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『企業広報』というキャリア

5月も残り1週間で終わる頃、「原薬R&D・生産拠点」である鹿島事業所の一室で、人事部から『 来週から本社の広報部に出勤してください』という異動内示の電話。

当時、入社20年を超える管理職。理由も聞かず受諾することに。人に仕事をつける「メンバーシップ型雇用」の強みでもあり、受ける側としてはつらいところでも。

まずは、「単身赴任」を決断。1年後には家族で住める住宅を都内に速攻で確保して、翌週から本社広報部に出勤しました。

👉「変則的な異動」の理由
広報部の主要メンバーであった先輩社員が日本製薬工業協会(製薬協)の広報委員長として6月から出向することになり欠員が生じたこと。

【広報部に赴任し、部長から真っ先に指示されたことは?】

記者の「夜討ち朝駆け取材」に即応できるよう、本社にいつでも駆けつけられる地元タクシーを確保しておくこと!

👉夜討ち朝駆け取材:記者による朝の出勤時や帰宅を待ち受けての予告無し取材

『企業広報の泥臭い一面』を強く印象付けられた最初の業務指示でした。

さらに、「広報部新人」として以下の役割が与えられ、厳しい『修行生活』が始まることになります。

🟥毎朝の「メディアチェック」と「記事の全社配信」

1️⃣朝7時までに出社し経済紙(日経等)一般紙(読売等)、専門紙(日経産業・日刊工業等)、業界紙(化学工業日報・薬事日報・日刊薬業等)合わせて12紙の記事チェック

2️⃣早朝「EL-NET」で送られてくる自社関連記事のチェック

👉EL-NET:「役員名」「事業責任者名」「事業所名」「製品名」等、50近くの重要キーワードを事前登録。そのワードにあたる記事があるとクリッピングしてFAX(当時)で届けてくれる「エレクトロニック・ライブラリー社」のサービス

3️⃣海外関連記事は、その都度ダウ・ジョーンズ社の「ファクティバ」でチェック

👉ファクティバ(Factiva):米国ダウジョーンズ社のグローバル記事配信・検索サービス。
👉創薬研究所がボストン・ロンドンに、医薬品生産拠点が米国・中国・インドネシアに、営業拠点が欧州・米国・中国等にもあったため、海外関連記事もチェックが必要(当時)

4️⃣『メディアチェック』後全国の事業所・組織に配信する記事を取捨選択、広報部長の承認を得て、各所の朝礼に間に合う「8時までに」送信(当時FAX)

👉全社へのFAX配信にあたっては、メディアに「著作権料」の支払いも必要に。この渉外も。

5️⃣『経営に影響を与える記事』は、速攻で役員に直接報告

この『広報部新人』の役割を1人担当で6か月。かなり鍛えられました。

🟥その他の「広報部」での仕事

1️⃣「プレスリリース」及び「プレスリリース用Q&A」の作成

👉プレスリリース:人事異動、経営計画、業績、新製品、R&D、M&A、CSR(Corporate Social Responsibility)等に関する内容のメディアを通じての開示。
👉プレスリリースQ&A:会社として一律の回答をするため、関係部署の考えをまとめ、社としての統一見解・回答を作成。

2️⃣「プレスリリース」の記者クラブへの「投げ込み」及び記者の取材対応

👉記者クラブ:製薬だと「重工記者会」を中心に、厚生労働記者会「本町記者会(業界紙)」など。社会的なテーマは「都庁記者クラブ」も。
👉投げ込み:記者クラブの各社(NHK・時事通信・共同通信・新聞社等)ポストにプレスリリースを投函すること。

3️⃣メディアの取材対応、記者同行(研究所、生産拠点等)

4️⃣シンクタンク・証券会社アナリストの取材対応

5️⃣「記者説明会」「アナリスト説明会」の企画・運営

6️⃣「危機管理プロジェクト」の広報窓口

👉危機管理プロジェクト:グローバルな独禁法問題、医薬品の副作用問題、子会社工場の跡地土壌汚染問題(子会社では汚染物質を使用していないため、過去立地していた工場、元々用地造成した時の汚染が想定)等々。(当時)

7️⃣「環境社会報告書」作成窓口

👉環境社会報告書:サステナビリティレポートとも。環境安全部、経営計画部と連携して作成。

8️⃣自社「TVコマーシャル」の内容審査

👉審査の流れ:作成した事業部→法務部→広報部→担当役員・社長の流れ。電通や博報堂、ADKといった広告代理店のプレゼンに出席することも。

9️⃣社外からの調査依頼やアンケート対応

👉「会社四季報」、「日経会社情報」、「CSR関連」(経団連1%クラブ、CSR投資評価会社、授賞団体等)、「大学等の研究」など多数。

🔟業界団体「くすりの適性使用協議会(RAD-AR)」の広報担当

👉RAD-AR (Risk / benefit 
Assessment of Drugs, -Analysis & Response)
:医薬品のリスクとベネフィットを科学的、客観的に評価・検証し、その結果を社会に提示することで医薬品の適正使用を促す活動

さまざまな任務がある中で、『プレスリリース』は、広報部の最重要業務。

「新規医薬品の研究開発に関する情報」、特に「臨床での有効性・安全性の評価に関する情報」等、株価を大きく変動させる情報は、『インサイダー取引の未然防止』の観点から、発表までの秘匿、迅速・正確な開示が求められます。

広報部員が「最も緊張して仕事に取り組む場面」でもあります。

また、『記者やアナリストのみなさんの取材対応』。これは、なかなかハード。

記者クラブにプレスリリースを投函した直後、記者の方の「質問攻め」に遭うことも。 

「プレスリリース」や「取材」のあった日は、記者の方が夜遅くまで記事を書いていて、質問や確認の電話がかかってくることがあるので、すぐには帰れません。

「電話取材」「来社取材」「現地同行取材」等で記者の方の質問に的確にお答えするには、『自社や業界に関する知識』、『プレスリリース等に関する社の統一見解』等を完璧にマスターしておく必要があります。

取材に対し、迅速・的確に対応できないと、会社や広報担当者としての力量が『記者の方から厳しく評価』されることになります。記者のみなさんから信頼されないと、「プレスリリース」が記事化されることは、まずありません。

取材にまつわる記者の方とのエピソード、広報の世界をもっと知りたくて始めた「日本広報学会」での活動、「大学院コミニュケーション学研究科(博士課程)」での学び等については、次回以降、ご紹介させていただきます。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!!


写真:「ロープクライミング講習」でのパートナー。国分寺のクライミングジム『RUNOUT』にて。

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