アオ空の下、カン動したはなし
【虫エッセイ】
巷では夏日だなんだと言っているが、ここ北海道はまだまだ肌寒い日が続いている。
昨日の最低気温7℃。
なぜ最低気温で言うのか?
それは寒いアピールのため、でしょうかねぇ。
冬場、本州に雪が降ったときに北海道民が「大したことないのにあんなに騒いで」とか「これくらいで交通が麻痺してやれやれ」とか、そんな見方をすることを「北国目線」と言うらしい。
…私は「大変だろうなぁ」と思ってるけど。
いま時期「まだこんなに寒いんだよ」アピールすることも、ある種の「北国目線」なのではないかと思っている。
そうそう、今日の話はそんなまだ肌寒い北海道の、珍しく晴れて20℃越えした日の出来事である。
いつものように、いつもの公園に向かった。
虫を探すために。
公園と言っても、遊具やお花畑があって…みたいな都会のオアシス的なものではなく、中央にどどーんと広場があって、そこから遊歩道が何本も伸び、そのまま突き進むと知らず識らずのうちに羆(ヒグマ)の住む森に迷い込んでしまう、といった感じの自然公園だ。
この日は、連日の強風も収まり、暖かく青空が気持ちの良い月曜日だった。
人のいない平日のほうが、ゆっくりと散策できていい。
散策路を抜けて、登山…とまではいかないが、軽いハイキングコースへ足を進める。
フキやヨモギ、ハナウドなどが青空を目指してぐんぐん伸びていくのが肉眼でも見えるような爽やかな森に入り、虫を探し歩いた。
この時期成長の著しいハナウドには、ハナウドゾウムシのカップル。
ヨモギの葉の根元には、非常に小さなエゾヒメゾウムシのカップル。
こちらの葉には、ジョウカイボンのカップル。
虫たちもこの暖かさにつられて出歩くうちに、良きパートナーに出会えたのだろうか。あっちを見てもこっちを見ても、小さな虫たちの愛の営みが行われていた。
尊く、微笑ましい光景。
青空の下で、昆虫たちの生命を目の当たりにするときほど春の訪れを感じることはない。
とても満足した気分で、来た道を引き返した。
ハイキングコースが終わり、元の公園の散策路に差し掛かる。
「ここからは別ルートを通ろう」
それまでリュックに付けていた熊鈴を外し、静かに土を踏みしめながら東屋へ続く緩やかな坂道を登った。
公園内にいくつかある東屋のうちの、一番大きなものの前に、カップルが見えた。
こちらは人間の、だ。
レジャーシートの上で、一人は仰向けに寝そべり、もう一人は上に乗っている。
上に乗っている!?
…間違いなく女性が上に乗っている。
そして女性が上下に動いている。
上下に動いている!?
…間違いなく上下に動いている。
距離にして20mほど先か。
気配を消して近づいたせいで、全く気づいていないようだ。
アオ空の下でのカン動的な愛の営み。
暖かな日差しは、虫だけでなく人までもを、種を残すための行動へと駆り立てるのか。
1分ほど彼らの運動を見ていたが、終わる様子はない。
突然、猛烈に私の存在をアピールしたい衝動に駆られた。
私の何がそうさせたのかはわからないが、散策路外の木々の間の枯れ草をこれでもか!とガサガサ踏み鳴らし、斜め前へと歩いてみた。
自分の肩越しに彼らを見返すと、羆でも見たかのような驚きの表情で上に乗ったまま固まっていた。
動揺を隠せなかった私は、すぐに愛の営みに詳しい専門家の方に報告し、お返事をいただけた。
なんのはなしですか
私のあの行動が正解だったのか、未だにわからないはなし。
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