そこにいた警備員の方に「官庁訪問で参りました納豆です」とハキハキと伝えると、右手のところで訪問者名義と首から下げるICカードを配布された。胸をピシッと張って改札を抜け、はるか上空まで吹き抜けた庁舎を見上げた。コンクリート造りの建物の中には、官僚達の熱意と狂気に満ちているような気がした。
 待機場所は少し先の広場だった。いつものように30分前に到着した私はコートを脱ぎ、右手にぶら下げて前日に新幹線で勉強した官庁の特徴や自分の興味のある分野を脳内で反芻した。15分前に一人の女子学生がやってきた。職員の人と間違えられたのか、会釈され「官庁訪問の担当者の方ですか?」と質問されるも「僕も同じ官庁訪問です」と答える。孤独が打破された。安心したような表情で同じように集合時間を待っていると、残り2人の男女がやってきた。本日はどうぞよろしくお願いしますという感じで軽く挨拶し、集合時間を待っていると少し早めに案内の方がやってきた。「官庁訪問の方ですか?」と聞かれ4人でハイそうです!と元気に答えた。官僚は時間前にキリキリと動くのはどうやら本当らしい。僕ら4人の戦いが開幕した。 
 再度改札を抜けて奥まで進むとエレベーターがあった。どうやら集合場所で集まったあと、待合室の会議室で待機するらしい。官僚たちに挟まれながら各階で降りていく官僚を横目に、僕らが降りる番がやってきた。エレベーターを降りて右に行ったか左に行ったか、クネクネした道を進むと簡易な会議室がそこにはあった。荷物を椅子において職員面談の時間まで自由に過ごすことができると聞かされ、緊張しながらひたすら声がかかるのを待った。

会議室の待ち時間に

 案内の方が緊張せずにリラックスしてくださいねと励ましてくれた。どうやら後から聞いたが有名なリクルーターの人らしい。説明会などに参加していなかったため自分だけ面識がなかった。
 僕は大学の話を振られたが「行ってない」ので部活の話も飲み屋の話も何もわからなくてコロナ禍を少し憎んだ。
 そうこうしている間に横の男子学生が話しだした。

😁「皆さん本日はよろしくお願いします。えっと、官庁訪問初めてなんでわかんないんですけど、皆さん学部はどちらですか?」
👩「法学部です」
🚺「社会人です。学生時代は法学部でした」
🤡「法学部です」


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