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ショートショートまとめ

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書いたショートショートをまとめてます。 結構面白いです。
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#恋愛

【ショートショート】好き嫌いのない子

お題:好き嫌い

好き嫌いはしちゃダメと教わってきたから、何も愛さないことに決めた。
そのうち愛されたいと思うことすら辞めて、昆虫のように気高く生きてきた。
だから、今更困るんだ。
こんな風に愛を伝えられたところで、僕にはやり方がわからない。

今週10回目になる林田仁花からの告白を断ると、教室中にブーイングが起きた。
イキんなボケチビ、いらねぇならウチがもらうぞ、引き出し糠床にしたろか、などと物

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【ショートショート】不死の薬は誰がために

(帝視点)
かぐや姫が月に帰って、一年が経った。彼女が最後に残した不死の薬が入った瓶をつまみ上げて、ため息をつく。外に目を向けると、月はあの夜よりも傾いて、放つ光も不安げに見える。辛いだけだと知っていながら、気が付くと見上げてしまう。届かないことは分かっているのに。
 たまにすべてが夢だったのではないかと思うときがある。それぐらいには、現実離れした体験だった。しかし、この激情がいつだってそれを否定

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【ショートショート】かぐや姫が残した2

【ショートショート】かぐや姫が残した2

お題:過ぎ去った日々

語り終わる頃には、自然と涙が零れていた。

「すまないね。長話に付き合わせちゃって」

袖で拭って、隣を向いた。
月光で表情がうっすらと見える。
真剣だが少し困ったような表情。

「いえ、とても興味深い話でした。私と重なる部分もあって」

女官は名を夕凪といった。
夕凪は、先月ここに来たばかりだと言っていた。

「重なる?」

「はい。私、ここに来る時、家族を置いて来たんで

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【ショートショート】かぐや姫が残した

【ショートショート】かぐや姫が残した

書く習慣 お題「月夜」

こうして見上げるだけで、あの日のことは鮮明に思い出せる。
夢のような出来事だったけど、確かに覚えている。
二人で過ごしたあの時間も。
幾度も交わした歌も。
薬と手紙だけを残して、私のもとから去っていく後ろ姿も。

かぐや姫が月に帰って、10年の月日が流れた。
あの後、私は数ヶ月間、全ての気力を失って、死人のような生活を送っていた。
皆があの日の衝撃から立ち直り、普通の生活

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【ショートショート】満ちて、欠けて

【ショートショート】満ちて、欠けて

書く習慣 お題「欲望」

どれだけ喰うなと言われても、腹が減るのは仕方ない。
父親は目の前で、流れ弾で死んだ。
後から見つけて、衝撃を受けた。
芽生えた暗い要望に手を伸ばした。

この衝動になんて名前を付けようか。
ジェイドは奥歯を噛み締めて、袖で口周りを拭った。

「ジェイド、アレ見てよ。綺麗」

白い指先が示す方向には、黄色い正円。

「ホントだ。ベランダからでもこんなに見えるんだね」

「ね

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【ショートショート】トラック10台分のチョコよりも

【ショートショート】トラック10台分のチョコよりも

ぐしゃりと音を立てて、僕の体が潰れた。
これで213回目の失敗。

そして迎えるのは、今年214回目のバレンタインデーだ。
家を出ると、ポストの周りに大量の包みが置かれているのが見えた。
ざっくり確認したが、目当てのものはない。
落胆しつつママチャリで通学路を進んでいると、投げ入れにより、たちまちカゴがいっぱいになった。

学校に着くと、靴箱から箱が溢れていた。
昨日の時点で持ち帰っていた上靴を履

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【ショートショート】人のものをとったら泥棒

【ショートショート】人のものをとったら泥棒

書く習慣 お題「どこにも書けないこと」

「白状」と題された日記のページを繰ると、次々に出てきた変哲もない日常。そこにはただの同級生だった頃の福田さんの心底が描かれていた。

2022年の1月から始まった日記は飛び飛びになっていながら、2022年の12月まで続いていた。最終日は12月24日。多分、福田さんが決心を固めた日だ。

12月に入ってからのページを除けば、内容は概ね和やかなものだと言ってい

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