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あなたが音楽を奏でることには価値がある──fendoap インタビュー

インタビュー・文/peeq  fendoapという音楽家を一言で紹介するのは難しい。MaxやC++などのプログラミング言語を自在に操り、Cycling'74から公式にパッチ制作を依頼され、信号処理についての講義を全国に向け発信する一方で、ArduinoやDaisyなどのマイコンボードを用いた電子工作にも手を出し、かと思うとホームセンターで調達した木箱でノイズボックスをDIYしてしまう。昨年はじめて行ったというライブ演奏では、volca beats一台でハードなインダストリア

    • a0n0 - Underground Seaについての所感

      地底の海 a0n0の新作『Underground Sea』のアートワークをはじめて目にした時、思い出したのはFenneszの『Black Sea』と、Joy Divisionの『Unknown Pleasures』だった。 いずれも名盤だが、Fenneszについては音楽的にもa0n0と近しいものを感じる(Joy Divisionについては表面的なスタイルの類似は無いものの、『Unknown Pleasures』のアートワークは中性子星"pulsar"の発する電波をプロット

      • 坂本龍一『12』に関する試論

        SN/M比 ??%『12』は、前作『async』から6年ぶりにリリースされたアルバムである。 『async』のリリース時、公式サイトには「SN/M比 50%」という謎のメッセージが掲げられ、様々な憶測を読んだが、仮にSN=SoundもしくはSingal+Noise、M=Musicと解釈するなら、『async』はそのようにも聴くことのできるアルバムであったーー西洋音楽的な意味合いでの「Music=楽曲」の要素が以前より後退し、環境音、素数を用いた非同期なリズム、テクスチャーの重

        • 松平頼暁作品概観

          序松平頼暁が今年1月9日に亡くなった。91歳であった。 音楽に「情念」が入り込むことを忌避し、独自の「システム」や「ロジック」によって構築された、ドライかつ独特なユーモアを兼ね備えた作品群は、世界的にも類を見ない孤高の存在感を放っているが、音源化された作品は決して多くない(discogsに登録されている作品だけに限れば、同世代の武満徹が239作品に対して、松平は9作品のみ)。 今後未だ聴かれていない多くの作品が演奏、録音されることを願って、筆者が音源にリーチできる範囲のいくつ

        あなたが音楽を奏でることには価値がある──fendoap インタビュー

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        • Yaporigami - "IDMMXXI-L" の構造分析
          10本

        記事

          2022年に作ったもの/書いたものを振り返る

          今年作ったもの/書いたものを、時系列順に振り返ります。 Sea Of Solarisドイツの謎多きレーベル1834からリリースさせていただきました。 1834は楽曲データが全てhttp://archive.org上に存在する不思議なレーベルで、姉妹レーベルであるINNERSPACE Prod.と共に、SUPERPANGやimportant drone recordsなどからリリースしているAuslandがキュレーターのようです。 Sea Of Solarisは、昨年のDr

          2022年に作ったもの/書いたものを振り返る

          Get This: 32 Tracks For Free - A Tribute to Peter Rehberg

          Peter Rehbergについて 90年代以降の電子音楽/実験音楽の愛好家で、Peter Rehbergを知らない人は恐らく少ないだろう。General Magic(Ramon Bauer、Andreas Pieper)らと共にMegoレーベルの運営に初期から携わり、Farmers Manual、General Magic、Fennesz、Heckerらの革新的な作品をリリースする一方、自身もPita名義で"Seven Tons For Free"(1995)や"Get

          Get This: 32 Tracks For Free - A Tribute to Peter Rehberg

          KeplerとPhase Shiftingについて

          2/4にドイツのEngram Recordingsからリリースされたコンピ"Genealogy 2"に1曲参加させていただきました。 『音楽をつくりはじめるにあたりインスパイアされた楽曲を、記憶のみを頼りに再作曲する』という面白いコンセプトのコンピで、私は敬愛する竹村延和氏の"Kepler"に挑戦しました。 このテキストでは、"Kepler"をリアレンジする際に考えたことと、ミニマル・ミュージックの技法の一つである"Phase Shifting"について簡単に書いていきま

          KeplerとPhase Shiftingについて

          Noise In The Brain / Ikuko Morozumi

          "Noise In the Brain"は、発達障害者の脳内を音で表現した楽曲である。 発達障害は、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害(PDD : Pervasive Developmental Disorders)、学習障害(LD : Learning Disability)、注意欠陥多動性障害(AD/HD : Attention Deficit / Hyperactivity Disorder)、その他これに類する脳機能の障害」と定義され、トゥレット症候

          Noise In The Brain / Ikuko Morozumi

          2021年に作ったもの/書いたものを振り返る

          今年作ったもの/書いたものを、時系列順に振り返ります。 bd+psr+e TidalCyclesというライブコーディング環境で、ユークリディアン・リズムを試していて出来た曲です。ちょっとMark Fellぽくなりました。リンク先にコードを載せていますがすごくシンプル。ユークリディアン・リズムは非常に面白く、TidalCyclesで簡単に試すことが出来ます。bd、psr、eはサウンドファイルの名前です。 Light Ascent ドイツ・ベルリンのレーベルEngram Re

          2021年に作ったもの/書いたものを振り返る

          Mark Fellのリズム構造について

          音楽における時間 音楽は常に時間と共にある。ドビュッシーは音楽を「色とリズムを持った時間」と定義した。ケージは'4分33秒'において、音楽の本質が時間であることを、最もラディカルな形で提示した。  Curtis Roadsは、時間構造のレベルをMacro、Meso、Sound Object、Microなど9つの階層に分類して定義した。音楽においては、Macroは楽曲全体、Mesoはフレーズ、Sound Objectは1〜数秒の音のイベント、Microは音の粒子(Grain)

          Mark Fellのリズム構造について

          09 Poetics

          音色の重心が低く落ち着いた雰囲気を感じさせる一方で、静けさの中で高速で刻まれるビートが印象的。アルバム中では珍しく、アンビエント的な柔らかな響きのコードの連結がメインとなっている。メランコリックで美しい楽曲。 楽曲全体の概略は次の通り。 以下に楽曲のメインとなるコード(概略図の"Chords")の譜面を示す。 Low Pass Filterで削られたような倍音の少ない響きで、深いリバーブの影響もあり、静謐な印象を与える。 全体は48小節という非常に長い周期でループして

          08 Shamanic Birds Of Healers

          精緻にエディットされたビートが印象的な楽曲。恐らく、ピッチ処理や、スタッター、ビットクラッシュ、フィルターなど様々なエフェクトでビートを処理した後、細かく切り刻んで、再構成していると思われる。 これまでは6小節と8小節など、3と4のずれで構造化した曲が多かったが、この曲では、ビートが9小節単位、旋律が12ないし24小節単位となっている。 冒頭のフレーズ。柔らかい音色で緩やかに動くパートと、FMのような鋭い音色で間欠的に動くベースラインが、対位法に動く。ベースラインの開始点

          08 Shamanic Birds Of Healers

          07 I Was Told I Was Born On A Heavy Snowy Day

          ゆっくりと踏みしめるような重いビート。 これまでの曲でもそうであったが、ビートの音を含め、部屋鳴りのような空間を感じさせる音色が多く用いられている。こうした音色は、Aphex Twinのアルバム"I Care Because You Do”でも多く用いられており、立体的な音像の獲得に寄与している。 まず以下のベースラインが登場する。 譜面では反復する音をすべて記譜しているが、実際はディレイを用いている。ベースのハーモニクスのような音色で、基音以外の倍音が目立って聞こえる

          07 I Was Told I Was Born On A Heavy Snowy Day

          06 Sun | Moon

          このアルバムの中でもとりわけ美しい楽曲。弦楽や合唱のような音色が幾重にも重なっていき、暗闇に柔らかな光が差し込むような印象を与える。 はじめに以下のパターンAが登場する。4度の響きがメイン。この楽曲においても、これまでの楽曲同様、Aを含む複数の旋律は12小節単位で一つのパターンを形成し、ブロックのよう組み替えられながら何度も登場する。 次にパターンB。 Aは2声であったが、Bは新たな音色も加わり3声となる。7の和音が展開された2度の響きが美しい。 ここでリズムトラック

          05 Gogh Did His Thing. I Will Do My Thing.

          強い決意表明のようにも読めるタイトル。3曲目のマラルメに続き、19世紀を代表する芸術家の名前が登場する。 曲は5度、4度の空虚な響きと、拍節感の薄いプロセスされたビート/ノイズに導かれて始まる。 続いて、以下の3つの旋律が、順番に、あるいは組み合わされて登場する。 旋律A 旋律B 旋律C 旋律Aは、前曲と類似した音型を用いており、やはりAphex Twinの"4”を彷彿とさせる。 まずハイハットの刻みとともにAが登場。 続いて徐々にビートが密度を増しながら、B

          05 Gogh Did His Thing. I Will Do My Thing.

          04 Warmth Of The Invisible Love

          高速で刻まれるビートと、力強いメロディが印象に残る楽曲。前半と後半でほぼ同じ音楽が繰り返され、これまでの楽曲の中では平易な構造をしているが、旋律のパターンが24小節単位で切り替わっていくのに対して、ビートは18小節単位でループしているため、ビートのループ感が和らげられ、延々と展開していくような印象を与えている。 楽曲はビートと共に以下のフレーズで始まる。 4度や5度の響きがメイン。13〜24小節目は、1〜12小節目を逆行したものであることに注意。また、37~48小節目は、

          04 Warmth Of The Invisible Love