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フグ田ナマガツオ
2023年6月12日 23:46
お題:好き嫌い好き嫌いはしちゃダメと教わってきたから、何も愛さないことに決めた。そのうち愛されたいと思うことすら辞めて、昆虫のように気高く生きてきた。だから、今更困るんだ。こんな風に愛を伝えられたところで、僕にはやり方がわからない。今週10回目になる林田仁花からの告白を断ると、教室中にブーイングが起きた。イキんなボケチビ、いらねぇならウチがもらうぞ、引き出し糠床にしたろか、などと物
2023年5月15日 21:02
(帝視点)かぐや姫が月に帰って、一年が経った。彼女が最後に残した不死の薬が入った瓶をつまみ上げて、ため息をつく。外に目を向けると、月はあの夜よりも傾いて、放つ光も不安げに見える。辛いだけだと知っていながら、気が付くと見上げてしまう。届かないことは分かっているのに。 たまにすべてが夢だったのではないかと思うときがある。それぐらいには、現実離れした体験だった。しかし、この激情がいつだってそれを否定
2023年3月16日 19:56
お題:過ぎ去った日々語り終わる頃には、自然と涙が零れていた。「すまないね。長話に付き合わせちゃって」袖で拭って、隣を向いた。月光で表情がうっすらと見える。真剣だが少し困ったような表情。「いえ、とても興味深い話でした。私と重なる部分もあって」女官は名を夕凪といった。夕凪は、先月ここに来たばかりだと言っていた。「重なる?」「はい。私、ここに来る時、家族を置いて来たんで
2023年3月15日 19:39
書く習慣 お題「月夜」こうして見上げるだけで、あの日のことは鮮明に思い出せる。夢のような出来事だったけど、確かに覚えている。二人で過ごしたあの時間も。幾度も交わした歌も。薬と手紙だけを残して、私のもとから去っていく後ろ姿も。かぐや姫が月に帰って、10年の月日が流れた。あの後、私は数ヶ月間、全ての気力を失って、死人のような生活を送っていた。皆があの日の衝撃から立ち直り、普通の生活
2023年3月14日 18:44
書く習慣 お題「欲望」どれだけ喰うなと言われても、腹が減るのは仕方ない。父親は目の前で、流れ弾で死んだ。後から見つけて、衝撃を受けた。芽生えた暗い要望に手を伸ばした。この衝動になんて名前を付けようか。ジェイドは奥歯を噛み締めて、袖で口周りを拭った。「ジェイド、アレ見てよ。綺麗」白い指先が示す方向には、黄色い正円。「ホントだ。ベランダからでもこんなに見えるんだね」「ね
2023年3月13日 00:16
ぐしゃりと音を立てて、僕の体が潰れた。これで213回目の失敗。そして迎えるのは、今年214回目のバレンタインデーだ。家を出ると、ポストの周りに大量の包みが置かれているのが見えた。ざっくり確認したが、目当てのものはない。落胆しつつママチャリで通学路を進んでいると、投げ入れにより、たちまちカゴがいっぱいになった。学校に着くと、靴箱から箱が溢れていた。昨日の時点で持ち帰っていた上靴を履
2023年3月12日 23:42
書く習慣 お題「どこにも書けないこと」「白状」と題された日記のページを繰ると、次々に出てきた変哲もない日常。そこにはただの同級生だった頃の福田さんの心底が描かれていた。2022年の1月から始まった日記は飛び飛びになっていながら、2022年の12月まで続いていた。最終日は12月24日。多分、福田さんが決心を固めた日だ。12月に入ってからのページを除けば、内容は概ね和やかなものだと言ってい