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【シリーズ】老人ホームは介護の「終わりの始まり」【第1回】〜死を呼ぶ認知症〜

 こんにちは。松岡 実です。
介護業界に従事する人と、それ以外の人の情報の隔たりはとても大きく、その原因の大半は情報と知識不足によるものです。知識不足が引き起こす、防げるはずの事件や事故が毎日起こっています。例を挙げると枚挙にいとまがないのですが、今回は老人ホーム入居対象者の家族に対して感じる知識不足を全4回にわたって紹介します。それでは順に。

第1回 死を呼ぶ認知症
第2回 終の棲家ではない老人ホーム
第3回 老人ホームにできないこと
第4回 老人ホームの役割とは

第1回 死を呼ぶ認知症

 根治すると信じて疑わない方(一部の特殊な例は除く)が未だに多い認知症ですが、病気に対する認識の甘さからトラブルが生じやすい疾病でもあります。
そもそも認知症とはどのような病気か一般の方に問うと、大半はボケ痴呆という返答が返ってきます。しかしこれらは認知症の進行によって現れる周辺症状の一つで、病気の本質的な面ではありません。

認知症を一番わかりやすく表す研究結果は、認知症研究のパイオニアである長谷川和夫先生(認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長、聖マリアンナ医科大学名誉教授)のチームが東京都の依頼で行った調査です。
参考:老化性痴呆の追跡調査(5年後の予後)より下図を抜粋

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この調査は、高齢者を四つのグループに分け、それぞれのグループの年ごとの累積死亡率を5年間追跡調査したもので、認知症高齢者グループの4年後の死亡率は83.2%で、正常高齢者グループの28.4%と較べると約2.5倍です。見方を変えると、認知症の人の老化の速度は非常に速く、認知症のない人の2~3倍のスピードで進行するということを表しています。
※すべての認知症患者に当てはまるわけではない

 認知症とは、いったん正常に発達した脳細胞が死滅することで知能が不可逆的(元に戻ることはない)に低下する病気で、単に老化に伴って物覚えが悪くなるといった誰にでも起きる現象は含みません。現在の医学において認知症を治療する方法は見つかっておらず、認知機能が一時的に改善するアリセプトなどの進行抑制剤をもってしても、病態を治療したり、最終的に認知症が悪化することを防ぐことはできません

 認知症患者が独居生活には様々な事故リスクがあります。弊社に寄せられる認知症患者の老人ホーム入居相談のうち、半年に1案件は徘徊により対象者が行方不明になります。翌週に老人ホームへの入居が決まった方が、タバコの不始末で自宅が全焼して焼死したこともあります。入居を調整している期間中に自宅内で転倒、骨折し、救急搬送先で寝たきりの経管栄養患者になることも多々あります。
実際のエビデンスを示すと、警察庁が発表した報道資料では、平成29年に年間に全国の警察に届け出のあった認知症の行方不明者は15,761人でした。そのうち警察によって死亡確認されたのが470人ですから、実際はもう少し多いと考えられます。
参考:平成29年における行方不明者の状況について 警察庁 から抜粋

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認知症の行方不明者15,761人という数字にピンとこないかもしれないので、イメージしやすい数字を並べてみました。毎年、街中にあるローソンの数以上に認知症の行方不明者が発生しています。
参考:統計表(警察庁)、 企業情報(LAWSON)

※①平成29年の認知症の年間行方不明者数
 15,761人
▼平成30年の交通事故死者数(24時間以内)
 3,532人
▼ローソン(コンビニチェーン国内3位)2018年2月末の店舗数
 国内外合わせて15,588店

2015年1月に厚労省が発表した、「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)」によると、認知症を患う人の数が2025年には700万人を超えるとの推計値が発表されています。これは、65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が認知症に罹患する計算となります。
度々報道される高齢ドライバーの事故や、近隣住民とのトラブルなど、高齢化に伴う様々な認知症問題が浮き彫りなっていますが、健常者が認知症に対する理解が不足していることに根本的な原因があると感じます。

僕のセクションには、認知症患者の老人ホーム入居相談が年間に何百件と寄せられます。
「在宅介護を投げ出したのではない」という免罪符が欲しいが故に、認知症患者本人が老人ホームへの入居を自ら選択したり、納得することを望む家族が多いのですが、その希望が叶うことはありません。
先ずは自宅での生活が困難になった認知症患者に、老人ホーム入居を選択する理解力や判断力、意思決定能力はないことを家族は理解しましょう。

次回につづく。

投げ銭大歓迎です!