山本モロミ
日本酒と、田んぼと、酒蔵がいっぱいと、 妖怪と、美しい器と、美味しそうな料理が、 ちょっぴりだけ出てくるミステリー。 書いてみました。 お暇なら、酔んでくダッサイ。
目次 プロローグ 第一章 三億円の田んぼ 第二章 一日一合純米酒 第三章 秘儀玉麹を伝える蔵 第四章 稲の守り女神 エピローグ 主な登場人物 山田葉子 日本酒と…
タミ子の店の常連客。葉子も何回か一緒に飲み、酒 蔵を訪問したこともある。 「ヨーコさん?! それにトオルちゃんも!」 降りてきた桜井会長も、二人を見て目を真ん丸…
車窓の田んぼの景色が、飛ぶように流れていく。かなりの速度だが、富井田課長は、鼻歌交じりだ。 葉子たち四人を乗せた車は、田んぼの真ん中の農道を走っていた。一車…
振り向くと、タミ子だった。お地蔵さんのような微笑みを浮かべている。 勝木課長も足を止め、不審そうな顔で振り向いた。 「あんた、何もんや?」 タミ子はそれには答…
「第一発見者から、事情を聴取していた」 「そないな些事は、我々に任せて下さい」 余計なことをするなと、顔に書いてある。 「いや、問題ない」 短く切り捨てた。相手…
秀造が、三人に駆け寄る。すぐ横に立って、紹介を始めた。 「第一発見者のお三方です。こちらは、山田葉子さん。それから、矢沢トオルさんとタミ子さん。通称、おかあさ…
田んぼは、初めてだった。 米を追う仕事を、しているのにもかかわらず。 ただ、たまには署を離れるのも、いいものだ。稲の上を渡る風に吹かれながら、葛城玲子は思っ…
黄金色の山田錦の穂が、天に向かって美しい弧を描いている。 一方、そのすぐ根元に、青黒く染まった穂が、倒れ伏していた。 『天津風の田に、毒をまいた。残りの山田錦が…
プロローグ 山田錦の苗は、まだ若くて青く、夕暮れの空は、群青から橙へと染まりつつあった。 初夏の風が、渡って行くたび、柔らかい葉先が踊った。田植えの直後は、無…
2020年7月24日 11:26
目次プロローグ第一章 三億円の田んぼ第二章 一日一合純米酒第三章 秘儀玉麹を伝える蔵第四章 稲の守り女神エピローグ主な登場人物山田葉子 日本酒と食のジャーナリスト矢沢タミ子 居酒屋経営者矢沢トオル タミ子の息子葛城玲子 播磨署警察官 警視高橋 仁 同 警部補勝木道男 同 捜査一課課長烏丸秀造 『天狼星』醸造元 烏丸酒造 蔵元烏丸六五郎
2020年10月28日 15:17
タミ子の店の常連客。葉子も何回か一緒に飲み、酒蔵を訪問したこともある。「ヨーコさん?! それにトオルちゃんも!」 降りてきた桜井会長も、二人を見て目を真ん丸くした。めったに、物事に動じない人なのに。「なんで、こんなところに?」 三人同時に、同じ質問が口をついた。次の瞬間に、顔を合わせて笑い出す。 桜井会長は、怪我一つ無い。だが、車の方は、そうでもなかった。衝突された右サイドのボディが
2020年10月22日 15:44
車窓の田んぼの景色が、飛ぶように流れていく。かなりの速度だが、富井田課長は、鼻歌交じりだ。 葉子たち四人を乗せた車は、田んぼの真ん中の農道を走っていた。一車線の農道に、他に走っている車は、ほとんどいない。 この辺は、但馬山地の谷間にあたる米の名産地だ。山田錦栽培の特優地区と呼ばれている。左右どちらを見ても、山の麓まで、田んぼがずっと続いていた。 ところどころに農家の集落と、小さな森。そこに
2020年10月21日 13:20
振り向くと、タミ子だった。お地蔵さんのような微笑みを浮かべている。 勝木課長も足を止め、不審そうな顔で振り向いた。「あんた、何もんや?」タミ子はそれには答えず、枯れた田んぼと用水路の間、あぜを指さした。「よく見てごらん、箒目が残ってるだろ。鑑識の人は気づいてたよ」 言われてみると、あぜに動物が引っかいたような跡が残っている。箒で掃いた跡にも見えた。「なんなんや? それが」「犯人が、
2020年10月20日 11:17
「第一発見者から、事情を聴取していた」「そないな些事は、我々に任せて下さい」 余計なことをするなと、顔に書いてある。「いや、問題ない」 短く切り捨てた。相手の顔が、少し強張るのがわかる。だが、あえて玲子は無視した。「それで、向こうの様子は?」「現場検証は、だいたい終わりました。鑑識の岩堂さんが引き上げてええか言うてます。一応、警視にも了解をいただこうと」 面倒くさいが、渋々といった様
2020年10月16日 13:07
秀造が、三人に駆け寄る。すぐ横に立って、紹介を始めた。「第一発見者のお三方です。こちらは、山田葉子さん。それから、矢沢トオルさんとタミ子さん。通称、おかあさんです。ヨーコさんは、元料理雑誌の編集長で、今はフリーの日本酒と食のジャーナリストです」「日本酒と食のジャーナリスト?」 葉子が、微笑みながら、うなずく。「毎日、飲んで、飲んで、食べて。たまに、書いてます」 瞳をキラキラと、輝かせた
2020年10月14日 14:15
田んぼは、初めてだった。 米を追う仕事を、しているのにもかかわらず。 ただ、たまには署を離れるのも、いいものだ。稲の上を渡る風に吹かれながら、葛城玲子は思った。 いつ降り出すかわからない天気だが、田んぼの現場検証も悪くない。後ろに控える部下、高橋警部補もそう感じているようだ。「今のところ、目撃者は見つかっていません」 所轄の警官が、散発的に報告に来る。「田んぼにはありませんが、農道
2020年10月9日 12:33
黄金色の山田錦の穂が、天に向かって美しい弧を描いている。一方、そのすぐ根元に、青黒く染まった穂が、倒れ伏していた。『天津風の田に、毒をまいた。残りの山田錦が惜しかったら、五百万円用意しろ』 新聞から切り抜かれた文字列が、ピエロのように踊っていた。書体も、大きさもバラバラ。右や左に傾いている。不思議に読みやすい文章だが、リアリティがなく、どこか、嘘っぽい。 世界一とも謳われる、烏丸酒造の特
2020年7月24日 11:39
プロローグ 山田錦の苗は、まだ若くて青く、夕暮れの空は、群青から橙へと染まりつつあった。 初夏の風が、渡って行くたび、柔らかい葉先が踊った。田植えの直後は、無垢で美しい。 多田康一は、田んぼのわきに、身を隠していた。ふと、子供時代のあだ名、妖怪『うわん』を、思い出す。ひょうたん顔に、大きな目。物陰に隠れて、人を脅かす妖怪だ。 今の自分に、ぴったりではないか。不届き者の不意を打ち、懲らしめて