ルーマニア映画紹介「ヨーロッパ新世紀」―これは日本の地方の話??
崩れゆくグローバリゼーションと家父長制。
皆さん突然ですが、ルーマニアという国を知っていますか??
東ヨーロッパにあるルーマニアは豊かな自然に恵まれ、数多くの世界遺産や歴史的建造物のある国です。
ソ連崩壊以前は社会主義国でした。チャウシェスクという独裁者がいました。
「ヨーロッパ新世紀」という映画の舞台は、ルーマニア中部のトランシルバニア地方。
ドラキュラ伝説で有名なところです。
うっそうとした森に囲まれた小さな村には昔からルーマニア人の他にハンガリー人、ドイツ人、ロマ人などいろいろな民族が住んでいました。
鉱山の閉鎖によって経済的に疲弊した村からはドイツなどのEU諸国に多くの人が出稼ぎに行っています。
また、周囲の森にはクマがいてフランスのNGO職員はクマの生息状況を調査しに来ています。
クマが身近な場所です。
そんな小さな村におこる出来事は日本の地方の自治体でもおこりそうなことです・・・
そもそも多民族の村ではさまざまな言語が飛び交います。
ルーマニア語、ハンガリー語、ドイツ語、英語、フランス語。
映画の字幕も言語により色分けされて誰がどの場面で何語を話しているかわかります。
主人公のマティアスは妻に冷たくされて昔の恋人のシーラとよりを戻すのですが、「愛している」をハンガリー語で言うルーマニア語で言うかというシーンがあります。
多民族共生の村であるはずがアジアから来た未知の人間には極端な排外主義。
スリランカ人の肌が黒いだけでイスラム教徒と思い込んでしまうのです。
背景には経済的苦境から余裕がなくなっているのでしょうが、経済的に落ち込む中で外国人労働者が増えている日本でも同じようなことが起きても不思議ではないと思いました。
日本には関東大震災時の朝鮮人虐殺の過去があるのですから。
このように、この映画は世俗的な伝統に根ざした閉鎖的な小さなコミュニティでグローバル化がもたらした波紋を描いています。
でも私が気になったのは主人公のマティアスのだめ男ぶりです。
出稼ぎ先のドイツで「ジプシー」と言われてかっとなって暴力を振るい、仕事も放り出して故郷の村に逃げ帰ります。
家に帰るとすぐに家父長的にふるまい、妻や子どもを支配しようとします。
妻が息子を甘やかしているとなじり、息子を強い男に育てようとしますが、すぐ暴力に訴えようとするので息子を怖がらせるだけでうまくいきません。
妻にののしられるため、元恋人のシーラの元に逃げ込みます。
大事な集会の最中にもシーラに「手を握ってくれ」と頼むような甘ったれ男。
ところが、移民労働者を追放すべきという署名に加わったことがわかり、そのことをシーラに批判され、すると立場を変えてシーラの意見である移民を残す側に立つ始末……
いい加減なのでシーラからも愛想を尽かされます。
最後は隠しますが、典型的な家父長的男で終わります。
女性監督のフェミニズム映画なら批判の対象にしかならないだめ男ですが、この映画は男性監督。
グローバリゼーションの影響で一家の大黒柱として稼ぐことができなくなって、男としてのアイデンティティを失い、崩れていく家父長制も映画のテーマのようです。
映画の原題は「R.M.N」これは病院で脳の状態をスキャンするMRIのことです。
映画の中でも主人公のマティアスが倒れた父親の状態を知るために脳のスキャン映像を眺めるシーンがありますが、この映画は新世紀ヨーロッパ社会の健康状態をスキャンした作品ということのようです。
今のEUを見ていると相当病んでいるように見えるのですが、スキャンの結果は果たしてどのようなものでしょうか?
執筆者、ゆこりん
参考文献
映画公式パンフレット
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