見出し画像

"COPY BOY" ぼくのクローンは小学生⑬【好き!工作】

ワケあって、大学生の僕はクローンと暮らしている。ヤツは小学2年生。8歳の子どもだ。
顔は、幼い頃の僕と全く同じ。ジャンケンすると決着がつかない。
なんで、こんなことになったのか。よかったら、そのワケを聞いてほしい。
(※第1話へ)

<夏、第13話>

”小さな僕”は、僕の人生のあわせ鏡だ。
見ていると、自分自身についてよく気づかされる。

画像1

蒸し暑い昼下がり、チビがじんわり汗をかきながら、秘密基地の中でなにやら黙々と作っていた。

ああ、夏休みの工作ね。

割りばしと輪ゴム、タコ糸を使って…。何を作ろうとしているのだろう。厚紙で小さな箱を作り、切れ目を入れて。まるでくす玉を真っ二つに割るように開く。どこかで見たような…。

…あ、これ、僕も作ったことあるぞ。クレーンゲームだ。

タコ糸を引っ張ると、箱が開き、離すと輪ゴムの力で元に戻る。全く同じ形だ。
教えていないのに自然発生的に同じ行動をしている。恐ろしいなクローンって。

イメージは分かるが上手く出来ないようだ。
そうそう、タコ糸の仕掛けは難しかったな。あーでもないこーでもないと苦労している。かつて作った僕には正解が分かっているから、
「ちょいと貸しな、糸を引っ張る方向を変えればいいんだよ。厚紙で小さなわっかを作って糸をこう通すと…。」
「いいの、自分でやるの!」
ああ、そうじゃないのに…もどかしいが手を出せない。

画像2

このチビは、もくもくと何かを作ることが好きらしい。

秘密基地はもちろん、時にはペットボトル万華鏡、時にはゴミ袋を膨らませた巨大な象、紐をひっぱると自動で開く筆箱…。

チビは熱中しすぎると他に何も手がつかなくなる傾向があると、ヤギヒゲ教授が解説していた。
「子どもの頃のユタカさんもそうだったらしいですよ。その分、2人とも底知れぬクリエイティブな才能があるんじゃないですか。きっと。」と気楽に評していた。

子どもの頃の僕も…、か。

確かに工作が好きだった。
時間さえあれば…、いや、時間がないときほど無性に作りたくて、妖気が乗り移ったようにごはんも食べずに手を動かし続けた。何も聞こえなくなって父ちゃんに叱られたっけ。
モノを作っていると、世界を創造しているような興奮に出会えた。

だけどあれほど大好きだった工作も、大人になった今の僕は紙ヒコーキひとつさえ作ることもなくなった。あんなに楽しかったことが、大人になったらどうして忘れてしまうのだろう。

「クリエイティブな才能」かぁ…。

画像3

僕は就活もせず、これから将来どうなっていくんだろう?
一体なにをすればいいんだろう。僕が本当に好きなことってなんだろう。あの頃のお絵描きや工作のような、魂を揺さぶるような興奮を味わえる仕事って、なんだろう。
好きなことを一生の仕事に選ぶことはできないのかな?どうせ自分には才能なんてありゃしない。選ばれた一握りの人だけの特権なのかな、どうせ。

いや、誰がそう決めたんだ?自分で最初から限界を決めていないか?
自分がしたかったこと、自分の内側から涌き出る興味から、なぜ僕は目をそらすようになったのだろう。
大人は嘘をついて生きている。たくさんの嘘。でも一番の罪は自分に対しての嘘。

「将来なにになりたい?」

チビに聞いてみた。
”小さな僕”は僕の人生の合わせ鏡。
原点回帰。なにかヒントがあるかもしれない。

「ね、なにになりたい?」
「わかんない。」

興味なさそうに、なんともつれない回答。
過去の自分から未来のヒントを引き出すため、粘る。

「夢とかないの?」
「寝てるとき見るよ」
「その夢じゃなくて、大きくなったらこうなりたいなぁ、っていう夢」
「あるよ」
「なに?」
「ぼくね」
「うん、うん」

はちきれそうな満面の笑顔で、

「大きくなったらね、兄ィと、猫ちゃんと、ばあちゃんと、ずっとずっと夏休みするんだ。それが夢。」


(つづく)

第一話へ  前へ  次へ



この記事が参加している募集

スキしてみて

私の作品紹介

シオツマのnoteはすべて無料です。お代は頂戴しません。 少しでも多くの方に楽しんでいただけたなら…それだけで幸せです。