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『教育論の新常識:格差・学力・政策・未来』

はじめに

本日は、9月9日に刊行された『教育論の新常識:格差・学力・政策・未来(中公新書ラクレ)』の紹介と、読んだうえでの感想を綴りたいと思います。

本書は、2019年に『教育格差—階層・地域・学歴』(ちくま新書)を書かれた松岡亮二先生が編著されたものです。

私自身、この『教育格差』の内容に多大な影響を受け、今も様々な活動の一つの軸となっています。

その松岡先生が、新刊を出されたということで、刊行当日に買いに行きました!

書籍の全体像・章立て

本書では、何かと個人の固有の経験から語られやすい教育(議論・政策)において、研究知見やデータを用いて、実態を的確に把握したうえで、改善を強く志向する議論となっています(p.4)。

つまり、教育について議論する際に、「(私自身の固有の経験だ)○○だったから、△△をする必要がある」とお互いに言っても、中々まっとうな議論とはなりません。

ゆえに、本書では「データに基づいたまっとうな議論」をすることで、現代日本の教育(社会)問題の現状を把握し、改善に向けた議論を進めることを最終的な目標としています。

そのうえで、20のキーワードから教育論がまとめられています。

(本書の章立ては、Amazonの購入画面でも確認できます。)

大まかには以下のような構成になっています。

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ここから読んだ感想を書いていきたいと思いますが、20のテーマ、どれも濃い内容ですべては紹介することができないので、自分の興味・関心に(半ば強引に)引き寄せて、特に印象に残った部分を二つ紹介したいと思います。

(1) GIGAスクールに子どもたちの未来は託せるか【第11章:p.182~208】

こちらの章は、主に「教育政策」という観点から書かれていますが、同時に「公教育のこれから」に関する様々な観点を含んでいました。

2019年12月突如発表、前倒しで進行した「GIGAスクール」構想について、私は問題の所在を主に「ICT機器の導入」と考えていました。

そのため、ICT機器導入に際して、家庭背景・地域により所有や利用環境の格差が顕在化してしまうのではないか、という懸念を持っていました(この観点は③「デジタル化」に詳しく書かれています)。

しかし、「GIGAスクール」構想の背後には「Society5.0」構想があるのではないか(p.43)という指摘は印象的でした。

<「Society5.0」構想に関する詳細な内容はこちらから>

文部省が「主体的・対話的で深い学び」を放り出して、Society5.0の下で目指される「個別最適化された学び」に向かうことで、財界・経産省と路線を合わせる一連の動きは、現代教育改革が引き起こす混乱の起点のようにも思えました。

そして、「GIGAスクール」構想は、「これからの公教育」に様々な問いを投げかけています。

①「学校制度の枠組み解体=教育の市場化」
②公教育における共同・協同の学びの豊かさ
③「学びの個別化」による自己責任
④スリム化される公教育 / 民間事業の現場への進出 など

(2) (『教育論の新常識』という書名に相応しいと思われる) あとがき【p.345~365】

(とても個人的な感想になってしまうのですが)この「あとがき」では、教育に直接、あるいは間接的に関わる「私たち」が、この教育格差(問題)を考え、改善していく意味・目的が書かれている気がしました。

もしかしたら、「自分とは何者か」と自分に問いかけると、自分は格差から相対的に距離があるかもしれない。

また、格差は終わりがないようにも思える。ある時点で「格差はなくなった」と言えるわけではなく、日々、自分たちが気づくことなく可能性が消えていく。これはすごくもったいないと思います。

だからこそ、『教育格差』の言葉を借りるならば、

常に「もっとできたはず(could have been better)」であり、あなたも私も、生きている限り「こんなもんじゃない」のです(p.319-320)。

だからこそ、一人でも多くの人が、様々な出会い・対話・協同を通して、自分の想い・可能性に気づき、それを形にする・最大化することが社会が望まれると思います。

そのため、教育議論ではデータに基づいたまっとうな議論をし、教育行政では「やりっぱなし」ではなく、結果のこだわることが求められます。

「教育の可能性」「教育は万能ではない」、様々な想いの中で、時に無力感が湧き上がることもあります。

しかし、日々できることを通して「一人でも多くの人の可能性が具現化する」ことの協力をしていきたいです。

一人でも多くの方が本書を読んで、教育を改善する大きな力になればいいなと思っています。

文章を書くのはあまり得意ではないのですが、「あとがき」の言葉の背中押されて最後まで書けました。

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【追記】2021年10月12日より、『現場で使える教育社会学:教職のための「教育格差」入門』が出版されるようです。

どんな内容になっているのかとても気になります。この本を通して「社会学的な目」を養うことができるのではと思っています。

社会では頻繁に語られるのに、教職課程ではなぜか十分には教えられていない〈教育格差〉。この現状を憂えた教育社会学者が集結し、学校現場の教師や教員を目指す学生、大学教職課程の担当者などからの膨大なフィードバックをもとに、〈教育格差〉と現代教育の諸側面との関わりを解説した、現場のための教育社会学テキスト(Amazonより引用)。

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