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第21話 敗者復活戦

2021年10月。
甘美な夢は終わりを告げた。


同時に、会社での役職が上がり
業務量や給料に比例し、ただでさえ多かったミスも増えていく。
無論、手を抜いている訳でも、失恋のせいで仕事が手につかない訳でもない。

それなのに、間違える。



「趣味があるのは結構だけどさ、もっとちゃんとしてくれよ。」

物理的にも精神的にも、仕事終わりの楽しみだったテニスに行けなくなる。

これといった理由もないが、友人にもあまり会わなくなる。





完璧のメッキがどんどん剥がれていく。

だが、諦めの悪かった僕は
「完璧な人生」にメッキを塗り続けることを選んだ。


そうだ。唯一僕の市場価値を(それなりに)高く保っていられる場所があるじゃないか。


約半年ぶりにマッチングアプリを入れる。



興味もない相手と会話をし、アポを取る。
仕事終わりに食事をし、終電まで一緒に過ごしたり、2人で夜を明かしたり。

完璧な人生に戻ったような錯覚。
だが出勤する度、出来損ないである現実に引き戻される。


「本当さ、しっかりしてくれよ。」



満たされない。楽しくない。


もう自分は何がしたいのか分からない。


ただ、立ち止まったらどうにかなりそうだ。






そんな生活が2か月ほど続き、ある日の夜中。
突然の高熱と吐き気に目を覚ます。

約10年振りに吐いた。
幸い、「完璧な人生」の破片が残っていたため
嘔吐に対する恐怖こそあまりなかったものの
自分の身に何かが起きている恐怖に襲われた。



もう休もう。死んでしまう前に。





2021年12月。
医師により「うつ状態」との診断が下され
僕は休職を決意した。

同時に、医師の勧めで知能検査を受けることに。
結果、ADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)として
数年前にうっすら描かれた個性の輪郭が色濃く縁取られた。


複雑な心境だったが、どこか安堵する僕。

「僕が出来損ないなのではなくて、発達障害のせいだったんだ。」



そこからしばらく、僕は「人生の夏休み」を過ごすことになる。

業務で間違うこともなければ、クレームを受けたり叱責されることもない。
趣味や娯楽に没頭しても、嫌味を言われることもない。


久しぶりに、"自分のために生きている"感じがした。

金はあまりないけど、悪くない。





「夏休み」が始まり2週間。

封印していたテニスに再び通い始めた。
そこで、一人の女性と出会う。



「次は失敗しない。」


夏休みボケしていた僕は、根拠のない自信から
懲りたはずの恋愛というパンドラの箱に再び手を出す。








だが、「完璧な人生」のツケを踏み倒そうとした僕を
病魔と世間体は見逃してくれなかった。


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