もっと!読み方がわかる文学教室

「もっと!読み方がわかる文学教室」という読書会のページです。 講師の野田康文を中心に3…

もっと!読み方がわかる文学教室

「もっと!読み方がわかる文学教室」という読書会のページです。 講師の野田康文を中心に3人で開催、運営しています。参加者の皆さんの感想を活かしながら、小説の読みを楽しく深めていきます。オン/オフライン同時に開催していますので、ご参加をお待ちしております!

最近の記事

  • 固定された記事

「もっと!読み方がわかる文学教室」のご紹介

はじめまして。 福岡でタイトルの読書会を運営しております、菊地と申します。 簡単に「もっと!読み方がわかる文学教室」(以下、「もっ読」)についてのご紹介です。 (写真は以前開催時のものです。福岡市川端商店街近くの「冷泉荘」をよく利用させていただいております。オン・オフライン同時開催です!) 文学、小説はコムズカシイものではなく、本当はおもしろいもの。 では何がおもしろいのか? 国語の授業とは一味違うやり方で、それを一緒に解き明かしていきましょう。講師の野田康文が、時代

    • 田山花袋「蒲団」2-5

       最後に、『蒲団』において作品冒頭から最後までたびたび出てくる手紙というツールに注目しました。  特に芳子から時雄に宛てた手紙に見られる、言文一致から候文へという、時雄に対する彼女の心理の変化にともなった、文体の変化について解説しました。  その上で、そんなふうに人間関係によって言葉遣いを変えたりすることや、あるいは周りでそういうことを見たりすることはないかと参加者の皆さんに聞いてみました。  この質問について、Kさん(女性)は、  自分自身は使い分けの技術は持っていないが

      • 田山花袋「蒲団」2-4

         2-3では、「蒲団」という作品には、「主観と客観を縒り合せる」という田山花袋の意図と試みがあった、という話でした。そしてそれは果たしてうまくいったのか?という疑問も残りました。  そこで参加者の意見として、私小説が大好きなIさんに聞いてみました。 <テーマにあっている「3人称」 主観と客観の縒り合せ>    Iさんは一つの仮定をします。田山花袋は男の愚かしさ、醜さ、みっともなさ、悲しさ、そういうものを表現し、テーマで書いてみようと思った。  すると、それに相応しい書き

        • 田山花袋「蒲団」2-3

           2-2では、特に時雄と芳子の関係性、時雄の一方的な気持ちが、芳子の視点で語る語り手に影響を与えているのではないか、という点について話がありました。  しかし、芳子だけでなく、この小説では同じように妻の視点や父親(芳子の)の視点からも描かれている場面があります。  つまり、田山花袋としては、文学的手法として一つの見方ではなく、いろいろな人の視点から描こうとしていた、そういう意図は見えるのです。  今回はその文学的手法と田山花袋の意図、作品世界をテキストから分析していこうと思い

        • 固定された記事

        「もっと!読み方がわかる文学教室」のご紹介

          田山花袋「蒲団」2-2

           2-1は、作品を読むのに、おもしろそうなモデル・伝記的な視点の話でした。  今回は「女学生」というシンボルと作品の視点についての話です。 <作品の注目点「女学生」というシンボルの変化>  「蒲団」の同時代的な文脈で考えた時に印象的なのが、「女学生」というシンボルがうまく使われているということです。  たとえば、ヒロインの芳子は上京してきた女学生です。  当時の富裕層のインテリ女子、新しい女性の典型として、そのトレードマークの庇髪やリボン、海老茶袴といったファッションが

          田山花袋「蒲団」2-1

           大変お待たせしました。「もっ読」田山花袋『蒲団』第2回目のまとめです。  田山花袋「蒲団」1ー1から1-6までは、『蒲団』は私小説の元祖といわれているものの、3人称の形式で書かれており、その点について、「私小説が大好き」というIさん(男性)が「実は周到な作品だと思う」と熱く語られていたことが印象的でした。  なるほど、Iさんの解釈には確かに一理あり、『蒲団』を文学史的な偏見で「私小説」=主人公の視点だけで書かれているという見方に限定できないと思い、私もあれから作品を再度読

          田山花袋「蒲団」1-6

           前回1-5では、「1人称のような3人称」とは、実は時雄の滑稽さや醜さ、恥部を際立たせるために必要な視点だったということがわかりました。  今回は、参加者のお互いの意見を聞いた感想や、それを踏まえた作品への感想などをまとめ、私たちの読書会「もっ読」の雰囲気を感じていただけたらと思います。 <人間ほどはかないものはないという、男の悲哀> 前回、あえてIさんの意見を長めに引用したのは、この、私小説を愛するIさんの意見を聞いて、他の参加者の中に、作品が違った角度から見えてきたと

          田山花袋「蒲団」1-5

           前回1-4では、「1人称のような3人称」で語られている「時雄」の印象について、参加者の意見を中心に見てきました。今回は、そんな語り手から見えてくる、「蒲団」の魅力を明らかにしたいと思います。 <3人称の語りと告白の問題> 前回述べた、三人称の語りと告白の問題について考えてみたいのですが、たとえばフランスの批評家・ロラン・バルトは、三人称の形式をとっていても、その三人称を一人称に置き換えて読んでも違和感がなければ、それは隠れた一人称小説、つまり「私」の視点から書かれた小説だ

          田山花袋「蒲団」1-4

            1-1で1人称のような3人称という視点、1-2では男女別に参加者の印象、1-3では作品からうかがえる、作家としての意欲や挑戦についてまとめてきました。今回1-4では、「1人称のような3人称」で語られている「時雄」の印象について、参加者の意見を中心に見ていきます。 <正直で冷静な時雄という「私」?> KYさんは、「中年男性の恋愛の悩みを書いているようでありながら、(時雄が)ころころ変わる」ことにも注目します。たとえば、時雄が「新しい女性を推奨するかと思えば、いきなり芳子の

          田山花袋「蒲団」1-3

           1-1では、1人称のような3人称という視点について、1-2では男女別に参加者の印象について述べてきました。今回は、作品から見える田山花袋の作家像、当時の文学界の雰囲気について、参加者の意見を中心にまとめていきます。 <痴情?痴態?作品、谷崎「痴人の愛」との比較> 宗像市からリモートで参加のSさん(女性)は、『蒲団』を読んだのは学生の時以来2度目とのこと。「(最初に読んだ)学生のころは、ただ情けない感じだなあと思っただけ」だったそうですが、「(今回読み返してみて、)面白い、

          田山花袋「蒲団」1-2

           前回は、私小説の元祖と言われる「蒲団」が、1人称ではなく3人称で語られていることから、単純な告白小説ではなさそう、ということをまとめました。では、その効果は?という前に、今回は、性別による視点から参加者の意見を中心にまとめます。 <女性なら「蒲団」はキモイおじさんの話?> 会場に来ていたKさん(女性)は、『蒲団』を読むのはこれが2回目とのこと。大学の時に授業で、近現代文学の作品を読んでレポートを書く課題があり、その時に読んで以来だそうです。  Kさんは、主人公の時雄が弟子

          田山花袋「蒲団」1ー1

          <今読んでも面白い「蒲団」の魅力> 前回まで告白形式の小説のパロディーともいえる谷崎潤一郎の『痴人の愛』を読みましたが、今度は日本の近現代文学に特有の告白形式の文学といわれる私小説、その私小説の元祖とされる『蒲団』をとりあげます。  この小説は、文学史では定番の超有名作品なのですが、一般的には今ではほとんど読まれていないし、知られてもいないと思います。しかし作品自体は実際に読んでみると、今読んでも(いろんな意味で)面白い。古臭いことは古臭いが、古臭いなりの面白さがあります。

          谷崎潤一郎「痴人の愛」その3(完結)

           その1では、おもに「ナオミ」から見える当時の女性像、時代性について、その2では、「譲治」の実際の経済力と2人の関係性から見えるものについてお話してきました。  今回は、参加された方々のご意見を中心に、「痴人の愛」の世界観、フィクション性や物語のパターン、影響を与えたと思われる作品などについてまとめていきます。  <「痴人の愛」の非日常性・非常識ーそれを手に入れてしまうハッピーエンド>  またそれ(その2の内容)とは別にIさんは、『痴人の愛』について思ったこととして、小説

          谷崎潤一郎「痴人の愛」その3(完結)

          谷崎潤一郎「痴人の愛」その2

          その1は、おもに「ナオミ」から見える当時の女性像、時代性などについてのお話でした。今回は「譲治」から作品を読み解いていきます。 その1はこちら エリート譲治の経済力そして理想と現実、精神と肉体  <エリートサラリーマン、富裕層だからこそできた「理想」の計画>     ところで、まだ年端も行かない少女を(自分好みの)理想の女に仕立て上げ、その上で自分の妻にするという、男の永遠の願望というか妄想ともいうべき譲治の計画(いわば光源氏作戦)を曲がりなりにも可能にしたのは彼の経済

          谷崎潤一郎「痴人の愛」その2

          谷崎潤一郎「痴人の愛」その1

           先月2月27日に行われた第13回の読書会の覚書です。 ・谷崎潤一郎『痴人の愛』の2回                     ・今回は講師の解説を中心にしながら、参加者の皆さんの意見を聞いていきました。その中から印象的な意見をいくつか挙げてみます。 「ナオミズム」という言葉を生み出した、     「ナオミ」から見える大正当時の女性、時代と社会                                   <当時の日本女性の窮屈さに対するアンチとして書かれたのではな

          谷崎潤一郎「痴人の愛」その1