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『PIXAR 〈ピクサー〉 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話』ローレンス・レビー

Point

  • 状況を嘆くより、次の一手をどう指すかを考える

  • 交渉は、譲歩できるラインを決める

  • クリエイティブな才能を発揮するには、それができる環境を守らないといけない

はじめに

ピクサーは世界的に有名なアニメーション会社で、私も『トイストーリー』や『ファインディングニモ』『カールじいさんの空飛ぶ家』など大好きな映画が多い。

そんなピクサーを支え、立て直した著者の体験を綴った一冊。

事実は小説よりも奇なりという印象を受けた。

本のこと

PIXAR 〈ピクサー〉 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話

ローレンス・レビー

Memo

ストーリーが大切

ピクサーで私が学んだことと言えば、なんといっても、ストーリーが一番大切ということだ。クリエイティブな面でピクサーをリードするジョン・ラセターの言葉を紹介しよう──「きれいなグラフィックスを作れば人を数分は楽しませることができる。だが、人々を椅子から立てなくするのはストーリーなんだ」

直感を信じろ

「ローレンス、きみは、もっと自分の直感を信じたほうがいい。それだけの経験は積んでいるはずだ。スティーブの望みをかなえられなければ、あるいは、きみがすべきだと思うことができなければ、そのときは辞めればいいんだよ」

配られた手札を嘆くより、次の一手

私は、配られた手札を嘆いても始まらないと若いころに学んでいる。仕事や人生についていろいろと教えてくれたメンターがいたのだ。チェスの名人が盤面を見るように事業を観察する人で、その彼から「駒がいまどう配置されているのか、それを変える術はない。大事なのは、次の一手をどう指すか、だ」

すべてを作り込まないといけないアニメーションの苦悩おとすごさ

こういう技術的課題が制作中のアニメーションにとって大きな制約となっていることが私にも次第にわかってきた。『トイ・ストーリー』が動物や人間ではなく、おもちゃのアニメーションなのには理由があったのだ。おもちゃはプラスチックでできている。表面は均一で微妙なむらがない。肌を描く必要もない。動くたびにあちこちしわができる服もいらない。コンピューターで描くにはおもちゃのほうがずっと簡単なのだ。映画がアンディの寝室から始まるのも同じ理由だ。寝室は全体が単なる直方体だし、そこに置かれているベッドもドレッサーも、扇風機や窓やドアも、戸外に存在するあれこれに比べると幾何学的で描きやすい。光の処理も簡単だ。  技術的に難しいシーンは、最後の 10 分間だ。ウッディとバズがおもちゃの車に乗り、道を走るトラックを追いかけるシーンである。ここで街路樹に葉っぱがなかったりほかに車がいなかったりしたらぶちこわしだろう。『トイ・ストーリー』のすごいところは、その物語とキャラクターがすばらしいことだけでなく、不可能とさえ思える制約条件のもとで制作されている点にもあるのだ。

映画にかける予算の裏側と、ライブラリー

そんな話だとは思っていなかった。映画スタジオは、ヒット作が生まれて失敗作の穴を埋めてくれることを期待しつつ、いろいろな映画に予算をばらまいていたとは。 「映画の製作というのは、事業としてそれほどいいものではありません。新作で成功するのは大変です。価値があるのは、むしろライブラリーのほうですよ」 「というと?」  スティーブが尋ねる。 「国内外の映画館で人気を博した映画は、スタジオのライブラリーに収蔵されます。いい映画は、長年にわたり、くり返し鑑賞されますからね。ホームビデオのような新技術が登場したことも大きいですね。ともかく、大手スタジオは、どこも、膨大なライブラリーを持っていて、そこから収益を上げているのです」

暇なときでも従業員への支払いがある「持越費用問題」

だが、このモデルから得られた数字を並べてみると、ハロルド・ヴォーゲルが、なぜ、映画会社が株式市場を通じて資金調達するのは困難を極めると言ったのかがわかってきた。投資家好みの安定した利益を出すのはまず不可能。それどころか、興行成績が少し変わっただけで利益が出なくなるなど、リスクがすさまじい。アニメーションには「持越費用」というやっかいな問題もあった。  持越費用とは、制作の作業をしていない社員にかかる費用だ。たとえばアニメーションの作業が終わり、アニメーターの仕事がなくなっても、給与は払わなければならない。ピクサーのように会社が小さいと、持越費用で利益など吹っ飛んでしまう。これはウォルト・ディズニーの時代から続く問題で、アニメーションへの参入障壁になっている。この問題は、実写映画では発生しない。プロデューサーや監督から、俳優、カメラ、エキストラなど関係者を制作のたびに集めるからだ。彼らにお金を払わなければならないのは制作にかかわっている間だけで、あとの面倒は見る必要がない。  アニメーションスタジオはやり方が違う。アーティストもほかの関係者も、全員がスタジオの従業員で、キャリアの初めから終わりまで同じ会社で仕事をする人も少なくない。彼らには映画を制作しているか否かにかかわらず給料を支払わなければならず、制作で忙しくしている期間以外に支払う従業員給与の負担が大きい。上手に計画して暇な期間を作らないようにしないと、ヒットを飛ばしても、その利益が持越費用に消えてしまいかねないわけだ。

文化なしにイノベーションは生まれない

シリコンバレーなどというものがどうして生まれたのだろう。私は、昔から不思議に思っていた。新興企業の仕事をするたび、スタートアップが自分たちの市場を食い荒らすのを、資源が潤沢で経験豊かな経営陣がそろっている大企業が指をくわえて見ているのはなぜなのだろうと思ってしまうのだ。コンピューターの世界を何十年も牛耳ってきたIBMや、グラフィカルユーザーインターフェースを発明したゼロックスがみずからマイクロソフトやアップルにならなかったのはなぜなのか。時代をさらにさかのぼるなら、鉄道会社が航空会社になっていてよかったのではないのか。いまの仕事に関係が深いものとしては、ディズニーがピクサーになっていないのはなぜなのか。ピクサーに成功のチャンスがあるのなら、何十年も王としてアニメーション世界に君臨してきたディズニーがコンピューターアニメーションに乗りだしているはずではないのか? 答えは、当然、そうしていてよかったはず、だ。では、なぜ、そうしなかったのだろうか。  理由はひとつしかない。文化だ。私はそう思う。  文化は目に見えないが、それなしにイノベーションは生まれない。新しいものを生みだす元は、普通、状況や環境ではなく個人だと考える。そして、その人をヒーローとしてあがめ、そのストーリーを語る。だが、その実、イノベーションは集団の成果である。天才がいなければ生まれないかもしれないが、同様に、環境が整っていなければ生まれない。活気も大事だ。だから、なんとしても、ピクサーの文化と活気を守らなければならない。

シリコンバレーをまとめるシステム、ストックオプション(その会社の株を将来的に買える権利)

スタートアップというところは、創業者と社員が戦利品を山分けすることを前提にまとまっていると言える。ストックオプションがあるから、安定した職ではなく、リスクの高いベンチャーに飛び込むという人が多いのだ。これはスタートアップ成功の分け前を手に入れる方法であり、シリコンバレーで広く流通している貨幣である。ストックオプションにより、シリコンバレーは現代版ゴールドラッシュの現場となっているのだ。  ストックオプションとは、その会社の株を将来的に買える権利である。代金は実際に株を買うときに払えばいいのだが、その値段は、オプションを受けとったとき(入社時であることが多い)に固定される。だから、入社後、会社が大成功し株価が天に昇っても、オプション設定時の価格で買える。あとは全部儲けだ。たとえば、入社時に1株1ドルで千株のオプションを受け取れば、5年後、株価が100ドルになっていても、1株1ドルで購入できる。つまり、1株あたり 99 ドルが儲かる、あるいは、1000株全体で9万9000ドルも儲かる。ミリオネアやビリオネアをシリコンバレーが輩出するのは、こういうからくりがあるからだ。

『トイストーリー』公開前に定めた、事業計画4本の柱

これで、やらなければならないことが出そろった。前代未聞の大ヒットを生みだしたうえで、以下の4点を実現すればいいのだ。 ・取り分を4倍に増やす ・制作費用として7500万ドル以上を調達する ・制作本数を大幅に増やす ・ピクサーを世界的ブランドにする  簡単な話だ。

IPOの先駆け、オランダ東インド会社

私はずっと法律と経営を仕事にしてきたわけだが、その経験から、IPOほど難しく、リスクが大きいものはないと思っている。戦略、財政状態、法律、市場環境がぴったりかみ合う奇跡のようなことが起きないと実現できない。IPOというのは、大昔から難しいと言われているのだ。ちなみに、その起源は400年近く前、なんと、ナツメグにさかのぼる。   20 世紀の武器はイノベーションだが、 17 世紀にはナツメグやメース、クローブ、シナモン、コショウ、ショウガといったスパイスだった。スパイスは欧州で珍重され、食品の保存用、医薬品や媚薬の原料、王侯貴族への献上品、さらには、取引の対価としても使われていたが、すべて、遠い国から輸入されていた。たとえば、バンダ海に並ぶ小さな火山島、バンダ諸島。当時、ナツメグの木があるのは世界でここだけだった。往復は船で2年もかかったりする。このような遠征が確実に行われるようにと、各国政府は一部の貿易会社に独占権を認めていた。  そのような会社のひとつが1602年創業のオランダ東インド会社である。ここは、香料諸島とも呼ばれるモルッカ諸島を圧倒的な力で支配し、初の多国籍企業として世界一の力と富を持つ会社になった。200年近くも貿易の世界を支配したのだ。このオランダ東インド会社が、1604年、株を投資家に販売した。いま、IPOと呼ばれているものの先駆けで、これで航海の資金を得たのである。株が売買できるようにと、近代的な株式市場を初めて作ったのもオランダ東インド会社だ(アムステルダム証券取引所である)。ここでオランダ東インド会社の株を買い、その船が戻ってくるのを待ってくれというわけだ。

映画の歴史に1ページが書き加えられる瞬間

ほどなくみなが席につき、照明が落ちると、場内がしんとなった。そして、コンピューターアニメーションの世界が生き生きと動き出すのをじっと待った。そう、本当に生き生きと動くのだ。  映画が始まると、我々は、ここで単に映画を見ているのではなく、映画の歴史に1ページが書き加えられる瞬間を見ているのだと感じた。私は絵コンテも見ているし、ラフアニメーションも、光の処理がまだできていないシーンも見ている。だが、歌やサウンドトラックが添えられ、きれいな色に仕上げられた完成形は別物だった。すばらしい。シドが改造したおもちゃの完成形も、このとき初めて見たのだが、彼らが助けてくれようとしているのだとウッディとバズが気づいたシーンはこみ上げてくるものがあった。ふたりがシドの家から逃げだすのを彼らが手伝うシーンもすごくよかった。また、ウッディとバズがロケットで飛ぶシーンでは、思わず、心の中で歓声を上げてしまった。映画のシーンとしてすばらしかったのもあるが、ほんの数カ月前には技術的に不可能だと思われていたシーンができていたのに感動したのだ。

ジョン・ラセター「チームを信じてください」

「みなさんの心配はわかります。本当です。でも、我々は、無難な映画など作りたくないのです。我々としては、ストーリーやアニメーションの限界を突破するような作品を今後も作り続けたい。ウチのストーリーチームは特別です。ビジョンもすばらしいし懐も深い。その力を信じるべきです」

ジョン・ラセターたちのストーリーチームを信じ、クリエイティブな決断を任せる

「一番大事なのはストーリー」をお題目にするのと、それを信条に行動するのとは、天と地ほども違うことなのだ。

ディズニーとの再交渉

新しい契約条件
1.クリエイティブな判断の権限
2.有利な公開時期
3.収益は正しく折半
4.ピクサーブランド

PIXARをブランド化させる再交渉

さまざまな契約をまとめてきたが、これほど気持ちが高ぶったものはなかったと思う。  翌朝、ニューヨークタイムズ紙が次のように報じた。  ウォルト・ディズニー社は、昨日、ピクサー・アニメーション・スタジオと5本の映画を共同製作する異例の 10 年提携を発表した。この背景には、収益性の高いアニメーション映画をハリウッドが重視しつつあることがある。  5本の映画については、費用も収益もロゴの取り扱いもディズニーと新興のピクサーで均等となる。映画は「ディズニー・ピクサー製作」となり、実質的に両スタジオがひとつのブランドになると言える。

ボブ・アイガー新CEO

顔合わせのミーティングが始まると、いままでのディズニーとは大きく違うことがわかった。スティーブとアイズナーがくり広げた化かし合いやポーズの取り合いが見事にない。アイガーは駆け引きなし、策略なし、ポーズなしなのだ。切れ者で単刀直入、率直な男である。ディズニー・ピクサー間で、この 10 年、ここまで前向きな話し合いはなかったと言える。  スティーブもアイガーが気に入り、このあとふたりは友だちとしていい協力関係を築いていく。アイガーから、アニメーションは彼にとってもディズニーにとっても大切だとの話もあった。会社の根幹であり、彼のビジョンはそれを取りもどすことが中心になっている、と。そこまでぶっちゃける必要は本来ない。というか、アニメーションが必要だと言えば言うほど、ピクサーに有利になってしまうのだから。だが、それが彼の流儀なのだ。そして、そのやり方は、スティーブに対して魔法のように効いた。

感想

トイストーリー、ファインディングニモなど、有名な映画を多く生み出しているピクサー。

そのピクサーが、事業としてにっちもさっちもいかない状態にあり、最高財務責任者として招かれた著者の体験を書かれた一冊。

儲けの出ない事業ばかりで、しかも新たに取り組んでいる『トイストーリー』は世界初のコンピューターアニメーション長編映画でありまったくの未知数。

社員と、オーナーであるスティーブ・ジョブズとの関係も悪い。

スティーブ・ジョブズからは「早くIPOを」とせっつかれる。

そんな地獄のような状況で招かれた著者は、一つずつ問題解決にあたる。

「どんな状況にあっても、嘆くより次の一手を考える必要がある」ということを学んだ。

結果的に大成功したピクサーだけど、「一歩間違えば」という崖っぷちを何度も歩いてきて、いまがあるのだなと本書から知った。

凄まじい才能があっても、それを発揮できる環境を作り、整える人がいないと武器を振るうことができない。

会社はチームで、人間はチームでコミュニケーションを取りながら、役割分担をすることができたら、ここまで発展した。

自分の仕事においても、規模の差はあれ、思い当たることは多くあった。

どんな時にも前向きに、「今なにができるのか?すべきか?」を考え続けることが、成長につながるのだと本書から学んだ。


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