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「ネガティブの報酬」は、もう要らない

自分の幼少期や、自分の親について、不自然に固定的な見方をする人がいます。

まるで、見る物が偏って見えてしまうフィルターを通している様な感じがします。

その頑なさは、重大な何かから必死で目を逸らしている印象です。

その人は言います。

「幼少期は伸び伸びと育てられ、幸せでした」

「優しい両親には本当に感謝してます」

失礼な言い方かも知れませんが、どこか芝居がかっている様に思えてならないのです。

生きづらさを抱えている、と言いながら、幼少期は幸せだった、と主張する人は、

如何に幸せだったか、を雄弁に語ります。

こちらが相槌を打つ間も与えない程の熱量です。

その熱は、何かに追い詰められた様に感じられます。

何かを隠す為に、言い逃れをしている様に映ります。

こういった場合その人は、
自分は優しい両親の下、幸せな幼少期を過ごした、というファンタジーの中で生きています。

その人の親は、幼いその人を利用する時、「お前の為を思って」と言った筈です。

幼いその人は、疑います。
幼いと言えども、度重なる理不尽の後の「お前の為を思って」に疑念を持ち、怒りを感じます。

しかし、無力な幼い子供にとって、親は絶対で、親は世界で、親は全てなのです。

ひとりでは生きて行けない、無力な幼い子供は、湧き出した疑念も、溢れそうな怒りも、意識の下に隠します。

そして、親を信じます。

親は、自分の為を思っている、と力ずくで信じ込みます。

終わること無くずっと、です。

理不尽と嘘はセットで毎日繰り返されます。
だから、終わることなど無くずっと、なのです。

そうやって、本心を意識のテーブルの下に隠し、意識のテーブルの上には、惜しみなく愛情を注がれる幸せな幼少期の記憶が並びます。

テーブルの下に隠した疑念と怒りが真実です。
テーブルに並んだ幸せな幼少期の記憶は、親にとって都合の良いファンタジーなのです。


心は実に不思議なのですが、いくら信じ込んでも、いくら意識の下に隠しても、
その人は、本当は知っています。

テーブルの上の幸せな幼少期は作り事であることを、です。

時を経て、大人になって、今更真実を認めることが怖いのです。

何故なら、その人の人生はテーブルに並んだファンタジーの上に積み上げた人生だから、です。

ファンタジーをひっくり返したら、自分は無くなってしまう、と思うからです。

知らない筈なのに、意識の下の真実に気がついています。

でも、認める訳には行かないのです。

だから、真実が白日の元に晒されそうになると、雄弁に熱を帯びて語ります。

何かに追い詰められたかの様に、
何かを隠す為に、語るのです。


幸せな幼少期を雄弁に語る人の不自然な熱に触れた時、
私は、この人は生きづらさを手放すタイミングでは無いのかも知れない、と思うのです。

生きづらさに気がついて、それを手放したい、と願っても、

今は、そのタイミングでは無い、と思えるのです。


ネガティブには、報酬があります。

この人にとっての報酬は、自分の幼少期は幸せだった、と思い込むことで、

自分が抱える無価値感と対峙せずに済む、ということ、

誰にも愛を注いでもらえなかった、という寂しい過去など無かったことに出来ること、です。

既に意識の下では、それが作り事だと知っているから、意識のテーブルに上げることを拒みます。

本当は知っているのに、知らないフリをするから、雄弁に語るとき周りから見ると、言い逃れている様に映ります。


ネガティブには、なんとも甘い香りのする報酬が確かにあります。

しかし、報酬は生きづらさに苦しむこととトレードオフの関係性なのです。

生きづらさを手放すとき、自分と向き合うことが必要です。

自分と向き合うには、ネガティブから報酬を受け取ることに、「飽きる」必要性がどうしても有るのです。

これまで受け取り続けて来た、甘い香りのする報酬を、もう飽き飽きだ、もう受け取らない、と決めることで、

慣れ親しんだファンタジーの世界から脱することが出来ます。

ファンタジーの世界の外には、真実があります。

真実には甘い香りはありません。

それどころか、見ることを避けていた真実は、苦さと痛みを運んで来ますが、

これまで感じたことの無い、清々しさと充実感をも与えてくれます。

そうなったとき、

報酬を受け取る為に、どれだけ大きな対価を支払っていたか、を思い知ります。

甘い香りに誘われて、人生を生きづらさで埋め尽くしていたことを知り愕然とします。

同時に、真実は苦さと痛みを運んで来ますが、それを恐れる必要はありません。

初めて味わう清々しさと充実感は、

苦さも痛みも、瞬間に溶かす、

光りを湛えているのですから。


読んで頂いてありがとうございます。
感謝致します。


伴走者ノゾム










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