チャップリンの世界(その3!)資本主義の光と影。映画紹介「黄金狂時代」と「モダンタイムズ」🎬
チャップリンが映画会社と契約をした1913年と映画デビューした1914年は、世界史にとって極めて重要な年です。
1913年に、アメリカでT型フォードの大量生産がいよいよ本格化し、アメリカ的な大量生産による産業資本主義が世界を席巻し始めます。
そして、1914年には第一次世界大戦が勃発し、ヨーロッパは荒廃。政治的にも、経済的にも世界の中心がヨーロッパからアメリカへと移ったのです。
アメリカは空前の繁栄期を迎えるのであります。
「黄金狂時代」(1925年)
1923年、チャップリンは、新たな映画の題材に出会います。
ゴールドラッシュの時代にクロンダイクで黄金を求めて鉱山師たちが峠を越えていく様子をスライドで見たこと、そして、シエラ・ネヴァダ山中で遭難した開拓者が飢えに耐えかねて人肉や靴の皮まで食べたりしたことを本で読んだことです。
チャップリンは自伝で述べています。
「喜劇作りについて一言すると、逆説かもしれぬが、しばしば悲劇がかえって笑いの精神を刺激してくれるのである。
思うに、その理由というのは、笑いとは、すなわち反抗精神であるということである。
わたしたちは自然の威力というものの前に立って、自分の無力ぶりを笑うよりほかにない。」
こうして誕生したのが「黄金狂時代」です。
雪深い山中へ金鉱を探しにやってきたチャーリー。
同じく金鉱を探す鉱山師ビッグ・ジムたちと山小屋で共同生活を始めますが、空腹に耐えかねてなんと靴まで食べてしまいます。
(ホカホカに茹でた革靴👞を食べるシーンは衝撃でした。)
一方、ゴールド・ラッシュに沸く山間の町。
とあるダンスホールでチャーリーはダンサーのジョージアに一目惚れします。
大晦日の晩、チャップリンはジョージアをディナーに招待しますが、約束をすっぽかされてしまい……
チャーリーはジョージアを探すうちにビッグ・ジムと再会し、ビッグ・ジムと一緒に雪山に戻り……
黄金狂時代は、「アメリカンドリーム」が素直に反映されている映画です。
ラストもハッピーエンド。チャップリンには珍しい作品です。
この約10年後に作った作品が、モダンタイムズです。
「モダンタイムズ」(1936年)
巨大な鉄鋼工場でベルトコンベアで運ばれてくるナットを締めるだけの単純作業に明け暮れるチャーリーたち労働者。
社長はモニターで労働者の仕事ぶりをトイレの中まで監視しています。
効率をあげるためベルトコンベアーの速度は早くされ、時間の節約のため自動食事機までテストされます。
非人間的労働のため、チャーリーは気がおかしくなり、精神病院に入れられます。
病院から解放されるのですが、途中拾った旗を振っているとデモ行進のリーダーと間違われ今度は警察へ。
釈放されたときは、パンを盗んだ少女をかばいまたまた警察へ。
護送されるパトカーの中で少女と知り合い恋に落ちます。
何とか少女と力を合わせて家を手に入れようとしますが・・・
自分が何を作っているのかもわからない巨大な工場のベルトコンベアでの単純作業。しかもスピードはどんどん上げられ必死についていくしかなくなります。
そして休憩中までカメラで監視される始末。
効率ばかり求め人間が支配されており、そのストレスから心を蝕まれる背景は、21世紀の現代社会そのものです。
映画の冒頭、羊の群れが追い立てられるように、労働者が地下鉄の出口から追い立てられます。
機械の歯車にされ個性も潰される労働者たち。
映画の中では、支配者たる社長だけが声を持ち(トーキー)、搾取されるチャーリーら労働者には声がありません(サイレント)。
人間性を奪い取る巨大な資本主義社会を痛烈に批判しています。
1930年代からこんな社会だったのですね。
映画のワンシーン。
再び警察に追われた二人が道ばたにすわっています。
少女が言います。「いくら努力しても無駄だわ」
チャップリンは言います。「へこたれないで、元気を出すんだ。運は開ける。」
この励ましで二人は元気をだし、新しい世界に向けて手を携えて去って行きます。
果たして、二人の進む先は?
黄金狂時代でアメリカンドリームを描いたチャップリンですが、果たしてこの映画の2人はいかに?!
チャップリンはなんとガンジーと親交があったようです。
(偉人たちって知り合いってことが結構ありますよね。いつの時代も人脈というかなんというか)
チャップリンは、ガンジーと会った際、機械文明について意見を交わしています。
ガンジーとの対話(チャップリンの自伝より)
チャップリンの意見
「機械というものが、世のため、人のためということで使われさえすれば、これは人間を奴隷の状態から解放し、労働時間を短縮し、それによって、知性の向上、生活のよろこびというものを、増進するのに役立つことはきまってるんですからね。」
ガンジーの意見
「インドではそれらの目的を達成する前に、まずイギリスの支配から解放されなければならないのです。
現に過去において、わたしたちは機械のおかげでイギリスの奴隷になってしまったのです。したがって、もしその隷属状態から脱却しようと思えば、唯一の途は、まず機械で作られる一切の商品をボイコットすること、それ以外にはないのです。
これがイギリスのような強大国家に対するわたしたちの攻撃法なのです。」
機械文明の未来について肯定的にとらえていたチャップリン。
しかし、アメリカ式の大量生産システムとは距離を置いていました。
かつて記者から、デトロイトで行われているベルト・コンベア・システムの話を聞いたことがあるチャップリン。
健康な若い農夫たちが、大工場に憧れてくるのだが、このベルト・システムで4,5年間も働いていると、みんな神経衰弱にやられてしまうという話でした。
この話とかつて、ヘンリー・フォードの案内でフォード社の工場を見学したことをヒントに、「モダンタイムズ」は生まれました。
参考文献
「チャップリン 作品とその生涯」 大野裕之著 中公文庫
「チャップリン自伝」 チャールズ・チャップリン著 中野好夫訳 新潮社
執筆者、ゆこりん、ハイサイ・オ・ジサン
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