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2023年度 エッセイ

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#ほろ酔い文学

【エッセイ】ねじれの位置にある言葉

【エッセイ】ねじれの位置にある言葉

 最も古い記憶の中の私は、桃色の光の閃きに向かって手を伸ばしている。だが、それには届かない。母が「こら、奪ったらダメだよ。これは他の人のモノだからね」と、私の手を掴んだからだ。必死に抵抗したが、まだ幼い私の手は、母の大きな手によって簡単に押さえつけられてしまった。私は自分の願望が叶わないことを感じ、声を上げて泣いた。
 母に「自分は奪おうとしたわけではない。ただ、少しだけ触れてみたかったのだ」と言

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【エッセイ】WBCを見て思い出した、過去のこと

【エッセイ】WBCを見て思い出した、過去のこと

 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で優勝を果たし、大会MVPを獲得した大谷翔平選手。手に汗握る熱戦となった決勝は、まるで大谷選手のためにWBCがあったかのような展開で、普段スポーツ観戦をほとんどしない私でもかなり楽しむことが出来た。
 私の地元は浦河町なのだが、彼は二〇一五年度に浦河町の観光大使を務めていたことがあった。だから、ほんの僅かでも、スーパースターとの接点があることを嬉しく思

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【エッセイ】感情が渦巻くような思春期を過ごして学んだ事

【エッセイ】感情が渦巻くような思春期を過ごして学んだ事

中学時代の同級生にMさんがいる。当時、私は友人が少なかったが、Mさんとは打ち解けて話せることが多かった。
Mさんはクラスの人気者だったので、初めは、消極的な自分とはおそらく気が合わないだろうと思っていたが、話してみると、すぐに彼女の魅力がわかった。Mさんの、自然体で、誰に対しても分け隔てなく接する人柄の良さと、独特なユーモアセンスを好きになった。彼女には、こちらも気を遣わずに話せた。

Mさんの正

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【エッセイ】今日も本を読んだ

【エッセイ】今日も本を読んだ

 色々と考えすぎてしまう性格のせいか、物心ついた頃から、憂鬱な気分で日常を送ることが多い。身近な問題は勿論、遠い国で起こった悲劇にも、心が酷く痛み、思考が止まらなくなる。何もかもが嫌になり、自分の感覚器官を遮断しようとして、引きこもりがちになることもある。

 そんな時、私を救ってくれるのは「本」である。
本という別世界に逃避することで心の平穏を保つことが出来るし、その本が心打たれるものであれば、

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【エッセイ】モーニングコールを募る。

【エッセイ】モーニングコールを募る。

 ここ数年、寝起きが悪くて困っている。
あまりに起きられないので、スマートフォンのアラームを、起きなければならない一時間前から五分刻みに鳴るように設定している。
しかし、それでも起きられないことは珍しくない。二十二歳になっても恥ずかしながら、同居している母に「いい加減起きなさい」と布団をひっぺがされ、顔をペチペチと刺激され起こされることも多い。駄々をこねながら、渋々起きるのである。
母が家に居ない

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